No.47 良い事があれば悪い事があるもんさ?


「一が二つ......」

「しゃぁ! ぞろ目キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 彼杵が拳を上げて、叫ぶ。

 いやいや、そりゃそうだろ。だって平戸さんがサイコロに重りを仕込んでたんだからな!!


「やったじゃない♡♡ディープキスよ、ディープキス!!」

「いや~、ホント持ってるね~神哉くんwwww」

「あんた何笑ってんだよ!?」


 平戸さんの仕込んだ細工によってディープキスの罰ゲームになったんだぞ!!

 いや、......でも待てよ?

 彼杵は俺のことが好きだ。これは紛れもない事実。......別に調子乗ってるわけじゃないぞ。そんでもって、俺も彼杵のことは好きだ。さっきのイクミのように吹っ切れることが出来れば、今すぐにでも大好きだと叫びたいところではある。

 ならば、キスしちゃってもイイのでは!?

 いや、待て待て!!

 それは違うな。罰ゲームで好きな人とキスなんて社会的に、というか一般論的に嫌な感じがする。そもそも、俺はまだ唇と唇を合わせるキスはしたことがないんだ。それなのにいきなりディープキスとかレベル高すぎる。俺には無理だ。

 そんな感じで頭を悩ませていると、


「大丈夫デスヨ、神哉さん! 外国ではキスは挨拶デス!」

「いやいや、お前の故郷じゃそうだろうがなぁ。ここ日本という国ではそんな文化は根付いてないんだよ」

「そんなこと言わないでさ~www。ほら、彼杵ちゃんも待ってるよww?」


 平戸さんが、ソファに腰掛けて見るからにワクワクしている彼杵を指差す。


「だから~! 何で彼杵で決定してんの? 俺が選ぶんじゃないの?」

「あら、高天原くんもしかして。お姉さん好き♡♡♡?」

「あんたは絶対選ばねえよ!!!」


 頬を紅潮させ、胸の前で腕を組む藍衣せんせー。どんだけ自分に自信あるんだよ。いやまぁ確かに、おっぱいの大きさは彼杵を上回るくらいだし、エロさもサヤ姉を超えるレベルなんだけどね。

 しかし、すごいな。俺がツッコミを入れた途端に頬の色が通常に戻った。意識して顔色を変えることが出来るとは。


「神哉くん。私を選んでくれないの......?」

「うっ!! 別に選ばないわけでは......」

「神哉くんは、私と舌を絡ませあい、唾液の交換っこをして、いやらしい音をたてるキスはしたくありませんか?」

「ディープキスの言い方wwwww」

「お前が言うと卑猥に聞こえんだけど!?」

「実際、卑猥じゃないですか? エッチの時くらいでしょ、ディープキスなんて」

「確かにそうね♡だったらもう、ヤルことヤっちゃいなさいよ♡♡♡」

「発想飛躍しすぎだろ!!」


 彼杵のおかしなディープキス解釈のせいで、さらに罰ゲーム遂行に嫌気がさす。だが彼杵の言うことも一理ある。ディープキスを白昼堂々やってる人間は、そうそういないだろう。


「ほれ、キスしろ~! キース! キース! キース!」

「うおっ!? 師匠いつの間に!!」


 さっき発狂して部屋を飛び出して行った師匠が、いつの間にやらソファに座っている。いつからいたのか、キスしろとはやし立てる。


「神哉くん、もう逃げられません。ていうか、お願いします、ディープキスしてください。私、神哉くんのこと好きなんです」

「......彼杵」


 彼杵はえらく真面目な声、顔で俺を真っ直ぐに見つめて言った。真剣な彼杵の気持ちを真正面に受け、俺の心にも深くその言葉が刺さる。

 俺の前に立ち、ゆっくりと彼杵は目を閉じる。そしてチュッという感じで唇を突き出した。


「高天原くん♡?」

「......あ~、わかりましたよ!!」


 藍衣せんせーの疑問系な呼びかけに、俺は決心して彼杵の肩をそっと掴む。目を閉じていた彼杵は、少しピクンと肩を震わせる。


「い、いいんだな、彼杵」

「はい、もちろんですよ」


 俺は彼杵の言葉を聞いて、顔を近づける。ゆっくりと、静かに、だが真っ直ぐと彼杵へ。距離が近づくにつれて、彼杵の女の子特有の甘い香りが強まってきた。自分でも鼓動のスピードが異常なまでに速いことが分かっる。

