寝過ぎには気を付けよう(どうやって気を付けろと)

陽光が降り注ぐ墓地。

そこの一角に、小さな墓碑がある。闇の軍勢と戦い、若くして死んだある太陽神の神官の墓が。

しかし、その下には遺骨がない。敵に捕まり、処刑されたらしいのだが、遺体が見つからなかったのだ。

墓を手入れし、祈りを捧げる老神官は時の流れを振り返った。

あれからもう何十年たったのだろう。あの方にお仕えしていた当時、自分はまだ十かそこらの侍者アコライトだった。人生五十年というが、自分はそれに従えば寿命はとっくに過ぎている。いつお迎えが来てもおかしくなかろう。

やがて老神官は立ち上がり、そして神殿へと戻っていった。

陽光に照らされている墓碑。

そこに刻まれた名前は、女勇者のものであった。


  ◇


まさか帰還にこれほど手間取るとは。

見覚えのある山々をながら苦笑しているのは、斧を担ぎ、生首をぶらさげ、白い布を衣とした女勇者。

元々、半年もの間宛てのない放浪を続けていたのである。道筋などいちいち記憶していなかった。逆にたどるだけでも大変に苦労したものである。覚えのない村があったり、逆にあるはずの村落が消えていたのも混乱の原因だ。己の記憶力に自信がなくなってしまった。まあ死んでいるのだからその辺の精神の働きに悪影響が出ているのかもしれないが。

それでも、少なくとも辛い旅路ではなかった。昼は地の底に眠り、夜は旅を続ける。陽光に苦しめられない上に、体や気力を回復させる算段もようやくついたのだ。

最後の行程は、走る。太陽が昇る前に山頂まで行き、そこで故郷の村を見下ろしてから眠りに就こう。

険しい山の頂まで、一気に駆け上がる。

草木も生えぬ、岩の頂上。

そこから、山のあちら側を見下ろした女勇者は、担いでいた戦斧を取り落とした。

―――なに。あれ。

懐かしの故郷。

そのはずだったのに、ないのだ。

知っているものが。

いや、人家はある。あそこにあるのは神殿だろう。だが。

放浪していたのが半年。帰還にかかったのもそれくらいだろう。戦場に出ていた期間は1年ほど。合計二年といったところのはず。

なのに。

―――あの、とても大きな街並みは、何。

小さな村だった。少なくとも、戦場へと出立した時には。

たった二年で、あんなに巨大な城砦都市になんてなるはずが、ないのに。

女勇者が見下ろした故郷。

それは、まったく知らない場所になっていた。

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