No.68 成金野郎が絶対悪人とは限らないからね?
「生きるか死ぬかの瀬戸際......?」
「そうだ。ヘレンは今、殺し合いを強制させられているんだ」
運ばれてきた料理を少しずつ口に運びながら喋るギャングボス。その表情は穏やかなようで、内には何か黒い気配が感じられる。
「知っての通り、ヘレンは元うちのヒットマンだ。ただ、一度も殺し事態はしたことがなかったがな」
「そーいや、何で一度も人を殺したことが無いのに凄腕だとか言われてたんだ? いや実際凄腕なんだけどよ」
「それは我々ギャングが流したデマだ」
「デマ......」
「あぁ。そういう情報を流しておくことで、下手に敵対しているやつらから狙われないようにしているんだ」
「なるほど」
俺も相槌を打ちながら、コンソメスープをすする。うおっ、何だコレ。めっちゃ美味いじゃん......。
「んで、その殺し合いってのは何なんですか?」
「古代ローマにコロッセオで剣闘士が戦い合っていたのを、現代に殺し屋同士で戦い合わせているのさ」
「ん、どゆこと?」
「簡単に言えば、クソ
「お遊戯会って、まさか殺し合いしてるのを観戦するってことか!?」
「勘がいいな。だがそれだけじゃない。観戦してどちらが勝つか賭けて遊ぶのさ」
カズが驚きのあまりこえを大きくして立ち上がる。
今にも爆発しそうな感情を抑えるように、ギャングボスは唇を噛み締めながら言葉を続ける。
「あいつらは全世界から殺し、暗殺を生業にしている人間を
「そんなのいくら銃オーケーのアメリカでも許されねぇだろ!?」
人を殺し合わせ、それを観戦し賭けて楽しむ。いくら金持ちだろうと許されたことじゃないだろう。
「あぁ、悔しいことにやつらは色んなとこに手を回しているんだ。アメリカの金持ちだけじゃない。世界各国の石油王だの不動産王だのが主催しているんだ。さすがの我々も抗争を始めようものなら......まぁ、結果は目に見える」
「......なるほど」
どうしようもなく悔しい思いをしたのだろう。ギャングボスからは歯を食いしばっていた。
「でも、それって集められた暗殺者たちがお互いに殺し合わなければ良い話じゃないの?」
サヤ姉が身を乗り出してギャングボスに問う。
確かにその通りだ。集められた殺し屋たちが一致団結し、戦いをしないという策をとれば言い放しなのではないだろうか。
「それがそうもいかないんだ」
と、松浦が答える。
「殺し合いはトーナメント制。もし一つの試合で敗者、つまり死人が三人以下だったら......」
「だったら......?」
「試合会場に致死量の毒ガスが放たれる」
「それは、イコール死ってことか......」
ヒドイ話だ。無理矢理集められたあげく、殺さなければ自分も死ぬ。理不尽極まりねぇ。
松浦が説明を終えると、ギャングボスが苦笑しながら言った。
「こういう職業やってる私が人殺しについてあーだこーだ言うのも変な感じだが。私が許せないのは、人と人が殺し合う場を意図的にセッティングし、殺し合わせているところだ」
「私としては、暗殺みたいに一方的に人殺しするのもどうかと思うんですけどねー」
「黙れ平和ボケ」
松浦に睨まれ、舌打ちしながらもしゅんと小さくなる女乃都。いやお前の意見は正しいと思うぞ。ホント。
「じゃ、イクミ......じゃなくてヘレンもその試合に出されてるってなんだな?」
「あぁ」
「あんたが俺たちを連れて来たのは、俺たちにヘレンを救って欲しいからってわけだ」
「そうだ。やっと最初に私が言ったことに繋がったな。だが、一つだけ間違いがある」
「間違い……?」
ギャングボスは人差し指を立て、その指を左右に振る。
「連れて来たのは確かに私の
「イクミが俺たちを?」
「うむ。初戦に出る前の控え室に忍び込んで、聞いて来たんだ」
「イクミが俺たちに来て欲しいって言ったのか?」
「いや、彼女はこう言った。『私なんかがおこがましいけれど、助けてください』と......」
ふっ、イクミのやろ〜〜。
サヤ姉とは違って素直じゃねぇか。サヤ姉は自分が人さらいにさらわれそうだから、もしものことがあったら探しに来るな、なんて言ってたがイクミは違った。
助けに来い、と。厚かましくもわざわざ俺たちをアメリカにまで連れて来させて、あげくに自分のことを助け出して欲しいだなんて。
「言われなくても、助け出してやるっての!」
「ですよねー。全く、イクミちゃんったら私たちのこと信頼してないんでしょうか?」
「あたしもさらわれた時に助けられた恩返ししたいし、出来ることは何でもするわ」
俺はニヤッと笑い、彼杵はプクッと頬を膨らませ、サヤ姉は借りが返せて嬉しいのか満面の笑み。
カズと師匠は何も言わず、黙々と料理に手をつけているが、きっと助けに行く気は満々だ。
「うし、俺たちの意見はまとまった。イクミをそのクソ大会から救い出す。元より、イクミのことは心配してたところだったしな」
「そうか、そうか! ありがとう! 我々ではもう手のうちようもなかったのだよ! 君たちがそう言ってくれて、ホントにありがたい」
ギャングボスが立ち上がって頭を下げる。
その表情は助っ人を頼まれてくれて安心といった感じだろうか。
その時、カズがポツリと呟いた。
「なぁ、ところでよ」
「ん、どした?」
「松浦さんと女乃都さんの二人は何でここにいるんだ?」
「「ギクッ......」」
カズの言葉に二人して肩を震わせた。初めて口でギクッっていう人見たんだけど。
「そ、それはなぁ」
「ア、アレですよ〜」
何を誤魔化してんだ、この二人は。確実に何かしらやましいことがあるんだろうけどな。
「そんなことより! さっさと試合会場に向かいましょう!」
「そうだ、そうだ! 私がリムジンを出すから乗りたまえ!」
松浦と女乃都は珍しく声を合わせて退出を促して来た。この二人が協力するとこ初めて見た。こりゃ、レアだ。
「Good luck」
『幸運を祈る』
弁護士二人に背中を押されながら部屋を出る時に、ギャングボスがサムズアップでそう言った。
次はサイコパスがカッコよく
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