No.42 マッドサイエンティストはマジマッド?
「やぁっと、見つけたぁ!」
「おやおやー。死んでなかったんだ、神哉くんwww」
「相変わらず薄情だな!!」
ホテルを上の階に上がっていると、平戸さんたちを見つけた。
「おぉ、我は信じておったぞ。お前が簡単にやられる玉じゃないとな」
「だったら見捨てないでほしかったっすねー」
師匠はうんうんと頷いて、俺の肩を叩いてきた。何をそんなにドヤ顔になっているんだよ。
「ま、実はちょっとした助っ人が来てくれたんだけどな」
「よぉ、覚えてるかー?」
「なっ! こいつ、あの時の強盗団のボスじゃないですか!?」
「なんでここにいんのよ!!」
「まぁまぁそう言うなって。一応、今は同盟を組んでいるようなもんだからよ」
強盗団ボスが俺の後ろからひょっこりと顔を出す。彼杵とサヤ姉が当然ながら驚き、困惑する。
「アハハハ。どっかで見たことあるなぁ? 誰だっけwww」
「ふっ、安っぽい挑発だな。俺にはそんなの通用しないぜ」
平戸さんの発言に、強盗団ボスはすまし顔で返答する。でも、多分だけど平戸さんは挑発しているんじゃなくて、ホントに誰なのか覚えてないだけだろう。他人に一切の興味を示さない性格で、こうして我が家に集まって仲良くしているメンツにも、『血、繋がってないから君たちは赤の他人だろwww』とか言うような人なのだ。
「そんな事よりも、ほらコレ」
「あっ! カギ、見つかったんですか!」
俺はポケットに入れておいたカギを取り出した。ラスボスである西海の待つ最上階の一室を開けるカギ。奇跡的なことに、偶然会った強盗団ボスがカギを持っていたのだ。
「おいおい、そこのボインお嬢ちゃん。そのカギは俺が見つけてやったんだぜ? もっと感謝して欲しいな」
「そ、それは、身体で払えってことですか......?」
「いや、そういう意味じゃねえよ! 発想が飛躍しすぎだろ!!」
おお、ナイスツッコミ。これは強盗団ボスもツッコミ役ポジションかな?
「とにかく、これであの女のところに行けるって事だ」
「この際だ。俺も加勢してやる」
そう言って胸ポケットから銃を取り出す強盗団ボス。最終ボスである西海がどれほどの強さなのかは分からないが、戦えるやつは多いほうが良い。はっきり言って、俺は人を殴ったことが二回くらいしかない喧嘩素人だし、サヤ姉も彼杵も師匠も対して格闘できるわけでもない。
イクミは未だ平戸さんに背負われているので、もちろん戦力にはならない。
「そいじゃ、最終ステージと行こうじゃないか」
エレベーターで移動することに少しながら恐怖心が残る俺たちは、階段で上を目指すことにした。電気が所々に点滅している程度の暗い階段を息切れしながら上る。
「はぁはぁはぁ。だっは~、着いたぁ~~」
「非力だのう、神哉......」
「君の体力の無さに逆に感銘を受けるよwwwww」
「やっぱ伊達に引き篭もってないね、神哉くん!!」
「彼杵、......それ、フォローになってねぇ......」
ま、確かにその通りなんだが。筋トレでもしようか......。
俺は呼吸を整えるために大きく深呼吸をする。
「ふぅ~、それではまず西海のいる部屋を探そう」
「ちょっと待って、ここ十五階じゃないわ」
「え?」
サヤ姉の一言に全員が階数のプレートを見る。なるほど、確かに十四階だ。しかし、これより上のフロアなんてあるのか。
「なぁ、もしかして屋上なんじゃないのか?」
「あ! なるほど!!」
強盗団のボスをしているだけあって、頭の回転と機転のきく男だ。
屋上に続く階段を上る。すると、すぐにドアが見えてきた。ドアの取っ手には鎖がグルグル巻きつけられていて、南京錠がぶら下がっている。
「これか......」
俺は手の中のカギを南京錠に差し込む。とてつもなく歪な形をしていた鍵先が綺麗に入り込んだ。ゆっくりと回す。
カチャリと軽い音がして南京錠が開く。
「いくぞ」
俺はみんなの顔を一度見回す。コクリと頷くのを確認してドアを開ける。開けたそこにいたのは、このゲームのゲームマスター兼クスリの製造者兼日本一のマッドサイエンティスト、西海藍衣だ。
西海は白衣に身を包み、風でなびく髪を手で押さえている。
「ようこそ、最終ステージへ」
「バイキングの時以来だな、西海!」
