初心に帰ってみました(むしろ初代より過酷)
朝日が優しく照らす大地。
それを女勇者は進んだ。門を抜け、陽光で燃え上がっている不浄なる怪物ども。その間を歩きながら。自らも陽光に否定されつつも。
そんな彼女へと向けられたのは、恐怖。次いで、刃。
腹部を半ば破壊され、肩がえぐれ、左腕を失い、胸を穿たれ、そして何より首がない、半裸の女。巨大な戦斧を手にした不死なる怪物がゆっくりと歩み寄ってくるのである。当然の仕打ちだった。
既に、城砦擁する不浄なる怪物どもと戦っていた人の類の軍勢は、聖水を振りかけた矢の雨を、女勇者へと降らせた。
それに切り裂かれ、貫かれた彼女は、戦斧の巨大すぎる刃の陰に身を隠す。
―――なんで。どうして、私を射るの?やめて。お願い、やめて!!
たまらず後退した彼女に向け、槍衾が迫った。
斧で薙ぎ払われる槍。されど、幾つかが女勇者を傷つけた。聖水の力では、貫くとまではいかぬまでも。
そして、頭部。女勇者の双眸の合間をすり抜けていく切っ先。
―――え?
そのとき、女勇者は、初めて気が付いた。己の首は、どこ?と。
唐突に、思い出した。あの日の晩、女勇者は首を落とされたのだと。あの地下牢で、とっくの昔に自分は死んでしまったのだと。
―――いや。
湧き出てくるのは否定。
―――いやああああああああああああああああああ!?
女勇者は、かつて味方だった者たちへと背を向け、そして走り出した。
◇
人の類。城砦へとなだれ込んだ彼らが見たのは、敵兵ども。そして、その場に残された無数の屍であった。たった今切り捨てられたばかりの闇の怪物どもである。
城砦内部の制圧は、想定よりもはるかに容易に終わった。
◇
何処をどう走ったのか記憶がない。
だが、全身を襲う陽光の不快感に耐えながら、女勇者はあの地下牢までたどり着いていた。斧を投げ捨て、残った手。震える手で入り口を開き、中へ入った彼女が見たのは、転がった生首。
固く。本当に固く、現実を見据えまいと瞼を閉じた、己自身の頭部がそこにあった。
そうだ。最初から、彼女は知っていたのだった。ただ、認められなかっただけで。自分がもう死んでいて、その死を呪ったから、今この偽りの生命があるのだと。自分自身に不死の魔法をかけてしまったのだと。
神の声が聞こえないのも当然だった。太陽神は許さないからだ。世界の秩序を乱すものを。その最たるものである、偽りの生命。すなわち不死の怪物を。
女勇者が陽光に強烈な不快感を感じるのもそのためであった。
神が彼女を否定したのではない。彼女が、自ら神を否定してしまったのだ。
それでも。そこまで分かったうえでもなお。女勇者は死にたくなかった。生に未練があったからこそ、生き返ったのに。
彼女は、自らの首を抱え上げると、振り返った。そこに転がっているのは戦斧。敵将から奪ったそれを、ここまで引きずって来たのだった。首と斧、二つは同時に持てぬ。手は一本しか残っていなかったから。だが、ここから生きて抜け出すためには武器が必要だった。だから、彼女は、斧にかじりついた。歯で生首を斧の柄にしがみつかせ、その上で戦斧を手で持ち上げたのである。
準備が終わると、彼女は、外へ出た。陽光溢れる、太陽神に祝福された世界へと。
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