No.69 コロシアムで殺し合うw?
「おっやぁ~w。ようやくご到着かいw」
「遅かったわね、あなたたち♡そろそろ壱岐ちゃんの第三回戦が始まるわよ♡♡」
頭イっちゃってる系(実際イっちゃってる)の二人、平戸さんと藍衣せんせーが試合会場の客席から立ち上がり、手招きしている。
人ごみをかきわけ、開けておいてくれたのか二人の横の空席に腰を下ろす。
「三回戦って、もう二回も殺り合ってんすか?」
「うん。まぁ見てなってww」
平戸さんはニヤニヤしながら顎で目の前を指す。
試合会場は日本で行われていた人間オークションの会場と同等の大きさだった。会場中央にあるガラス張りのリングを客席が囲むような形。
「もう何人も死んでるの?」
「そうね♡♡百人近くは逝ったんじゃないかしら♡♡♡」
「決着がつかないと毒ガスで全員殺されるっていうのは、ホントなんですか?」
「うん、ホントホント。ついさっきの試合も二人しか死ななかったから毒ガスで皆殺されてたよwww」
何食わぬ顔で平然と答えるお二方。さすがはサイコパスとマッドサイエンティストと言ったところだろうか。人の死に何の抵抗も無いようだ。
やっぱ怖いなーこの二人。とか思ってると、客席側のライトが消えた。明かりがリングに集中し、観戦しやすくなる。
「おっ、そろそろ始まるようだねwww」
「これって血とか普通に出る?」
「えぇ、バンバン流れ出るわよ。どうして♡♡?」
「ちょっと、苦手というか......」
サヤ姉は俯き、顔を曇らせる。
「父親が殺されたのをどうしても思い返しちゃうのよね......」
「......なるほど」
「あたし、外にいちゃダメ、よね......。イクミのピンチなんだしね!」
「いやいや仕方ないって」
「そうだぞ、サヤ。思い出したくないものというのは、誰にでもある。無理はするでない」
サヤ姉は過去に父親を殺されている。そのことがトラウマとなっているようだ。
しかし、イクミのピンチを助けてあげられないという気持ちがサヤ姉の足を止めているようだった。
が、師匠が後押しするようにうんうん頷いたことで、サヤ姉の気持ちも和らいだのか『ごめんね』と呟いて会場を後にした。
ま、しょうがないことだよな。
「ていうかさww、そこのロリっ娘はこれ見て大丈夫なのww?」
「ん? あ、そうだよ!! 師匠何入って来てんすか!!」
「げっ。べ、べつにいいではないか!! 我、普通にアール18のゲームしてるもん!!」
「ゲームと現実とじゃだいぶん違うと思いますけどね......」
正直私も血とか苦手なんですよね、と彼杵が頬をかく。
「だったら彼杵。師匠連れてサヤ姉と待っとけよ」
「えっ。しかしぃ、私もイクミちゃんを助け出すと誓ったわけですから......」
「こーいうのは血生臭いのは男に任せときなさい、彼杵ちゃん♡♡♡」
そういうあなたも立派な女性ですけどね。
「そ、それじゃぁイクミちゃんのこと頼みましたよ!!」
「おう。任せとけ!!」
「やだぁ~~。我も見たいぃ!!」
駄々をこねる師匠を彼杵がズルズルと引っ張って二人は外に出て行った。
残ったのは、俺、カズ、平戸さん、藍衣せんせー、松浦、女乃都だけになる。
「イクミは余裕で勝ってますか?」
「んー、余裕はないかな。アニマルガール化してるねwwww」
「何故けもフレ?」
あー、知ってるぞそれ。M○テ出て色々言われてたやつだ。
「とにかく見てみなってwwwほら、選手入場だよw」
平戸さんが指を指した方を見やると、床がいつの間にか地下に下がっていた。
騒々しい機械の駆動音とともに、床がせり上がり十人ほどのイカツイ男女が立っている。その中で異彩を放っているのが一人。
周りは大体黒っぽい服装なのだが、その少女だけはメイド服という場に不似合いな格好をしている。
「イクミ、メイド服のままなんすね」
「返り血ですごいことになってるけどねwwww」
平戸さんの言うようにイクミのメイド服は所々赤く染まってししまっていた。両手に銃を握り、リングに登場してからずっと目を瞑っている。
『Until the game starts,』
試合開始まで、と実況席っぽいところからマイクに向かって男が叫んだ。
と同時に、
「3! 2! 1!」
観客のコールが入る。
そして。
『Start the game!』
試合開始の合図と共に、リング上の殺し屋たちは一斉に発砲。それぞれが飛んだり跳ねたりして銃弾をかわす。リングは十かけ十の正方形で、そこそこは動き回れる程度の大きさ。
そんな中、これまた一人異常な動きをしているヤツが一人。
「あれが、イクミ......?」
「すごいでしょぉ、一回戦の中盤ぐらいからなのよ♡♡勝つためには殺さなくちゃいけない。そんな恐怖心からあんなになっちゃったのよねぇ、きっと♡♡♡」
