No.46 ファーストキスが罰ゲームって嫌じゃない?


「本日は~、どんなご奉仕がよろしいですか~♡♡♡」

「し、師匠が師匠じゃないみたい......!」


 絶望と驚きが入り混じった、自分でもよく分からない感情に悩まされる俺氏。師匠のこんな姿は見たくなかった......。


「きゃーー、きゃーーー! カワイイわよ、ツバキちゃーーん♡♡♡」

「ヤバイ、ヤバイよ。この愛くるしさは『萌え』だよ、『萌え』!!」


 藍衣せんせーと彼杵はとてつもなく耳障りなほどに、師匠のメイド服姿の写真を撮りまくっている。まぁ、確かにカワイクないと言ったら嘘になるのだが。

 アルビノ症の影響を受け、美しい白い髪に碧眼という妖精のような外見をしている師匠。白と黒のミニ丈メイド服が合わさることで、一人だけ異世界からの訪問者なんじゃないのかと思わせる。彼杵が愛くるしいというのも分かる......のだが!

 

「ご主人様~? どうされましたか~? しっかりツバキのことを見てください♡♡」

「違和感しかないんだけど!!!」

「うひゃひゃひゃひゃひゃwwwwもう、マジでwww。罰ゲームの内容以上のことしてんじゃんwww」


 平戸さんの言う通りだ。師匠が引いた罰ゲームは『甘え声で自己紹介』だけだったはずなのに、何でここまでメイド化してるんだよ。

 その時、チラッと普段からメイド服を着ているイクミが目に入った。イクミはなにやら小刻みに震えている。


「......だ、ダメデス。それ以上は......」

「お、おいイクミ? どうした?」

「それ以上カワイくて完璧なメイドさんをするのはダメデス! ワタシの......ワタシのメイドキャラが完全に奪われているじゃないデスカ!!」

「そこぉ!?」


 キャラの問題かよ!

 安心しろって。師匠はいつまでもメイドさんではいないだろうから。


「ツバキちゃん、ツバキちゃん!! こっち向いて笑って~!」

「最っ高よ、ツバキちゃん♡♡♡もっと愛想振りまいて~~!」

「ハ~~イ♡♡♡お嬢様、今日もツバキとハッスルしましょぉ♡♡♡!」

「「萌っえ~~~~~!!」」


 彼杵と藍衣せんせーは師匠の可愛さに目をハートにして鼻息を荒くしている。はたから見れば、ただの変態だ。


「それじゃぁ、そろそろぉ! ツバキ、変身しちゃいま~す♡♡」

「変身!?」

「そうよ! たった一着だけなんて勿体無いでしょぉ? という訳で、メイド服を脱げば新たなコスに変身するのよ!!」

「やりました! これでワタシのメイドキャラ確立デス!」


 イクミの言うことはほっといて......。

 師匠がさらに変貌するだと!? これ以上、弟子として師匠のイタイタしい姿は見たくないんだが......。


「そぉれ!!」

「ぶっほぉ!!」


 師匠が元気のいい掛け声を出すと一気にメイド服を脱ぎ捨てた。メイド服の下に来ていたコスプレ衣装を見た彼杵は、その変貌っぷりに興奮を抑えきれず鼻血を出す。例え相手が女の子だろうと、可愛い物には目がない美少女泥棒なのであった。

 そして、その彼杵が興奮して鼻血を出すほどの師匠の姿とは......、

 

「よ、妖精......」

「そのと~り! ツバキちゃんの元々の外見をさらに際立たせる、妖精さんコスよ♡♡♡」

「しかも結構過激だねwwww」


 ただの妖精さんなんかじゃない。平戸さんも苦笑するレベルの過激さなのだ。

 クリーミーな肌色のフリフリが付いたミニミニミニスカートと、製造会社はアダルトグッズ会社なのかと思わせるほど隠す面積の狭いブラジャーみたいなヤツ。背中には師匠の身長の半分ぐらいありそうな羽。そしていつの間にやら、先っちょがキラキラ光る虹色の魔法のステッキ(これだけは安っぽい)を持っいる。


