No.45 元殺し屋は吹っ切れちゃいました?


 「......ファイブ...」


 驚愕過ぎて英語なっちゃってますよー。

 イクミがサイコロを振らされて出た目は、五。これはイクミの全裸を意味する数字でもある。出た目の数だけ服を脱ぐという無茶な罰ゲームによるものだ。


「ど、どんまい、イクミ」

「まぁ、こんな日もあるさ......」


 彼杵と師匠は口々にイクミに慰めの言葉をかける。イクミはフラフラと揺れて、ポカンと口を開けた放心状態なのでおそらく聞こえていない。


「ふっ、ふっふっふっふっふっふっ......」

「おい、大丈夫か。いや、大丈夫じゃなさそうだな」

「追い詰められすぎでしょwwwww」

「ホント♡♡最っ高♡♡♡♡♡♡♡♡」


 突如として不敵な感じで笑い出したイクミを見て、藍衣せんせーは声を抑えて大爆笑。自分で追い詰めて笑うとかマジでドSだな、この人......。


「分かりマシタ! 罰ゲームは罰ゲームデス! 脱ぎマス!」

「吹っ切れたなお前!!」

「イクミ、イッキマース!!」


 覚悟を決めたイクミは掛け声とともに一気にメイド服を脱ぎ捨てる。そしてあらわになるのはもちろん、下着という名の不可侵領域。加えて推定Dカップ以上はありそうな胸と元殺し屋の名残なのか、引き締まった身体がまぶしい。俺はこれをこんなマジマジと見ていて良いのか分からなくなり、顔をそむけることにした。


「こら、高天原くん? ちゃんと見てあげないとダメでしょ? 勇気を出したイクミちゃんのカッコいい姿を目に焼き付けなきゃっ!!」

「その通りです! ワタシの勇姿を皆さん、見ていてクダサイ!!」

「いやいやいやいや!! 俺は、遠慮させてもらうって!!!」


 抵抗してみるが、ドSマッドサイエンティストに首を無理矢理イクミに向けられる。


「ダメですよぉ! 神哉くんには私以外の女の子の裸でテント張ってほしくないんです!!」

「俺、勃つこと決定されてんのかよ! そこは少しくらい信頼してくれよ!!」

「脱~げ、脱~げ、脱~げ!」


 師匠がはやしたてるとイクミはついにブラに手を掛け、はずした......というよりも引きちぎった。


「セルフモザーイク!!」

「おぉ、考えたね、神哉くん」


 俺は秘技『自分で目を瞑る』を使ってイクミの裸体という誘惑から逃れる。


「むぅ~、せっかく童貞が裸体を見て照れる瞬間が見れると思ったのにな~」

「あんた、そんな事考えてたのか!!」

「というか、神哉。すっごい真面目なんだな。せっかくの女の裸だというのに」

「ふっ、俺は罰ゲームでイヤイヤ脱いだ女の子の裸なんて、絶対に見ませんよ。自分から脱ぐか俺に脱がさせて欲しいという子だけしか見ないと心に決めているんで」


 嘘でーす。ホントはマジで股間にテント張りかねないからでーす。だが、一応それっぽい言い訳は出来たし、師匠には真面目だと褒められた(?)し万々歳だ、うん。


「え!? 神哉くん、それホント!? だったら私、脱ぐよ脱ぐ脱ぐ! てゆーか脱がして!」

「は、いや、そーいうことじゃなくて。いや、そういうことなんだけど......。ちょ、次早くカード引いて!」


 目を瞑っていてよく分からないが、彼杵が俺に距離を詰めて来ているのがすごい感じられる。


「お、次は我だな。どれどれ」

「イクミ、罰ゲームはちゃんと出来たんだし、下着だけでも付けたらどうだいwwww?」

「そうね♡♡♡そうじゃないと、神哉くんが目を開けられないしー」

「イエス!りょーかいデス!」


 イクミが元気よく答えると衣擦れの音が聞こえてくる。その音が聞こえなくなってから俺はゆっくり目を開けた。イクミがブラとパンティだけになって立っている。俺が目を開けたのを確認すると、師匠が引いたカードの罰ゲームを発表した。


