ep.2 新たな運命
「あははっ! いいよ、何が知りたい?」
「えっとね……」
考える仕草をすると、凌太はおかしそうに笑った。それを見て、私が頬を膨らませると「ごめんごめん」と軽く流される。私が怒ると彼はしまった、という顔をして走り出す。その後を私が追いかける。別に本気で怒っている訳じゃない。それを彼もわかってくれている。
こんな幸せを感じるのは初めてだった。
今までとは違う時間を私達は、過ごすことになる――。
★☆
(誰も見てないよね?)
いつものように塀を駆け登って、学校の敷地内に入る。凌太と約束をしている大きな木までは、ここが近道。私はスキップをしながら歩いていると、突然、目の前に三人の女の子が現れた。
「ちょっといい?」
見たところトキツバの制服を着ているからここの生徒なんだなってのはわかるけど、その生徒が私に何の用だろう? 首を傾げていると、その内の一人に見覚えがあった。
ギクリとしたけど、面識があるのは私だけで、恵香は何も言わない。むしろ、彼女の前に立つ二人がうるさく何か言ってくる。
「ちょっと、あんた……どこの生徒? ここトキツバなんだけど」
「知ってるよ?」
「知ってていっつも凌太と一緒にいる訳?」
「そうだけど……何か問題でもあるの?」
「ちょっと、コイツ……恵香から凌太奪っておきながら悪びれた様子を見せないって何なの?」
「奪った?」
一体、何のことを言っているんだろう?
「とぼけないでよ!」
ビクリと身体を震わせると、いきなり肩を叩かれた。
「凌太がいきなり恵香に別れを言い出したんだって」
「えっ!?」
「忘れられない人が現れたから……その子との時間を大切にしたいって……」
「恵香、泣くことないよ!」
「でもぉ~」
(あれ? 今までの恵香と違う……?)
いつもならここで怒って暴力に出るはずなのに、今回の恵香は違う。それに前は友達がいなかったことを凌太にからかわれていたけど、友達がいるみたい。
良かったね、と言いたいところだけど――。
「ちょっと、訊いてるの!?」
「恵香、泣かないで~」
(面倒くさい人達だなぁ……)
私は小さく溜め息を吐いて、辺りを見回す。近くに背の高い木を見付けて、それに向かって走り出した。
「ちょっと!?」
「ごめんなさい、私急いでるから」
勢いをつけたまま木に登り、塀の上を走って行く。三人は突然のことで口を開けたまま固まっていた。
(どうして私が凌太と仲良くしただけで、あんなことを言われなくちゃいけないの?)
頬を膨らませて、怒りに身を任せて跳び下りる。これがいけなかったと、後と思い知ることになった。
「うわっ!?」
「にゃあっ!?」
まさか下に人がいるなんて、思ってもいなかった。しかも猫とは倍以上の体重でのりかかって、押し潰しちゃった。
「ごめんなさい!」
「大丈夫……まさか、ボーとしてたら天使が落ちてくるとは思っていなかったから」
「え?」
訊いたことがある声。胸の奥がくすぐったくなるようなセリフも、どこかで言われたことがある。
(まさか……)
恐る恐る視線を上げていくと、彼は優しく微笑んだ。
「まさにあなたは僕の天使だ」
両手を強く握り締められて、私は目を大きくする。唇が震えて、呼吸を忘れた。
(最悪だ、まさか落ちたのが――)
しかも、打ちどころが悪かったのか、私のことを天使だって言っている。ますます面倒くさい感じになっちゃった。
「あなたの方こそケガはないですか?」
「え、うん……大丈夫だよ」
「へぇ……まるで猫のような身軽さですね。何かされていたんですか?」
「えっ!?」
ギクリとして、言葉に詰まる。猫のような……だから別にバレた訳じゃないよね? 私は康介のことを見つめて、様子を
「僕の顔に何かついてますか?」
「う、ううん!」
慌てて首を横に振ると、彼は何かを思い出したかのように表情を明るくした。
「もしかして、僕に一目惚れしたんですね?」
「え? 違――」
「安心してください。僕はもうあなたの
「はあ!?」
「僕らは初めて出逢った感じがしないんです。きっと、これも何かの運命……」
(この人、何言ってるの? というか、康介ってこんな性格だったっけ?)
私が戸惑っていると、後ろから肩を叩かれた。
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