弱い神などいない(あの火神の妹神やからな)
深夜。
村の各所には鳴子を始めとするちょっとした罠が設置され、男たちが交代で見張りをしていた。
彼らと共に村の外周を見回りしている
混血児の少女の神官としての格は明らかに彼自身よりも高い。もちろん信仰心と、そしてその魂の強さ故であろう。神によって加護を与えられたのである。
だが、彼女に正式な神官位を与えてやるのは不可能ではないにせよ、大変だろう。村の中で暮らすだけならまだいい。だがいずれ巡礼の旅に出なければならぬ。いかに高潔な魂を持っていようとも、闇の種族の姿である。苦難の連続になるはずだった。いっそ旅の魔法使いにでも預けた方がマシかもしれぬ。高位の魔法使いはフードで顔を隠す特権を持つから。人前に姿をさらさずに済むのである。とはいえ今村に逗留している魔法使いは、聞けば人間性を捨てて竜に近づく魔法を修めているという。知性の裏側に潜む獣性を村長は感じ取っていた。人間らしく振舞うのにたいそう苦労していたのだ。彼女に頼むのは難しかろう。
彼は少女の母親を知っていた。同じ神殿―――と言っても小さな礼拝堂に、各々の実家から通っていたが―――でともに勤めに励んでいたのである。
だから。
まずは、この侵入者どもを切り捨てるとしよう。
すらりと抜刀した彼は、神に祈った。自らの魂の奥底に築いた祭壇を通じ、加護を願ったのだ。
氷神は彼の請願に応えた。それは、陽光を反射し、生きとし生けるものの目を焼く雪の輝きを刃に宿す、という形で顕現したのである。
それは、
「曲者だ!!魔法で隠れているぞ!!」
一刀で切り捨てた曲者が
刃の輝きは弱まったものの、まだ残っている。目を焼く威力は瞬間的なものだが、不可視の魔力を打ち破る霊力と、そして悪しきものを切り裂く
雪明りの加護であった。
今。侵入者どもとの死闘が始まろうとしていた。
◇
村の裏手より接近しつつあった
こうなれば目当ての娘だけを連れ去るのは不可能であろう。皆殺しにするか。まずは、民家から飛び出してきたあの女を始末するとしよう。戦斧を手に、白い衣を身に着けたあの女を。どうせ己の姿は
そのはずなのに。
何故、女はすれ違う直前、戦斧を振るったのであろう。
どうして、己は胴体から真っ二つになっているのだろうか?
急速に意識が失われていく。
分からぬ。獣の鋭敏な感覚でも持たぬ限り、こちらの姿を捉えることなどできぬはずなのに。
分からないまま、刺客は死の闇に包まれて行った。
◇
家を飛び出した少年騎士は、先に飛び出た女勇者が何もないところで戦斧を振るったのを目の当たりにした。同時に飛び散る血しぶきと、
竜の鋭敏な感覚を宿し、敵を察知したのであろう。
恐るべき力量であった。とても真似できぬ。
だから、騎士がまず行ったのは地面を見る事。踏まれ、折れ曲がった草を目にした彼はその場に跪き、握りしめた砂利を広く放った。
砂利が、何もない虚空にぶつかるのを見て取った騎士は踏み込んだ。鞘走った大剣を振るったのである。
返り血が、騎士の
◇
戦いぶりはまずまずといったところか。
女勇者は、後方の少年騎士をそう評した。
倒した敵は
女勇者は大きく息を吸い込んだ。かと思えば、それを最大限の威力で吐き出したのである。
―――GGGUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOO!!!
発されたのは咆哮。原初的な言葉であるそれは、秘めたる力強さで、村を包囲していた闇の種族の魔法を揺さぶった。彼らの姿を覆い隠していた魔法を吹き払い、真実の姿をさらけ出したのだ。
現れたのは、多数の
正体が明らかになった以上、もはや正面切っての戦いの時間だった。
女勇者と少年騎士。二人は、刃を構えた。
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