「人間さんたちのぉ~、平和を祈ってぇ~、幸せの魔法をぉ~、そぉ~れ♡♡♡」

「師匠のこんな姿見たくねぇぇぇぇぇ!!!」

「ツバキちゃん、最っ高♡♡♡♡」

「この写真で2ちゃんにスレ立てれば、スゴイことなりそうですね!!」

「彼杵! それだけはヤメロ!!」


 興奮状態の彼杵ならやりかねねぇ。

 ていうかホント、弟子として見てられないって。

 そんなことを考えていると、急に師匠が黙り込み俯いた。


「あれwwwwどうしたんだい、ツバキちゃんwwww」

「も、もお、げん、かいだ......」

「ツバキちゃん? もっとカワイくなってよ!!」

「もぉ、無理だーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

「師匠!?」


 師匠は魔法のステッキ(安物)を床に投げつけた。そして奇声をあげながら、頭を掻き毟り、綺麗にセットされていた白髪が普段の寝癖頭よりもひどくぼさぼさになる。その激しい勢いのまま、引き篭もりで非力な師匠からは考えられない力でコスプレ衣装を引きちぎった。もちろん露になる師匠の真っ白い雪のような肌と控えめな胸。言い難いが下の割れ目もくっきりと目に入ってしまう。


「うっぎゃぁーー! カワイイはもうイヤだぁ!! 発作が、じんましんがぁ~~~」


 全裸のまま、師匠は部屋を飛び出してしまった。最初に発作が出るって言ってたけど、このことだったんだな。


「wwwカワイイ格好すると発作が出て発狂するとかwwwww期待を裏切らない個性だよwwwwマジでw」

「むぅ~、もっと色々お着替えさせたかったのに~」

「まさかあんな風に壊れてしまうとは思いませんデシタ」

「いや~、私はもう大満足だよ~」


 ほくほくと顔を綻ばせる彼杵。藍衣せんせーはまだまだ遊び足りないという不満顔をしている。


「ま、とりあえず次行きましょ」

「お、おう」


 帰ってこない師匠のことは一度忘れて、次の罰ゲームに移行する。

 次のカードを引く人は、


「つ、ついに俺か......」

「神哉くん! いい感じのヤツ引いてね!!」

「面白いの期待してるよーwww」


 楽なの来い!!

 と祈りつつ、俺はカードを引く。ゆっくりとひっくり返して罰ゲームの内容を見てみると、


「サイコロを二個振り、出た目の罰ゲーム。奇数なら誰か一人を選んでほっぺをくっつける。偶数なら誰か一人を選んでキス。ぞろ目なら......」

「ぞろ目なら?」

「誰か一人を選んで、ディープキス......だ」

「うっしゃぁ! キタコレ!!!」


 俺の引いたカードの罰ゲーム内容を聞いて、彼杵がガッツポーズで飛び跳ねた。


「うふふふ。ハイ、サイコロ♡♡」

「なっ、マジでやんの!?」

「当ったり前じゃない♡♡♡なぁに? そんなに彼杵ちゃんとのディープキスがイヤなの?」

「そ、そんな......。神哉くん、私とはイヤなんですか?」

「え!? いや、全然イヤじゃないんだけど......てか、何でディープキスすること決定してんだよ!! しかも俺が誰か一人選ぶんだろ!? 何故、選択肢が彼杵一択!?」

「変なところで幸運を発揮する神哉さんデスカラネ〜。きっとここでも、ぞろ目が出マスヨ」


 そんなフラグみたいなの立てるなよ! 俺、ホントにぞろ目出しちゃうから!!


「ささっ、神哉様。急ぎサイコロをお振りくださいwww」

「おい! 平戸さん、今二つのサイコロの同じ数字側に重り仕込んでただろ!!」

「まぁまぁ、ちっちゃいことは気にしな~い♡♡それっ!!」

「あ、ちょっと!?」


 藍衣せんせーがイクミの時のように、俺に無理矢理サイコロを振らせる。平戸さんがサイコロを分解して、中に重りを入れていたのを取り外すことなく振らされてしまう。

 もちろんその結果は、


「一が二つ......」

「しゃぁ!ぞろ目キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 次はネット詐欺師と誰かがディープキスなるか!?

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