ep.3 もらえた勇気、繋がる未来
「嬉しくて……」
人間って不思議だ。嬉しくても涙が出る。でも、悲しい時とは違って、胸の奥が少しポカポカするのを感じる。
手の甲で目元を拭い、真っすぐに凌太を見つめた。
「私、がんばるね!」
「何のことかわからないけど……元気になったんなら良かった」
「凌太の御蔭で勇気をもらえた、ありがとう!」
「そう? なら良かった。じゃあさ……」
凌太が近付いてきて、私の手を握る。鼻先がぶつかりそうな距離で、優しく微笑んだ。ドキッと胸が高鳴り、呼吸を忘れる。
「俺にも勇気、くれる?」
★☆
「確か、ここのはず……」
隣街にある高校――通称、
猫だった時は、ここも散歩コースに入っていたからすぐにわかって良かった。人間になってから、トキツバ以外に赴くのは初めてで、何だか緊張する。
【俺にも勇気、くれる?】
その言葉を訊いた時、私に出来ることなら! と元気よく返事をすると、凌太は吹き出して笑った。
どうして笑うんだろ? と首を傾げると、凌太は指先で私の唇に触れる。
「いや、白ならそう言ってくれると思ってた」
それは……私のことを信じてくれたのかな?
「今度、練習試合があるんだ……良かったら応援にきてよ」
「練習、試合?」
「赤綱高校であるんだ、場所わかる?」
「訊いたことある……確か、隣街だっけ?」
「そうそう」
「行く! 絶対行く!」
「じゃあ、応援しにきて」
あとさ、とつけ加えて、頬を赤らめる。
「勝ったら……白のこと教えてよ」
「え?」
「ご褒美、ってこと」
「ごほーび?」
「俺だけ白のこと知らないの、ズルイって言ったろ?」
そう言って、彼は私から離れた。
「約束な!」
(凌太との約束……守らなきゃ!)
意気込んでやってきたのはいいんだけど、困ったことが起きた。
入口はどこ……?
いつものように塀を乗り越えて入ろうとしたら、警備員って人に怒られた。「校門はあっち!」って言われたけど、場所がイマイチわからない。
ここについてからずっと指を差された方に向かって歩いているけど、門らしいのが見付からない。
「どうしよう……」
「カーカカカッ! なぁにしてんだ、お前さんは」
「クロウ!」
塀の上に立つクロウが、クチバシを鳴らして笑う。
「せっかくのチャンスなのに、こんなことでダメにしてもいいのか?」
「うるさいな……わかってるよ!」
せっかくのチャンス、せっかく――。
「今までにない展開になったのに」
「――っ!」
「ククッ……」
「あんた……」
どこまで知っているの? 何を知っているの? この時間では凌太は死なない? 想いを伝えられる? 今度こそ運命を変えられる?
「お前さんのがんばりなんじゃねーのか? ご褒美、もらえるといいなぁ」
翼を動かして、空高く舞い上がる。艶のある黒い羽が空を舞い散り、視界を奪う。手で払い除け終えた時には、もうクロウの姿はなかった。
「何なの、アイツ……」
でも、クロウの言う通りだ。今までとは少し違う気がする。サッカーを教えてもらって、練習試合に誘われた。凌太からアドバイスだってもらえた。
「諦めるのは、まだ早い……よね」
一人で頷いていると、ピーッと笛の音が訊こえる。これで何度目だろ? 何の笛の音なんだろ? サッカーと何か関係あるのかな?
「とにかく、急がないと……」
走り出した、次の瞬間。サッカーボールが飛び出してきた。ピクリッと反応したのは、転がった物に反応したのもあるけど、そこに凌太がいるかも! と思ったからかもしれない。
地面を蹴って、全速力でボールに追いつく。
「りょう――」
両手で拾い、顔を上げる。目の前にいたのは、知らない男の子だった。
(凌太じゃない……)
トキツバのジャージを着ているけど、凌太と髪の色が違う。金色をしている。目だって、優しい感じというよりは、鋭くて少し怖い感じがした。
突然、私が現れて驚いたのか、彼は目を丸くしたまま動かない。
「あ、あの……」
「あ、ごめん……ありがとうございます」
彼は私が差し出したボールを受け取ろうとして、手を伸ばす。凌太が皆を優しく照らす太陽なら、この子は全てを吹き飛ばす北風なのかもしれない。そんな印象を受けた。
「ビックリしました」
「え?」
「いや、突然人が現れたんで……猫みたいだなって」
「えっ!?」
ドキリと心臓がはねる。私は息を飲んで、言葉を失い彼をただ見つめた。
「いや、瞬発力とか……何かスポーツしてるんですか?」
「スポーツ?」
「運動とか」
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