母に☆を入れられたのでご報告いたします(マヂ)
まずい。
女剣士の内心である。
状況を整理してみよう。
ここは鎧戸が窓にはまった2階の寝室である。右のベッドには老女が眠っているように見える。いや、魂魄が感じられない。死んでいるのか。
で、女剣士の真正面。女神官の肉体が乗っ取られている。顔の左半分を覆っている仮面の仕業であろう。
論理的に考えて、この館の主たる老女が女神官の肉体を奪ったのだ。恐らく若い体へ乗り換えたのだろう。明確に敵である。
で、その敵と対峙しているのが女剣士の生首。
ひとまず逃げよう。女剣士の出した結論である。
「おやおや。尻尾を巻いて逃げ出すのかぇ?―――者ども。捕らえよ」
前方の部屋から何やら
素早く―――あくまでも
と、そこへ。
さっき撃退した
ええい胴体はまだか。自分の体ながら、女剣士は首から下へ毒づいた。
とりあえず
女剣士は
女剣士はまるで毬のように転がり、そして下への階段、すなわち地下室へ消えて行った。
◇
女剣士は考える。
死ぬかと思った。毬のように転がるなど早々できる経験ではあるまい。したくもないが。それよりも問題は敵だ。足をなくしてしまった。もう一歩も動けぬ。時間を稼げば少なくとも胴体はここまで来れるが、その前に魔法で首を砕かれたらアウト。隠れることができればいいのだが―――あ。
周囲を見渡す。魔法の品物が大量にある。そして己が今いるのはそれらの中。何とかなるやもしれぬ。
女剣士は最後の秘術を詠唱開始。万物に宿る諸霊へと助力を願った。いつもより必死に。
◇
―――いない。
地下倉庫に降りて来てみたはいいものの、ここは魔法の品物が雑多に置かれている。隙間にでも入りこまれたら、あの生首を見つけるのは大変だ。
それにしても。気の毒に。
少女武者は心底敵に同情していた。自分とて敵を追い詰め、殺したいとは思わぬ。だが主人には逆らえなかった。
彼女は、主人―――老女に肉体を奪われた先代の犠牲者だった。あの老女の肉体が、この少女武者の本来の肉体だったのだ。それが、奪われた。更に、肉体から引き抜かれたこの霊魂は、少女武者が愛用していた剣に封じられた。
ああいやだ。早く仕事を終えて、鞘に収まって、全て忘れて眠ってしまいたい。なのに相手は見つからぬ。どこへ行ったのだろう?
◇
眼前を通り過ぎていく
それにしても。まさか
これだけ魔法の品々が転がっている中でなら、魔力を察知して発見される危険性は低い。後は胴体がたどり着くまで粘ればよい。―――のだが。
なんだ。何故あの少女武者はこちらを怪訝な顔で覗き込んでおるのだ。やめろ。こっちを見るな。怖い。
女剣士の顔は引きつっていた。
◇
―――こんな壺あったっけ?
と。その時だった。
上の階で何やら切断音。物が壊れる音。戦闘音である。
―――敵か!
少女武者は慌ててそちらへ向かっていった。
◇
どうやらやり過ごした!
女剣士は内心ほっとしていた。胴体到着まであと少し。一体何が起きたのだろうか?まあなんでもよい。命拾いしたのだから。
◇
女剣士の胴体が館へと到着し、入り口を蹴り破って突入した時。そこで、
彼は、飛び込んできた女剣士の裸身を見ると喜色を浮かべた。
「あ―――大変なんです!神官様が!!」
わかっている、とばかりに手を振り、そして抜剣する女剣士の胴体。彼女は、2階よりこちらを見下ろす女神官。いや、その顔を持つ老女を睨みつけた。
老女は、傲岸さを隠そうともせずに言った。
「やれやれ。胴体がついてしもうたか。こうなる前に頭を潰したかったと言うに。まぁよい。お前に、主人の体を斬れるかのぉ?」
斬れない。女剣士はそう断言できる。まあ女神官は主人ではなく友人だがそれはさておき。
だが、斬れないということは、剣を全力で振り下ろせないということを意味しない。
女剣士は、階段を駆け上がると、細剣を遠慮なく振りかぶった。
「ひぃぃぃっ!?」
老女の悲鳴にイラっと来る。ええい情けない。女神官の体でそんなひょろひょろした避け方をする奴がおるか!その女はうちの道場でも五指に入る腕前だぞ!!
女剣士による立て続けの攻撃。後方で戦う黒衣の少年からも非難の声が上がるが無視。
そして壁際へ追い詰められた老女に、刃が降りかかった。
咄嗟に身を庇う老女。その直前で、剣が静止していた。
女剣士は細剣を手放し、踏み込み、そして仮面をはぎ取ると握りつぶす。
女神官の肉体は、そのまま崩れ落ちた。
◇
「―――寝ている間にそんなことになっていたとは。すまなかった」
女神官の発言である。
戦いのあと。命令者を失った魔法生物どもは大半が大人しくなった。
館の1階入り口。
生首を抱え、一糸まとわぬ女剣士。女神官。黒衣の少年。この3名に取り囲まれているのは少女武者である。少女武者は、全てを正直に話した。
あの仮面に宿っていた老女の魂は、今まで何度も肉体を交換してきた邪悪な魔法使いなのだと。少女武者自身も肉体を奪われ、
その意味では女剣士の動きは間一髪であった。さもなくば間に合わなかったであろう。
少女武者の霊魂は跪き、そして懇願した。この剣を砕いて、己を殺してくれと。あの肉体はもう死んだ。仮に戻れてもあそこまで老いてしまえば長くは生きられぬ。だから、どうせなら今すぐ殺してくれと。
一同は顔を見合わせた。
聞いてみれば随分と悲惨な身の上である。女剣士としても他人事ではない。ひょっとすればあの古城で女神官を殺し、そして未来永劫吸血鬼の奴隷として生きねばならなかったやもしれぬのだから。
女剣士は、思案の末告げた。
「……ぁ………」
この日から、彼女の腰に吊るされる剣は3本となった。
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