とうとうデュラハンに例のものを着せる事に成功(成功)
朝日が昇り、木漏れ日が差し込みつつある中。
森のかなり奥深く。上陸してから半日、女戦士は目当ての場所へとたどり着いていた。すなわち味方との合流地点へと。
首を持たぬ彼女は、声なき声で命じる。
土の下より起き上がったのは、控えめに言ってもおぞましい怪物であった。陽光を浴びても無事なのを目にしていなければ、闇の魔法の産物と言われても納得の代物である。
それは、臓物だった。腸。胃。肝臓。食道。子宮。その他あらゆる胴体の中身。新鮮なそれらの集合体が、体液を滴らせながら、女戦士へと首を垂れた。
女戦士は着衣を脱ぎ捨て、臓物へと背を向ける。
おぞましき臓物どもは、女戦士の全身に絡みつき、覆い尽くし、隙間をなくし、急激に乾燥。いや、変質していく。
やがて完成したのは、漆黒の甲冑。死霊術師によって生み出された、強力な魔法の鎧であった。
女戦士は、下腹部を撫でる。
この甲冑は、女戦士自身の体内から抜き取られた臓物のなれの果てだった。体内にあってももはや使い道はないとはいえ、いい気持ちはしない。
次いで、彼女はもう一頭の仲間へと呼びかけた。
土が再び盛り上がる。
出てきたのは、馬。見事な毛並みと体格を保ったそいつにはしかし、首がない。
自らの意志で主人に仕えるこの怪物の躰を、女戦士はそっと撫でる。
やがて彼女は、足元に置いていた剣を帯びた。次いで、着衣を畳み、荷物―――強奪してきた魔導書の詰まった革袋―――とともに布で包み、輪にして体に背負う。
旅の支度を整えた女戦士は、愛馬へと飛び乗るとその鬣を掴む。手綱はない。首のない馬に手綱などつけようがないからであった。鞍や鐙も不要。
周囲を見回すと、女戦士は愛馬を走らせた。
それらの一部始終を、遠距離より眺めている一隊があった。
森の外、近くの高台より女戦士を監視していたのは、一見旅人風の男たち。彼らのひとりが手にしている筒状の道具は、交易により港町が入手していた最新鋭の遠見の道具である。魔法使いでなくとも素晴らしい視力を得られるこの宝具によって、彼らは標的に気付かれぬ距離から監視を続けることができた。
彼らは動き出す。追跡する者と、連絡場所へ向かう者とに別れて。
◇
『なるほど。承知した。そなたは監視を続行せよ』
「はっ」
恐るべき霊威を放つのは
時刻は、日暮れ直後。
普通の人間では
だから、後はこの、眼前に佇む魔法使いへと任せればよい。そのはずなのだが。
なんだこの、凄まじい威圧感は。相手がほんの気まぐれを起こせばそれだけで、自分が地上から消えているであろうと思える。
味方のはずなのだが。
『ご苦労であった。では私は肉体へ戻る』
「はっ」
次の瞬間消滅した
◇
野営地の上空へと戻った
素晴らしい。
女神官でもある者は思う。
できればこのままもうしばらく、この格好でいたい。あの狭苦しい肉体へ戻るなどもってのほか!
とはいえ約束がある。任務もある。件の魔導書が、自陣営に大変な問題を与えるという事実は理解していた。故にちょっとばかりいたずらで気を紛らわせたら、肉体へ戻るとしよう。あの狭苦しい我が家へと。
◇
日が暮れた。
そろそろ起きるか、と五体満足な女剣士が泉の中より立ち上がろうとしたとき。
眼前に顕れたのは、女神官の顔。いや、その魂であろう。
彼女は女剣士の首を抱き寄せると、唇を奪った。自らの唇を押し当て、そして舌を口の中へと入れて来たのである。
柔らかい。暖かい。
それはディープ・キッスであった。
やがて女神官は名残惜しそうに唇を話すと、いたずらっぽい顔を浮かべて去っていく。肉体へと戻っていったのであろうが。
狐につままれたような顔をして、女剣士は起き上がった。
陸では、
―――まあいいか。
そんな事を思いながら、女剣士は泉から出た。
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