くっ殺から始まるデュラハン生活
クファンジャル_CF
第一部 神獣編 (主人公:女騎士・死霊術師)
第一話 女騎士、死す
くっころから本当に殺す奴見かけないんで本当に殺してみました。(他に事例があったら教えてください)
「くっ!殺せ!」
「そうか。死ね」
振るわれたのは、鉈のごとき刃。
視界がずれる。頭が落下する。石畳の床にぶつかり、転がる。
―――ああ。首を刎ねられても意識はあるのだな。
そんな事を思う。
最後に。
首のない体。甲冑に身を包んだ死体。つい先ほどまで自分のものだったそれが、力なく崩れ落ちるのが目に入った。
窓から差し込む月光が照らし出す自分の体が、女騎士の目にした最後のものだった。
◇
「うわぁ。ひっでえなあこりゃ」
奇異な男だった。
身に着けているのはローブ。着古してはいるが上等な作りのそれは、フードで男の顔を深く覆い隠している。手には杖。まるで隠者のようななりであったが、彼が歩いているのは月光が降り注ぐ古城―――それも、放棄されて久しい廃城である。
彼はひとりではなかった。周囲には剣と盾で武装した幾人もの兵士を引き連れている。
否。
それを幾人と数えるのは差支えがあろう。彼らは、一切の肉を持たぬ、骸骨であったから。
まるで生命あるかのように自然な動作で進む兵士たちは、高等な魔術で生み出された動く死体に違いあるまい。
恐ろしく俊敏で高い練度を伺わせる彼らは、男を守る陣形を崩す事がない。
周囲に散らばるのは血臭。ふと目をやると、腸をはみ出させ、糞尿をまき散らして息絶えた兵士の残骸。
一体だけではない。無残な肉片がそこかしこに散らばっている。
「あぁあ、もったいねえなぁ。ここまで壊れてると役に立たねえんだよなあ」
男はぶつぶつと、転がっている死体に視線をやりながら進む。
その様子はまるで値踏み。
つい数日前に行われたのであろう殺戮の痕を気にする様子は全くない。
と。
振動。
地震―――
「じゃねえな」
骸骨の兵どもが集合。振動の源へ向けて陣形を整え、男を守る構え。
城の構造物。朽ちた木造の兵舎。その向こう側から姿を現したのは―――
―――GUUUUUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
そいつの振るった棍棒の一撃は、受けた盾ごと骸骨兵士を粉砕。
防御の余地などなかった。質量が違いすぎる。
「
青白い肌。盛り上がる筋肉。不自然なほどに小さい目は三白眼。下あごから伸びるのは二本の牙であろう。頭部から伸びている短い角は実用にはなるまい。必要ないのだろう。
そいつは、鋼鉄の肉体を持ち、小屋ほどもある巨人であったから。
同僚の末路に目もくれず、骸骨兵どもは突進。巨鬼の死角へ回り込もうと巧みな動きの彼らはしかし。
―――UUUUUGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
蠅を払うような動作。ただそれだけで、2体の骸骨が砕け散る。
それでも敵の股下までたどり着いた4体目の骸骨。
彼が突き出した剣は、澄んだ音を立てて砕け散った。
「おいおい……冗談じゃねえぞ」
反撃で叩き潰される骸骨。
残る骸骨は2体。逃げる算段を考え始めた男の耳に、何やらガヤガヤと音が届く。
「ゲッ」
振り返ってみれば、門の向こう側からやってくるのは軍勢であった。
それぞれ武装や鎧兜はひどい有様。ロクに整備もしてないのか、錆が浮き、刃こぼれしているのが見て取れる。
だが問題はそんな事ではない。武装の持ち主。それは人間ではなかった。
最も多いのは
そして奴らの中央。怪物どもに守られるように歩いている黒いローブの長身はおそらく
この古城を根城とする闇の軍勢であった。総数は見える範囲だけでも百近い。
―――なんでこんなすぐに帰って来たんだ!?
