第二話〜淡雪の夜に・前編〜

しんしんと雪が降るトウキョウの冬。今年は爆弾低気圧に襲われ、以前にも増して寒さに拍車が掛かっている。

「はぁ〜……さっむ」

サクサクと音を立てて雪を踏みながら帰路につきながら式部雪兎しきべゆきとは真っ白になった息を吐き出した。周りを見渡せば皆それぞれの事情で忙しそうに、ある者は書類を見ながら、ある者は携帯で電話しながら歩いている。

「…………良いよなァ……」

──呑気に過ごす事が出来て。

皆自分の事情でそれぞれの日常を過ごす。雪兎にはそれが呑気で凄く羨ましかった。

──どの道皆死ぬのに。

ケホッと咳き込みながら歩き、思う。雪兎自分に遺された時間はあと幾ばくだろうか……。医者に言われた余命はそう長くは無かった。来年まで生きられれば良い方だと言っていた。実際自分でも生命が磨り減っていくのを、じわじわと感じる。

「…………ひさかたの 光どけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ……」

紀友則。和歌編纂集の一人で紀貫之の従兄弟。この歌が雪兎は好きだった。この歌を聴くだけで凝った思いがフッとほどけて楽になる気がする。……そんな訳が無いのに。

「ケホコホッ……」

「…………ユキユキ大丈夫かァ?」

「茜……」

「まァたサボったんけ、ガッコ。たまにゃあ来いよォ?」

背後から飛び付くように抱きついて声を掛けてきたのは、小学校からの幼馴染み燕辰茜やすときあかねだった。

茜は知っていた。俺が後少ししか生きれないコト。知っていてこうやって笑って接してくれる。茜自身も辛いハズなのに、『ユキユキの方が一番辛いのに俺が泣くのは論外やろ?』っと笑って言ってくれる。それが一番楽で心配だった。

──……茜は俺が死んだらどうするんだろうか……?

ふと幼馴染みの顔を見ながら疑問が湧いた。この幼馴染みあかねなら俺以外の友人も居るし、俺が居なくなっても大丈夫だろうか? それとも……

「ユキユキ〜? まァた要らんこつ考えよんや無かろうな?」

「うっ……ソレは、その……」

俺の思考はしっかり幼馴染みにバレていたらしい。コイツは鈍そうで時々鋭い所があるから困る。

「俺の事は心配せんで良い言いよろうが。ユキユキは要らん事に気ィ回し過ぎやで?」

「…………そうかもな」

幼馴染みの優しい気遣いが染みる。茜は明るいしさり気なく気遣いが出来る。俺みたいな協調性の無いネクラとは本来なら縁もゆかりも無い存在だ。なのに俺とよく一緒に居る。何が悲しくて一緒に居るんだろう……?

「ユキユキ〜今日な、担任がアホな事やらかしてなぁ〜?」

「へぇ……何したんだ?」

茜が今日あった面白い出来事を話してくれる。

茜と暫く話しながら家の近くの十字路で別れ、家に向かって歩き出した時だった。──彼と会ったのは。


「どうも〜? 君が、『式部雪兎』君で合ってるかなぁ?」


────……真っ黒な猫を連れた死神が微笑んでそう言った。

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骸骨のマリアは死を謳う 幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕 @Kokurei

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