なんか長期の連続キャンペーンみたいになってる(連載開始してまだ二カ月と二十日です)

―――まさか、見知らぬ人々と共に火を囲める日が来るとは。

女海賊は、周囲の軍勢を見回しながら思った。

夜の砂浜。兜を外した生首を傍らに置いた彼女は、人間たちの輪に混ざって座っていた。

彼らが女海賊を恐れる様子はない。商業都市の軍勢は、魔法的怪物を日常的に目にしているからだった。

だが、それだけではない。

本職は吟遊詩人だという市民兵のひとり―――彼らの中には石工もいたし哲学者や浴場テルマエの管理人もいた―――が歌うとある物語を聴いて、女海賊はその理由を知った。

五十年近く前に作られた英雄譚。戦場で斃れ、不死の怪物と化してなお信仰心を喪わなかったという、太陽神の神官の物語。

女海賊と同じ、首なし騎士デュラハンだったというその女性は、幾多の戦いを経てひとりの賢者と出会ったのだという。商業都市出身の、老いた賢者と。

彼女は南岸の奥地。大砂漠のオアシスで、蜥蜴人リザードマンらとともに闇の軍勢を退けたという。戦いの後、蜥蜴人リザードマンたちの魔法を学ぶべく、オアシスにとどまった彼女の去就は知られていない。現在も蜥蜴人リザードマンらの住まうオアシスは残っているが、彼らに尋ねると、女性は旅立ったのだそうだ。

再び生命を得るために。

彼女は目的を達したのかもしれないし、あるいはまださまよっているのかもしれぬ。それは分からない。

だが、この偉大な先達が残した伝説のおかげで、女海賊が今、人々に受け入れられているのだけは確かなことだった。内海に広く流布したこの英雄譚のおかげで、首なし騎士デュラハンという不死の怪物の実態が驚くほど正確に伝わっていたからである。

永い間孤独だったというその女性の心境が、女海賊に歯痛いほど分かった。首と胴体が生き別れた不死の化け物を、誰が愛してくれよう?

先人への感謝を捧げながら、女海賊は、炎を見つめ続けていた。


  ◇


輪の中に入っている女海賊の様子を見て、女怪スキュラは複雑な心境だった。

ともに化け物の姿。にもかかわらず、女海賊はありのままの姿で人々に受け入れられている。

女怪スキュラも、変身の加護を解いた上で彼らの輪の中に入って行きたかった。恐らく、軍勢は彼女も受け入れてはくれるだろう。

だができなかった。巨体が邪魔になるということを差し引いた上でなお、その勇気がなかったのである。その点では最初から選択肢のない女海賊がうらやましくもあった。

ただ。

化け物でも、生きていていいのだ。その事実だけは、彼女の胸に強く刻まれた。


  ◇


翌朝、太陽が昇る前。

女海賊は、手渡された品物をしげしげと眺めていた。

円形の盾。

皮で覆われた直径60センチほどのそれは、骨の組み合わせでできている。

表面に描かれているのは魔除けの邪眼イヴィルアイ。縁は深い青で、内に行くにしたがって白、水色、黒と塗り分けられている目玉模様だった。

死霊魔術ネクロマンシーで作られた魔法の盾なのだ。

女海賊へと盾を手渡した太守曰く、「私の友人からの贈り物だ」とのこと。

ありがたくそれを頂戴した女海賊は、これをどうやって使うかに関して相談すべく、仲間の下へと向かった。何しろ彼女は生首を抱えて戦わなくてはならぬ。

というわけで、女占い師に盾を見せたところ。

「―――師匠」

とつぶやいてから、絶句。

どうも彼女の師匠が造ったものらしいが。

結局、盾は背負っていくこととなった。首を自分で持たずに済むときは手で持って戦えばよい。

そうこうしているうちに、太陽が昇った。

人々を慈しみ、優しく守る偉大な太陽神が、目覚めたのである。

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