出払っている隙を狙ったはずの男としては鉢合わせしたくない相手NO1である。控えめに言って絶体絶命だ。
前門の
逃げ道はないかと視線を巡らし―――
城の基部。塔の出入り口に目を付けた男は、そこへ飛び込んだ。
◇
入り口は狭かった。
元来が人の類が建造した施設だったからだろう。おかげで男は、入り口に引っかかる敵を尻目に地下へと逃げ延びることができたわけだが。
だがこれは時間稼ぎに過ぎない。出口をみつけられなければ、戻って来た軍勢になぶり殺しにされるだろう。
残った2体の骸骨を率いて地下へと降りていく男。
この手の塔の地下は、牢屋と相場が決まっている。死体もあるはずだった。
この状況を打開するためにはそれが必要なのだ。
男は、
元々は、闇の者どもを討つべく派遣され、そして消息を絶った人族の軍勢の屍が目当てだった。死体は彼にとっては貴重で重要な資産なのだ。
だが、死体漁りに来て自分が死体になっていては笑えない。
やがて降りた先。
石造りの塔。その最下層、扉を開けた先。窓から月光が差し込む場所で、死霊術師は、女と―――首を切り落とされた屍と出会った。
◇
―――ああ。暗い。寒い。みえない。私の体はどこ?
「……っ。…こ……か?」
―――だれ?
「……繋がった。おい、聞こえるか?」
―――さむい……たすけて……
「助けてやる。助けてやるから、俺の言う事を聞くか?」
―――きく……だから……
「よし。契約成立だ。頼むぜ。お前さんに俺の運命全部ベットするんだからな!」
◇
「頼むぜぇ……」
上の方では騒がしい剣戟の音。骸骨たちが敵軍をせき止めるべく、交戦を開始したらしい。もう男の手持ちのカードは0。
眼前に横たわるのは、甲冑をまとった女の遺体。
死後数日と言ったところか。寒冷なためか、腐敗はさほどではなかったが、その顔に浮き出た死相は慣れた男にとってさえ悲惨さを感じさせた。
首と胴体が切り離されているほかは外傷なし。と言いたいところだったが、秘部から流れ落ちる黄ばんだ腐汁を見れば、屍がいかに辱められたか想像もつく。
清めてやりたいところだがその時間がない。
窓から降り注ぐのは満月の光。男は腰のポーチから幾つもの呪物を取り出すと、遺体の周りに並べ始めた。
いずれも貴重で高価な魔法の品ばかりである。だがこの際贅沢は言っていられない。己の全知と全能を賭けてこの死者を黄泉還らせなければ自分も同じ運命をたどるのだから。
焚きしめられた香が、場を清めた。
「……ぅ」
屍の首筋から小さな音。臓腑から漏れ出た空気であろうか。
背後で轟音が―――雷鳴が響く。今夜は晴天だというのに!
振り返らずとも分かった。秘術によって呼び出された雷霆が投射されたのである。あれでは骸骨兵はひとたまりもあるまい。
それらを無視し、男は一心不乱に詠唱を続けた。死者へ呼びかける言葉。月に捧げる祈り。そして―――死へ叩きつける呪い。
背後で、扉を開けようとする音がした。
最初ガシャガシャと。次いで殴りつけるような音。つっかえ棒で塞いでいるが、いつまで保つことやら。
やがて、呪句が終わるのと、扉がはじけ飛ぶのは同時。
「目を覚ませ!」
死者が目を、見開いた。
◇
骸骨兵どもに、小鬼が大勢殺された事はどうでもいい。奴らは放っておけばいくらでも増える。なんなら自分で増やしてもいい。だが、略奪行へ向かうはずが、とんぼ返りすることになったのは許しがたい。
それもこれも、部屋の―――地下牢の真ん中で何やら祈りを捧げているニンゲンのせいだ。男は楽しみがいがないが、それでも四肢を切り落とし、悲鳴を響かせれば気も晴れようというものだった。
そこまで考えた時。
不意に、男の陰から何かが立ち上がった。ニンゲン。柔らかな体を包む甲冑は見覚えがあった。
だが。
首がない。にもかかわらずそいつは、立ち上がっている。
訳が分からない。分からないなりに彼は手にした鉈を構え―――
眼前に、女がいた。
そいつはまず、
体がずり落ちる。視界が落下していく。階段下へ転がった。
彼が最期に見たもの。それは、ローブの男に抱きかかえられた女の頭部だった。
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