水着回なのに露出減ってない?(というか今まで全裸)
それは湖畔での出来事。
小屋から少々歩いた先にあるそこでは、ふたりの女が魚を獲るべく活動していた。
女勇者の手にあるのは、少女より借りた銛。先端は三つ又の青銅製。
一方、少女が手にしているのはまっすぐな木の枝の先端を尖らせただけのもの。
道具に差があるというのに、漁の成果は少女の方が圧倒的に上であった。
「ほら。また獲れた」
お見事、と少女を称賛する女勇者。
楽しかった。
今日の糧を得るために魚を獲り、水がくるぶしまで濡らし、陽光を全身に浴び、体を動かして疲労する事が。その全てが、とても心地よく、まるで夢の中にいるかのように、幸せだった。
夢ならば、覚めなければいいのに。
女勇者の、ささやかな願い。されど、醒めない夢は存在しない。そして、
だから、幸福が終わるのは必然である。
◇
異変へ最初に気付いたのは、少女だった。
「あら?」
少女が視線を向けた先。
女勇者の体を這い上がって来たのは、湖水。それはたちまちのうちに口を覆いつくす。どころか、その奥。肺にまで侵入し、内部を満たしたのである。
女勇者は、本当に久しぶりに、ごく当然のことを思い出していた。
息ができなければ死ぬ、という真理を。
水に包み込まれれば呼吸などできぬ。急速に酸素が枯渇し、意識が遠くなる。苦しい。口を覆う水を取り除こうと手をやっても、へばりつく液体を取り除くことはできない。女勇者は、大気中でありながら溺れつつあった。
少女は即座に事態を理解した。水の精霊の力を借りた、何者かの魔法。女勇者に対する攻撃であると察知したのである。
そうと分かれば、少女の行動は早かった。水へ、退去を命じたのだ。力ある文言によって強制したのである。
ぶつかり合った二つの魔法は打ち消し合い、即座にその効果を終了。女勇者の口から水が吐き出されて行く。咳き込む女勇者。
少女は素早く駆け寄ると、女勇者を連れ、銛を拾い上げて水辺より上がった。
これが攻撃なら、次が来るはず。
そう判断した少女は、女勇者を連れて木陰まで走った。咳き込みながらの女勇者に出せる限りでの話だが。
それが、彼女らを救った。
大地。そして盾とした木へと突き立ったのは多数の矢。二人を正確に狙ったそれらは、想定外の動きの速さによって回避されたのだった。
木陰より顔を出した少女は、敵勢が闇の種族であることを確認。
「どうして、この場所に?」
少女の知る限り、この世界には闇の種族はいないはず。にもかかわらず、どうして?
分からなかったが、この場をしのげなければ二人とも死ぬ。少女は肉体があったし、女勇者も意味は違えど終わりがある。魂は不滅だが、それを土台として形成された記憶や精神はそうではない。死者とて死ぬのだ。この世界でも。
反撃しなければならなかった。
少女は、銛を手に取った。木を削っただけのそれに呪力を籠め、そして敵勢へと投じる。
宿り木―――寄生植物より造られた銛は、ある意味で生きていた。瑞々しい生命力を宿していたそれは、空中で急激に成長し、枝分かれし、伸長し、そして敵勢を貫く。かと思えば、そ奴らに寄生したのである。急激に精気を奪われ、そして砕け散る闇の者ども。
亡骸は粉々の瘴気と化し、風に吹かれて消えて行った。
もとより実体などなかったのである。怨念が生前の姿を克明に形どり、行動をなぞっていただけの影。少女にとっては自明のことだった。
だが。一部始終を見ていた女勇者にとっては、違う。
◇
―――どうして?自然の生命じゃないなら、なんであいつらは太陽に焼かれていないの?
木陰で身を守っていた女勇者。彼女の脳裏に疑問が浮かぶ。
女勇者の知識では、闇の魔法や不浄なる怪物は陽光で焼かれなければならなかった。それが、秩序を守る太陽神の加護。この世の理に反する限り、あらゆるもの、特に邪悪なるものが破壊されるはずだった。
だが、敵勢は焼かれていない。奴らは確かに、見た目には生きた肉体を備えているかのように思えたが、少女の魔法で粉々の瘴気に砕けたではないか。実際は闇の種族たちの亡霊ではないのか。にもかかわらず、奴らは、陽光に焼かれていない。いや、そもそも女勇者自身、陽光で何の苦痛も感じていなかった。己は死者のはずなのに。
棚上げしていた疑念がわき上がってくる。
混乱した彼女は、神に問うた。魂の内に自らの手で築いた祭壇。そこを通じて、太陽神に啓示を求めたのである。
果たして、返答は来た。
『真実に絶望してはならぬ』と。
神の加護は、秩序に反していない限り、適格な者すべてに与えられた。すなわち、
だから女勇者にも啓示は届いた。久しぶりに聞いた、神の声。神と繋がったことによる反動以上に彼女の魂を打ちのめしたのは、与えられた啓示の内容。
真実とは一体何なのか。
それを彼女が知る時は近づいていた。
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