 そしてついに、唇は後数センチのところまで。

 俺はそこで小さく深呼吸をして、一気に顔を彼杵に寄せた。


「あ、あれ?」


 彼杵は俺の唇が触れた場所を手でさする。

 彼杵のさすっているのは、


「おでこ......?」

「や、やっぱりダメだ。罰ゲームなんかでキスみたいな大事なことをしちゃ。だから、おでこで許してくれ......」


 ヘタレ高天原神哉は、彼杵の唇にはどうしても出来なかった。

 それだけは、キスだけは、しっかりと罰ゲームなんかじゃなくしたかったのだ。自分勝手だとも言えるだろう。だけど、彼杵には待っていて欲しい。

 ダメだな。こんな自己中心的な考え方でいては、いつまでたっても彼杵に告白できそうにない。この性格をまずは改善していかねば。


「ご、ごめんな、彼杵。お前の気持ちに答えられなくて」

「ふふっ、何言ってるんですか! 神哉くんが私のおでこに、私の体の一部分にチューしてくれただけでも、すっごく嬉しいですよ。キスしてくれたってことは、少なからず私のこと、意識してるってことですよね~?」


 そう言って小悪魔な笑みを浮かべる彼杵。ホント、俺はこいつの優しさに甘えっぱなしだ。俺と彼杵は吊りあえるんだろうか。


「おでこにキスするなんてwww結構子供だね、神哉くんwww」

「なっ! 俺、だいぶ頑張ったほうですよ!?」

「おでこにキスするのは、アナタのことを可愛いと思う気持ちの表れ、らしいわよ?」

「それはホントですか!? なんか、照れますね......♡」

「うおおお~! 心理学をこんなところで使うのはやめてくれ~! はずい!!」


 元心理学者の藍衣せんせーの情報に耳まで真っ赤になる俺氏。こうなると心理学者の人と会話ってしづらいな。


「あ、次引くの私ですね~」

「彼杵ちゃんで最後よ♡♡♡!」

「なんかさっきのは、普通にラブラブすぎてウザかったから、少し鬼畜なやつ引いてくれー」

「師匠ひどくない!?」


 師匠のドギツイお言葉が炸裂し、俺のメンタルが傷付く。彼杵はそんな言葉を気にもせず、カードを引いた。が、罰ゲームの内容を見た瞬間、彼杵の顔が曇る。


「え~と、あ、これは......」

「大丈夫か、彼杵。顔色悪いぞ」

「あ、いや、その~。なんと言うか......」

「どんな罰ゲームなんだいwww?」


 平戸さんが彼杵の手からカードを取った。それを皆が覗き込む。


「今まで付き合った人数を発表、そんなにキツイ指令じゃなくないwww?」

「彼杵さん、もしかして付き合ったことないんデスネ!?」

「いや~、別にそういうわけじゃ......。というか、覚えてないというか~」


 彼杵はたはは~と珍しく何かを誤魔化すように笑う。この俺でさえ何かを隠していると分かったのだから、もちろん他の皆も気付いているだろう。


「ふふっ、彼杵ちゃんったら。嘘が下手ねぇ」

「ふぇ!? バ、バレてます......?」

「そんな笑い方、初めてみたしな」

「あちゃ~、困りましたね......」


 彼杵は少し悲しそうな顔をして、すぐに俺たちから顔を背ける。


「ま、いいじゃん。彼杵ちゃんにも触れられたくない過去があるってことでしょ?」

「そうですね。触れられたくないっていうか、......いや、やっぱりなんでもないです」


 前もこんなことがあった。彼杵と知り合って、まだそんなに時間が経っていなかった頃。

 彼杵のことをよく知っておきたいと思って、昔のことを聞き出そうとした。だが、彼杵からの返答は曖昧でうやむやにされてしまったのだ。その後も幾度と聞いてみたのだが、どうしても教えてくれなかった。

 

 何か彼杵には掘り返されたくない、過去があるのだろうか。

 

「あれ、雨止んでる」

「おっ、ホントだ」

「うふふ、どうだった? 罰ゲームトランプ♡」

「面白かったっすよ。また今度、違うゲーム持ってきてくださいよ」

「任せなさい♡♡♡嬉しいわ~、ボードゲームを友達と出来るなんて」


 藍衣せんせーは満足といった表情でトランプを片付け始めた。師匠とイクミはそれを名残惜しそうに見つめている。


 いつか、彼杵に好きだと伝えられたら、過去の事を聞けるのかなぁ。


 そんな少し虚しい気持ちのまま、その日は皆で酒を呑んだのだった。 



 次はロリっ娘ハッカーがついに学校へ!?

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