やはり小屋に泊まったら襲撃されるよね(もはや常識)

周囲を異形の怪物どもに囲まれる中、女剣士は剣を抜いた。両手剣を。首は小屋に置いてきた。友人ならば守ってくれるだろう。

敵の攻撃は己に通じぬことが確認できた。魔力を帯びぬこの剣でも問題なかろう。むしろ重量とリーチがある分こちらの方がよい。薙ぎ払ってくれる。

と、女剣士は扉の前へ陣取った。


  ◇


「まずいな。とりあえず防御を固めるぞ。窓から離れろ」

「はい……っ!」

女神官の指示に、少年は己の小剣を取り、腰に帯びる。長剣は腕を喰われた時に失った。右手は使えぬが、彼は左手でも剣を扱えるよう訓練を受けていた。

すらり、と逆手に抜いたのは銀の刃。

「珍しいな。二刀流か」

「おわかりですか」

銀は不浄の怪物をはじめとする、魔法の武器でしか傷つかぬ敵をも弑する。されどその強度は低く、そして銀そのものが鉄よりも貴重であった。故に、鋼の長剣を防御に使い、銀の小剣を攻撃に使う独特の二刀流で戦う者達がいることを、女神官は知っていたのである。

女神官も、脇に置いてあった戦棍を手に取った。次いで、置かれて行った女剣士の生首も。

「外は彼女に任せて大丈夫だ。魔界獣アザービーストは魔界の魔力の産物だが、魔力で生きてるわけじゃない。生命のありようはそのままに、肉体が歪んだんだ。既に死んでいる彼女には通用しない。私たちは自分の身を守る事だけ考えよう」

「はい」

「ああそれと。そこの細剣も持って行ってくれ。私は手が足りない」

「承知しました」

上手く動かぬ右腕で女剣士の細剣を拾い上げると、少年はしっかり握りこんだ。

かまどの火が燃え盛る中、闇夜の攻防戦が始まろうとしていた。


  ◇


―――化け物どもめ。

獣は視線を外せば襲ってくるものだが、そもそも首のない女剣士は外すべき視線そのものがない。敵が襲ってくれば、ここから動かず迎撃できるのだが。奴らは徐々に包囲を狭めては来るものの、なかなか襲い掛かってこなかった。警戒しているのであろう。

かといって前に出るわけにはいかぬ。小屋の出入り口が無防備となるからだった。中の女神官たちがこの数に襲われれば一巻の終わりだ。

その時だった。

後方で、木が砕け散る音。

動揺した女剣士へ、怪物どもが飛びかかった。


  ◇


背後の壁を突き破って来たのは、猫にも似た頭部。一抱えもある頭を持った猫がいるのであればだが。

壁の穴にひっかかったそいつの額めがけ、戦棍が振り下ろされた。頭蓋が砕けた怪物は即死だ。

「お見事」

「大したことじゃない」

軽口をたたき合いながらも女神官と少年は警戒を崩さない。されど薄壁一枚でも有効な防壁になりうることが確認され、女神官は笑みを浮かべた。これが外なら大変なことだ。

―――さあ。次はどっちから来る?

全方位を警戒していた彼女らの予想外の方向から、敵は来た。

真上から。


  ◇


敵が一斉にとびかかってきた瞬間、女剣士は踏み込んだ。空中で方向転換できない異形の獣どもめがけ、剣を一閃。更に足元から来た敵に膝を叩き込む。

一連の動作で、怪物6体が絶命。

素早い動きで扉の前へ戻る女剣士。

―――悪くない。

少なくともこの剛力と不死は、剣士としてはプラスにこそなれ、マイナスではない。

女剣士は久しぶりに、己の肉体へ感謝した。


  ◇


頭上を突き破って来た、蛇の胴体を持つ魚は、その凶悪な牙を女神官へ突き立てんとした。まさしくその刹那、銀の光がきらめく。

血を噴出しながら絶息する異形の怪物。

「―――君もやるじゃないか」

「光栄です」

少年も、笑みを浮かべた。


  ◇

 

「しかし結構な数だな」

「……ぉ」

女神官は考える。

魔界獣アザービーストは肉体が歪んではいるが、魔力で生命を維持しているわけではないので陽光は致命的ではない。朝まで粘っても無駄だということだ。この分では今どれほどの数がいるか分かったものではないし、今もなお増殖中であろう。今すぐ突破せねば手遅れになるやもしれぬ。

彼女は足で火に土をかけ消すと、皆へ告げた。

「これは明日の朝なんて悠長なことは言っていられないな。逃げられるとも思えん。それなら死中に活を求めよう」

「……ぁ……」

「同感です。道案内はお任せください。この辺は庭みたいなもんです」

「頼もしいな。準備はいいか?―――行こう」

一同は女剣士を先頭に押し立て、小屋から飛び出した。

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