「うふふ、そうね。短い時間だったけど貴方たち犯罪者と話が出来て、最っ高♡だったわよ」
頬を赤らめているところを見ると、本心で言っているようだ。
「悪いが、俺たちは最終ボスのあんたを倒して、このゲームをクリアさせてもらうぜ」
「あら、残念。貴方たちにはもっと私のゲームを楽しんでほしかったのに......」
「安心してよwww僕たちはもう、充分にこのゲームを楽しんだからさ」
「そぉ? でも、まだクリアできるとは言えないんじゃない?」
「どういうこと......?」
皆に少しの疑問が生じていると思う。明らかに西海は追い詰められているというのに、全く焦った表情を見せないのだ。こちらには銃を構えた強盗団ボスもいて、圧倒的人数差で絶対に俺たちが西海に勝利することが目に見える。西海はバカではないしそんなこと分かっているだろう。
それなのに何故、ここまで悠長にしていられるんだ?
ポーカーフェイスが上手いのか、それとも平戸さんのように常に笑っているのか。マッドサイエンティストというからには何か策があるのだろうか。
そんな俺の疑念は、西海の一言で確信に変わった。
「言っておくけど、私は全然戦えないわよ? 本当のボスって言うのはね、
ニコリと妖艶に微笑む西海。その後ろから現れたのは、
「は、春昌ゾンビぃ!?」
何を隠そう、あの超動きの遅かったザコキャラ春昌ゾンビだった。
「うふふふふふふ、序章でとっても弱かった敵が最終ボスとして最強キャラになって出てくる。ゲームの定石よ♡」
「は!? ということは、まさか......」
「グアアアアアア!!」
春昌ゾンビは咆哮をあげて俺たちに飛び掛ってきた。その動きは最初に出会った時のノロさとは打って変わって、確かに最終ボスと言っても過言ではない。
飛び掛ってきた春昌ゾンビを間一髪で避ける。その跳躍力はカズゾンビさえもしのぎそうだ。
「良いわぁ...、好い、イイ、最っ高だわぁ! 逃げ惑う人間の表情、美しい......」
「うわー、あの女だいぶイカれてるみたいだねwww」
平戸さん、あんたがそれ言う!?
春昌ゾンビは大きく飛び上がり、今度は師匠に攻撃を仕掛ける。
「まずい、師匠避けて!!」
「我にそんな俊敏な動作が可能だと思っているのか? まだまだだのぉ、神哉」
「そんなのんびりしてる状況じゃないから!! おい、撃ってくれ!」
「あいよー」
強盗団ボスに春昌ゾンビを狙撃してもらう。銃弾は春昌ゾンビの肩に当たり、師匠までの軌道がずれる。手足の四足で着地する春昌ゾンビ。撃った強盗団ボスに突進して来た。
「あんたは春昌ゾンビの足止めを頼む! 平戸さんは西海を殺さずに倒してください!」
「りょーかい」
「誰に指図してるんだい、神哉くん。僕は絶対に人を殺しはしないって言ったろ?」
二人は各々の役割に入った。強盗団ボスは銃で春昌ゾンビに応戦し、平戸さんは西海に近づく。この作戦には一応だが、それなりに考えがあるのだ。
おそらくだが、ゲームに忠実なイカれ科学者西海はボスである自身を倒せば、ゲームクリアするに違いない。しかし、いきなり西海を倒しにかかっても、西海の言葉に忠実な春昌ゾンビを自分の盾にするだろう。つまりまずは春昌ゾンビの討伐が必要となってくる。そこで銃を持つ強盗団ボスに春昌ゾンビを相手取ってもらい、平戸さんには西海を倒してもらうのだ。
「あらあら、なかなか考えたじゃないの。私を守る僕を足止めして、その間に私を倒すなんて」
「このゲーム、すっごい楽しかったから、君に恨みがある訳じゃないんだけどさぁ、そろそろ帰りたいから倒させてもらうねwww」
平戸さんがゾンビと同等レベルのジャンプをして、西海に回し蹴りを入れようとする。あの勢いだったら死にはしないだろうけど、相当ダメージが残るだろ......。ま、勝てるならなんでもいいや。
「うふふ、武器も何も持たない非力な女に容赦なく蹴りを入れる......。素晴らしいわよ! そうよ、それなのよ! 人間の勝つことへの執念、それをこうして肌で感じることが出来るなんて、もうっ、最っ高よ♡!!」
「う~ん、倒されることにさえ喜びを感じるなんて、君、気持ち悪いね」
「いっけぇ、平戸さん! そいつ倒してこのクソゲー、終わらせましょう!」
ガシッ!
