なんか暑い…(暑くない?)

星界に浮かぶ鋼の戦神マシンヘッドの一部─―─現地人達が神器と呼ぶ存在は、死の眠りに就いていた。の備える鋼鉄の知性は目覚める必要性を認めていなかったからである。あくまでもは端末であり、本体オリジナルではないからだった。それでも本体が全損しているなら個性パーソナリティを復元するため回収の必要があるが、そうではない以上、行方不明になった武器をいちいちする余力はの原隊にはない。帰還の見込みがないのであれば活動する意味もあるまい。

そんなが、ささやかながらその機能を再活性化させたのは、彼女宛のを感知したからである。共用フォーマットに基づくそれを感知し、必要な能力を備えた全ての知的存在は、高優先度の軍事作戦遂行に支障がある場合を除いて速やかに救助活動に従事しなければならない。

は機能の一部と、行動に必要なだけの知性を蘇生させつつ、航行用器官の再構築を開始した。


  ◇


天空より降り注いだ二つの礫が、岩肌を穿った。凄まじい威力に、祭壇を守護する闇の戦士たちはたじろぐ。

礫は甲冑をまとい、剣で武装し、四肢を持ち、されど頭部を持たぬ。彼女らは死者。女剣士と女戦士が螺旋階段より数キロの距離を飛び降り、敵前へと強襲をかけたのである。

そのまま彼女らは踏み込み、100mの距離を駆け抜け、そして戦士たちを撫で斬りとした。更に、細剣を帯びし女の腰より刃がひとりでに抜ける。魔力ある凶刃。踊る剣リビングソードである。

「来たか」

闇の神霊は、角持つ巫女の依り代の内より見上げた。神殿の中程を。そこに、十三枚の翼持つ半神を。

神霊はを振り上げた。頭上より振り下ろされし強大無比なる素手まほうを受け止めたのである。城砦の一つ程度ならば破壊し得る呪力が激突し合い、しかし見た目には何も起こらぬ。二つの見えざるは、真正面から組みあっていたからである。霊格はほぼ互角。戦いの技量はあちらの方が上にも見えるが、こちらには地の利がある。

「星霊か。また厄介な」

星霊は星神に仕えし半神たちの中でも武闘派と知られる眷属どもである。智を重んじる主に倣い、優れた知識や知恵も兼ね備えてはいるものの、その主なる役目は星神の刃たることであった。道理で丘巨人ヒル・ジャイアントが屠られるわけである。

こちらの狙いに気付いたのであろう。敵は祭壇を破壊しようとしているようだ。だが問題ない。まもなく儀式は終了する。後は神器の降臨を待つのみ。敵勢は、裏切り者と、追手が。―――2名?一人足りぬ。

疑問の答えは、真後ろから来た。

背後からグサリバックスタブ

闇の神霊。彼女が宿る依り代たる娘の腹部を、銀の小剣が正確に貫いたのである。

振り返った神霊は、あどけない顔立ちに険しさを浮かべた黒衣の少年を、見た。

―――馬鹿な!?

隠形の業。それも、神霊の霊視すらも欺く恐るべき力量による奇襲であった。体内の霊的な経路が寸断され、依り代と神霊を結び付けていた繋がりが破壊されていく。それも、重要な臓器を正確に避けながら。

闇の神霊は、確かに武人ではなかった。眼前に顕れた派手な囮に引っかかったのだから。敵半神はで攻撃してきたのではなかった。神霊は、敵が隠し持っていた暗器。すなわちもう片方の素手まほうによってこっそりと運ばれて来た、無力なる人の類にしてやられたのである。

急速に力を失っていく娘から抜け出た神霊は、その首筋を。肉体の防護を失った霊体が、星霊の素手まほうによって鷲掴みとされたのである。

―――ぬかった。時間がかかれば不利と知り、賭けに出たか。

神霊の内を占めるのは後悔。されどもはや動けぬ。物質界における足掛かりたる依り代を失ってしまった。力の総量が互角であるならば、この差は圧倒的。

その時だった。

上方の半神。その向うに見えたのは。闇の神霊の視界に入ったものは。

くる刃。

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