ただのドラゴンじゃなくて物理攻撃無効のドラゴンです(ひでえ)
―――見破られたか。
上空から状況を見守っていた長老は、内心で舌打ちした。相当な手練れがいるようだ。厄介な。
手勢は部族の者たち数十名ほど。うち十数名ほどを幾つもの隊に分け、各方面から潜入させていた。術で姿を隠し、忍び込もうとしたのだ。しかし先ほど上がった、裏手側からの凄まじい咆哮が術を破った。かけ直しても無意味であろう。
やむを得ぬ。次善の策と行こう。
手勢には露呈した場合の計画も伝えてある。可能な限り敵勢の注意を引き、時が来れば撤退せよと。
頭の中で手順を再確認すると、長老は降下。自ら娘を奪取すべく行動を起こした。
◇
裏手側。二名ずつの班に分かれて突入しようとしていた三つの班の
対する女勇者は大きく息を吸い込むと、強烈な吐息を吐き出した。
断末魔すらなかった。人型の炭がよっつ出来上がり、そしてたちどころに崩れ去る。
まさしく瞬殺であった。
―――なんて、強い。それに、美しい。
その光景を見ていた少年騎士は、女勇者の実力に感嘆していた。竜語魔法の強さについて知ってはいた。されど実際にその実力を目の当たりにしたことで、崇敬の念にも近しいものが生まれつつあったのである。
―――このひとが、己の竜ならばよいのに。
そこまで思考が及んだ段階で騎士は苦笑。確かに女勇者はいずれ竜になるであろう。だが己は彼女に跨れるような器ではない。
そんな彼に対して、敵を一掃した女勇者は告げた。
少女を守れ。ここは己が片づける、と。
「分かりました」
少年騎士は首肯すると、屋内へ戻った。
◇
「家々へ走れ!魔法が来るぞ!!」
切り殺した数名の敵勢すべてが
村の外周は遮蔽物が少ない。だが村の家々は半地下の石造りで、なおかつすべての建物は通路でつながれている。更に言えば高所であった。ちょっとした砦なのだ。少々の攻撃では致命傷を受けづらい。
他の者が駆けだしたのを確認し、自らも走り出す村長。
短い草で覆われた斜面を走る一同。近づく家々。
いけるか。
そう思ったとき。
彼の斜め前を走る若者の背に
前方に開いた扉。
そこへ若者を押し込み、自らも飛び込んだ瞬間。
村長の背に、矢が突き立った。
◇
裏手側を指揮する
村の家々より飛来する矢弾。されどそのことごとくは、
その前に立ちふさがったのは戦斧を携えた女魔法使い。
先の
果たして、女魔法使いは奇怪な行動に出た。戦斧を投げ捨て、衣を脱ぎ捨てたのである。
―――何を?
脳裏を横切ったのは疑念。
されど、詠唱した術が完成する。火球の術が。
ほとんど一斉に、十数名からの魔法が投射された。
たった一人に集中した火力が、凄まじい爆炎と煙を。そして粉塵を巻き起こした。
「やったか」
あれだけの攻撃を受けたのである。どのような大魔法使いであろうとも助かるはずもない。
そのはずだった。
煙が突き破られたとき。頭は、ぽかん、とそれを見上げた。部下たちも、頭にならった。
なんだ。なんなのだ、あれは。
どうして。なぜ、突然、あんな場所に小山のような巨体が出現しているのだ?
なんだ、あの怪物はなんだ!?
彼らの眼前に出現していた巨体。頭から尾の先端まで十五メートルはあるだろう。鱗に覆われた全身。すらりとした長い胴体。強靭な四肢。鋭い翼。凶悪な牙。それらを兼ね備えた黒き成竜が、体の側面を
あれが魔法の産物だということは頭にも分かった。だが、それ以上は何もわからぬ。あのような怪物に姿を変える魔法があるなどとは!!
あの巨体に生半可な魔法が通用せぬことは明らかである。たった今証明された。敵との力量差は明白。だが逃げ切れるのか!?
うろたえる
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