海の雫

城戸 奏

第1話 朝

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピピピッ、ピピピッバン!


『んー、、、』


枕元の時計のアラームをオフにして、タオルケットを引き寄せ直す。外からの風が心地良い。


『ん?』


違う違う。起きないと。えーっと、今日は朝練があって、英語の宿題は昨日したし……。

考え出すと一気に頭がすっと冴えてくる。俺は起き上がると、昨日準備した学校の鞄の中を確認し、階下へ降りた。良い匂いがする。母親が朝食を作ってるのだ。まだ5時ちょっと過ぎだから、もう起きている母親は凄いといつも思う。


『おはよ、陽太。お父さん起こしてきてー』


そう言いながら、フライパンからウィンナーを皿に乗せると、まな板の上の洋梨も盛り付けた。今朝はパンケーキらしい。


『まだ起きとらんと?』


とりあえず、俺は顔を洗った。地下水から引いた冷たい水が肌を引き締めて気持ち良い。

もう一度2階へ上がると、父親の部屋をノックした。


『開けるとよー?』


返事はない。まあ、起きてないときはいつもノックくらいで返事はない。ドアを開けると父親はすやすやと枕を抱き抱えている。細身な身体に白い肌、長い手足に長い睫毛。少し面長ではあるが整った顔立ち。俺はこの人に似てるらしい。父親のことは好きだが、似ていて嬉しいかと問われれば少し悩む。もう少し男っぽい要素が欲しいところだ。高校生になったのに余り肩幅がないことも気になる。


『父さん、起き。父さん!』


肩を揺する。


『んー、わかったんじゃがー』


モゾモゾと半目のハムスターのような顔で起き上がった。それを確認して、


『先下行っちょるねー』


俺は階段を下りる。


途中、窓から射し込む朝の澄んだ木洩れ日がきらきらと眩しい。


今日こそは。


そう決意を新たにし、俺は朝食の席に着いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海の雫 城戸 奏 @kanadel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