「ましてやイクミは、腕は良いけど一度も人を殺したことがない。そんな子がいきなり本気の殺し合いに参加させられて、おかしくならないわけがないよねぇwww」
二人はそう言って笑うが、実際問題そんな簡単に済ませて良い話ではない。
当のイクミは、獣と化していた。
目は焦点が合っておらず、口からは獲物を発見し嬉々する肉食獣のように涎をたらし。
動きは人間を捨てたのか、四速歩行でガラス張りのリング上を縦横無尽に駆け回っている。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
イクミに首元を噛み千切られ、蹲り悲鳴をあげる男。そんな弱った男をイクミの手柄を取るように違う選手が撃ち殺す。
「正気を失ってる......」
「そだねww。今のあの子は人とは呼べないねwww」
自分が殺されるかもしれないという恐怖心、殺さなければ強制的に殺されるという恐怖心、生き残るためにも何の恨みも因縁もない人間を殺さなくてはいけない絶望的状況。
コレによってイクミはイクミとしての人格を失ってしまっていた。
イクミは次々と選手に噛み付き食い付きを繰り返し、試合終了のゴングが鳴るまでに四人の人間を葬り去った。
「どしたの高天原くん♡♡? まさか、壱岐ちゃんのこと、もう助けられないかもなんて思ってなぁい♡♡?」
「んなっ、まさか! 俺は何としてでも、どうにか......」
どうにか、出来るのか......。人を殺したことなんて無い俺が。
むしろ俺もイクミのように獣のようになってしまうんじゃないだろうか。それどころか、元の筋力とか体力とかステータスが弱っちい俺は乱入した途端即死だろう。
じゃぁ、何が出来るんだ......? 何もしてあげられないんじゃないのか......。
俺がどうしようも無い現実にうんうん唸っていると、場違いなテンションの声が聞こえてきた。
「お~、そこにいるのはミスター松浦じゃないデスかぁ!!」
「うげっ」
突如後ろから聞こえた陽気な声に松浦が露骨に嫌な顔をする。女乃都は顔を隠して我関せずといった感じ。
陽気な声の主は満面の笑みで松浦の手を取り、ブンブン振って言う。
「ミスター松浦! あなたのおかげでこの大会は大成功デスよ!! ホント、アリガトウゴザイマース!」
「は、ははは。そいつは良かった......」
「おい、松浦? あんたのおかげって、どういうことだ......?」
カズの鋭い眼光にうっと言葉を詰まらせる松浦。
するとその様子を見ていた陽気声がペラペラと喋りだした。
「このミスター松浦がこの大会の弁護人なんデスよ!! いくらアメリカとはいえ、殺しをさせる賭場なんて法律的にアウトデスからね!! 会場の建設中に市から訴えられてしまったんデス! そこで、日本で超凄腕だというミスター松浦に来てもらって、専属弁護士になってもらったのデス!! いや~、ホントすごかったデスよ! まさか裁判で殺しが肯定されるなんてことが起こるとは!!」
「てことは、松浦!! イクミがこうして殺し合いさせられてんのもお前のせいだったってのか!?」
「うっ、まあまあ落ち着きたまえ」
カズは鼻息を荒くして席を立ち上がり、松浦に迫る。胸元を掴み上げ、ユサユサ揺らした。
「わ、私はあくまで仕事をしたまでだ。君たちの仲間がこれに参加させられるなんてしらなかったんだよ......」
「だとしてもなぁ! 人殺しオーケーなんて、やっていいことと悪いことがあんだろ!!」
「ご、ごめんなさい! それは私たちも重々承知です! 取り返しのつかないことをしてしまっているということも分かっています!」
女乃都が松浦を庇うようにカズの腕を握り締める。カズが力を緩め、松浦は咳き込みながら床に崩れ落ちる。
「分かってるなら......」
「さすがに今回はやりすぎたというのは自覚している。だからこそ、私は今あのギャング側に付いたんだよ」
「そうです! こんな事態を招いてしまった自己責任として、今後二度とこの大会が開かれないよう、今はギャングの人たちの弁護人になっているんです!」
「悪いと思ってんなら最初っからこっちの弁護人なんてやらなきゃ良かっただろ!」
「そのときは、知らなかったんだよ!! 殺し屋を集めて殺し合いをさせるなんて!!」
「ヘイ! ミスター松浦!? 我々を裏切るのデスか!?」
それぞれが思い思いの感情を爆発させる中、藍衣せんせーと平戸さんはニヤニヤと面白そうに口を歪める。
「ごちゃごちゃうるさいなぁwwwwww。ようはコレ、壊しちゃえば良いんでしょww?」
「平戸さん?」
のそりと立ち上がり、コレと親指でリングを指す平戸さん。
何をする気だ......?
「僕、この大会でるねwwwwwww」
口裂け女びっくりの笑顔で平戸さんはそう言った。
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