「甘え言葉で自己紹介。だ!」

「え、師匠甘え言葉とか出来んの......?」


 こう言っちゃ怒られるから口には出さないが、師匠の話し方って結構男勝りなところあると思うんだが。はっきり言えば、相当年配のジジババの喋り方っぽい。


「ふわぁ~~♡♡ツバキちゃんの甘え声が聞けるなんて、最っ高じゃない♡♡♡」

「甘え声ってどんなのですかぁ?」

「猫撫で声みたいなもんだろ」

「ロリババアが猫撫で声ってwwwwwそれもう化け猫じゃんwwww」

「んだと、こらぁ!?」


 平戸さんのおちょくりに師匠が憤怒する。ポカポカと平戸さんを叩いているが、引き篭もりに一般人を困らせるほどの力がないのが事実だ。全く痛くなさそうだもん。


「ほらほら、ツバキちゃん! さっさと罰ゲーム始めてよ!」

「え、あ、あぁ。分かった。それじゃぁ、早速......」

「待った!!」


 師匠が罰ゲームを実行しようとした時、藍衣せんせーがそれを止めた。何事かと全員が藍衣せんせーを見る。


「どうせならっ♡もっとカワイイお洋服を着てからしましょうよ♡♡♡」

「か、カワイイ。だと!?」


 師匠は藍衣せんせーの言った、カワイイという言葉に愕然とする。今の師匠の服は、まさに寝起きといった感じ。ピンクと白のチェック柄をした、師匠には少しサイズが大きいパジャマ。やむなく師匠が我が家に居候することになった時に、『寝巻きがないから買ってくれ』とねだられたのでネットで注文したらブッカブカになってしまったのだ。


「わ、我が、カワ、イイ格好を......?」

「そうよー♡♡お姉さんいろいろお洋服持ってるからさ!!」

「もう用意周到の域、超えてるぞそれ!」


 藍衣せんせーは大きなボストンバックから何着もコスプレ衣装を取り出した。いや、何着とか言う次元じゃないな。もはや物理的法則はフル無視でバックからどんどん出てくる。


「どれにしよっか♡♡♡?」

「我は着るとは言ってないぞ!!」

「え~。でも、甘え声出す罰ゲームは余裕そうだったじゃん。お洋服着替えるだけよ♡♡」

「む、無理なのだ!! 我に『カワイイ』は拒否反応が出るのだ!! 発作が!!」


 む、それは初耳だな。ネットに触れてないと発作が出るってだけだと思ってたけど。ま、それも心因性だから今みたいに他の事に集中していれば関係ないんだけどな。


「イイから、イイから♡♡♡! ほら、行くよ!!」

「あ、ちょっと、ヤメぃ!!」


 藍衣せんせーは師匠の手を引いて部屋の外に連れて行く。師匠は駄々をこねる子供のように抵抗を試みるが、引き篭もりの力では振りほどけなかった。




 五分ほど経った頃。

 藍衣せんせー単体でリビングに戻ってきた。


「うふふふふ~♡♡もう最っ高にカワイくしてあげたわよ~♡♡」

「マジかよ。師匠のカワイイ格好なんて初めて見る......」

「いっつも部屋では神哉さんのブカブカジャージでしたカラネ!」

「ロリババアの変貌やいかに......w」

「それでは、ご登場お願いしま~す♡♡」


 藍衣せんせーが部屋の外に向かって声をかけた。

 すると、想像していたよりも愛くるしい元気な声で師匠がドアを開ける。


「新人メイドのツバキですっ! よろしくお願いします、ご主人様♡♡♡♡」

「んなっ! 何だと......これが、師匠?」

「きゃー!! カワイイ、カワイイよツバキちゃん! 萌えーーーだよ!!」

「ワタシよりも似合ってそうデスネ......」


 師匠が部屋に入った瞬間、俺は自分の目を疑った。

 その格好はと言うと、


「露出度抑えた純情メイドさんコスでーーす♡♡」

「カワイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!」


 我が師匠ながら、とてつもなくカワイイかった。


 次はロリっ娘ハッカーがコスプレショー!?

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