コメントしたいことが多すぎるのに1話に1回しかコメントできないの酷くないですか(自分で定めたルールやろというか急いで書け)
港町は神殿の街である。
元来、大河の川岸。その北側に星神の神殿。南側に水神の神殿が存在し、それぞれの周囲には別個に門前町が存在していた。さほど距離が離れていなかった両者は発展していくにつれ、とうとうその街の境を接したのである。そこに、水運で財を成した豪商たちが加わり、最終的にはそれぞれの神殿の長及び豪商、彼らに助言をする賢者らからなる合議制で運営されるひとつの都市となった。
徒歩で一周するには半日かかると言われるこの大都市は、度重なる闇の勢力との闘争や水害による破壊、再建を経ながらも今なお、拡大し続けている。
◇
港町の外周を巡る堀と、そして何か所かにかけられた跳ね橋。その外側にある木造の門は、神殿によって祝福された縄が巻き付けられている。ただの人の類であれば何も起きぬが、何らかの手段で姿を偽った者が通ろうとすれば苦痛を与える結界であった。
そこでは門衛たちが旅行者たちを待ちかまえ、検分している。とはいえ門の霊力があるため、門の脇を抜けようとでもせぬ限りはほぼ素通りなのだが。
最も、彼らとて自らの仕事に対してそれなりには忠実である。手を抜けば巡り巡って自分が死ぬことになるかもしれぬからだ。だから、森を抜けてくる街道の向こうから現れ、そして門の手前で馬車を降りた麗しい2名のご婦人方に対して警戒心を露わにしたのも無理のない事であろう。下心などない。ないはずであった。
◇
行く手を阻まれた女騎士はどきっとした。無理もない。本人の感覚では相変わらず首を小脇に抱えているのだから。さっき乗せてもらった馬車の2人には、女騎士の事が五体満足の麗人に見えていたようだが。
術が破れたのかと不安になった彼女に対し、門衛は告げた。
「お嬢さん、今日は何の御用で?」
「……ぅ……」
答えようにも声は出ない。厳密に言えば霊的な発声はできるので魔法使いとの会話は差し支えないが、肺が首と繋がっていないために肉声が出せないのである。
「ああ、すまないね。その娘は声が出せないんだ。用向きはあたしに頼むよ」
女騎士の代わりに答えたのは赤いローブととんがり帽子をかぶった、肉感的な美女。老婆であった。こちらが彼女の本来の姿らしい。本人曰く「年相応の格好をしてないと若いのに舐められる」とのこと。
若作りの老婆に対し、門衛は顔を向けた。
「何の用でここにきたのかと」
「魔法使いは出入り自由のはずだけどね」
「あー、その、本当に魔法使いなのかどうかを」
うろたえる門衛に、老婆は苦笑。この手のやり取りは何度も経験済みなのだろう。
彼女は頷くと、指を門衛の帽子に向けた。
「これでいいかい?」
ひとりでに、帽子の止め紐がほどける。かと思えばそいつは、門衛の耳を足場にして跳躍。止め紐が足となり帽子は着地した。
「あー……」
拾おうとすると逃げ出す帽子。それを追いかける門衛。
自分たちの周りをぐるぐると回り出した彼らを見て、老婆はクスリ。
ようやく捕まえた帽子をかぶり、止め紐を悪戦苦闘して止めた同僚を横目に、もう一人の門衛が訊ねた。
「こちらはどんな魔法を?」
問われた女騎士は少し考え込み、質問してきた門衛の額に軽く右手の人差し指を当てた。
魂を肉体から押し出された彼は、自分の後頭部を目撃する、という奇怪な体験をした。かと思うとすぐに元通りになる。
「あー……どうぞ。お通りください」
彼女らの正体を確認する、という名分を果たした門衛たちは道を開けた。
彼らの間を通り、女騎士と老婆は門をくぐる。
「……ぁ」
不快感。
陽光と同じく神々の加護をその力の源とする結界は、女騎士が感じている不快感を増加こそさせたが、苦痛というほどのものは与えなかった。これが仮に、術で顔を変えてでもいたならば七転八倒していたはずである。「別に外見を偽るわけじゃないからね」とは老婆の言。彼女が女騎士に授けた魔法は、魂の姿が他者に見えるようにするというもの。魂の姿であろうとも真実の姿には違いない。女騎士の霊体そのものは五体満足だから、常人、いや魔法使いであっても人間と誤認するはずだ。老婆のように魂の姿を自由に選択できるような大魔術師の場合、もはや変幻自在である。
この魔法を教授された際、女騎士は困惑した。魔法使いは、基本的に他人へ自分の門派の魔法を教えない。それでも教えを乞う場合は大変な対価が必要だ。弟子は身内だからこそ、魔法を伝授されるのである。
老婆曰く「あれだけの呪物だ。あのトウヘンボクを探しに行くだけじゃおつりがくるからね」とのことだが、女騎士にとってこの魔法は、人生の根幹すら揺るがしかねないものだった。
人里に入れるのだから。
一体どれだけ焦がれていたのだろうか。
橋を渡った先、堀の内側に広がる市街地。
時折鼻の下を伸ばした男が彼女らの方をちらちら見ていくが、それを除けば女騎士の姿を気にする者は、いない。
知らぬうち。涙が出て来た。
「……ぅ……ぁ……ぁ……」
「おうおう。可哀想に。辛かったんだね。まったくあのボンクラめ、若い娘さんを人前に出られない体にしておいて。何考えてんだか」
女騎士の肩を抱く老婆。彼女らは連れ立ち、街の中心へ向けて歩き出した。
◇
何やら騒がしい。
門衛の一人は、同僚たちが何やら魔法使いの女二人組相手にわいわいしているのを横目に、仕事をこなしていた。それにしても今日は日が強い。かなわんな。
やがて、同僚たちから解放された女の横顔を見た彼は、愕然とした。
見覚えのある顔。先日、森の中で戦い、命からがら逃げだす羽目になったあの
驚愕している門衛を尻目に、女たちは門をくぐった。特に何も起きない。他人の空似か?
分からない。分からないが、判断がつかぬことは全て報告せよ、というのが司祭様の命令だ。
仕事が終わったら、お伝えしなければ。
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