逆襲のシャリ
逃ゲ水
美味しくも残酷な世界
弱肉強食。それはいつの世も変わらない世界の真理だ。
そして、この世界において弱者とはシャリ、強者とはネタであった。今、この瞬間までは。
一貫ものの皿、それは何人たりとも介入できない絶対の聖域。そこに踏み入ることを許されるのはネタが一人とシャリが一人。だからこそ、俺はここを決戦の地とした。
今頃、皿の外ではネタどもの憎悪渦巻く叫び声がこだましているだろう。何せ、この世界において最強の一角を担う本マグロの大トロが、俺という最底辺のシャリごときに敗れ去ったのだから。
俺は皿の中央で倒れ伏す大男へと歩を進める。力なく脱力した肉体は微細に走る脂肪分がその色を桜色に見せている。この色こそが、この男が最強である証だった。そして、当然ながらその戦闘力はそこらのシャリはおろか、そこそこ名のあるネタでさえもまるで敵わないというまさに最強を語るにふさわしい実力だった。
そんな絶対強者が、敗北し、地に這いつくばっている。これこそが、シャリの俺が夢にまで見た景色だった。そして今、それは現実となった。ならば、今こそ夢の先へ行く時だろう。
俺は激戦のダメージで軋む体を無理矢理動かし、大トロの背に腰を下ろした。
『天はネタの上にシャリを作らず』とまで言われたこの世界の現実を、俺が変えてやる。
シャリに生まれ落ちた、ただそれだけで蔑まれ虐げられたこの人生。その痛みは、その苦しみは、俺だけのものではない。生きとし生けるシャリ全ての願望、それはこの世界の変革。ならばこれは単なる決闘の幕引きであってはならない。この光景を見ているであろう我が同胞のため、俺はこの勝利を開戦の狼煙として捧げよう。
「天は、ネタの上に、シャリを作った!!」
俺はネタどもの阿鼻叫喚とシャリたちの万雷の喝采を、相変わらず無音な一貫ものの聖域で、確かに聞いた。
◆ ◆ ◆
「ねえママ、あのお寿司ひっくり返ってるよ!」
「あら、本当。ご飯さんも上に乗りたかったのかしらね」
逆襲のシャリ 逃ゲ水 @nige-mizu
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