俺がそう言った瞬間、平戸さんの蹴りが西海の顔に入った。
と思いきや、なんと西海は平戸さんの蹴りを間一髪のところで手で受け止めたのだ。
「あっれ? 君の非力な女設定はどこ言ったの?」
「今、クソゲーだと、言ったわね......」
西海は平戸さんの言葉を無視して、俺に話しかけてきた。その声には平静を装おうとしているが、怒りが混じっているのが感じられた。
「今、貴方は! 私にこのゲームを、クソゲーだと言ったわね!!!」
「ひやぁ!! す、すいません!」
「許さない......許さないわよ!!」
「神哉くーん、この人結構ヤバイかも......」
「うらぁ!」
平戸さんが珍しく弱音っぽいものを吐いた次の瞬間。平戸さんは大きく振り回され、地面に叩きつけられた。そしてピクリとも動かなくなってしまった。
「う、嘘でしょ!? あの凶壱先輩が簡単にやられちゃいましたよ!」
「ちょっと神哉、もっとしっかり謝りなさいよ! 明らかにあんたがクソゲーって言ったのが原因でしょ!」
「いまさら謝ったところで、あの怒りが収まるとは思わんがな」
「私の作ったゲームをクソゲー呼ばわりした罰は重いわよ! 死ね、にわかゲーマーが!」
「ご、ごめんなさい、もう言いません、ホント神ゲーですから!!」
俺は必死で西海から逃げる。あの手に掴まれたら平戸さんのように殺られる。死にたくねぇ!!
未だ強盗団ボスは春昌ゾンビとの戦闘に苦戦しているようだ。あいつの助けは借りられない。となれば、もう奥の手だ!!
「おい! イクミ起きろ!! お前の御主人様が倒されたぞ!
俺は呑みすぎで酔いつぶれているイクミに向かって大きな声で呼びかけた。耳がピクリと動くのを確認し、俺はさらに畳み掛ける。
「起きて敵を討てば、御主人様がめちゃめちゃに犯してくれるぞーーー!!!」
キラーーン!!
そんな効果音が付きそうなほどの勢いで目を開けた。キラキラと目を輝かせて、イクミが言った。
「壱岐イクミ! 覚! 醒!」
「イクミ、こいつら倒して!!」
「御主人様のためとあらば! イクミ、イッキマース!!!」
イクミはメイド服の中から銃を二丁取り出し、構える。まずイクミが狙ったのは、春昌ゾンビ。イクミは片目を瞑り、照準を合わせて銃を撃つ。強盗団ボスが苦戦していたのが嘘のように、春昌ゾンビはあっけなく倒れた。
「うおお、助かったぁ! 俺マジでここが死に場所だと思ったぜ」
「ゾンビの有効打点は脳ですよ! ゾンビゲームの鉄則です!!」
ニコッと可愛らしく笑うと、次に俺を殺すことにしか頭が働いておらず、イクミが復活したのに気付いていない西海に銃を向けた。
「これで終わりデス!」
パアン!
銃声が屋上で響く。西海には悪いが、ここで死んでもらおう。こんな危ないヤツを野放しにするのは危険すぎる。
「じゃーな、西海。意外と、いや、本気で面白かったぜ」
俺が振り返って西海にそう告げると、銃弾が命中しそのままガクリと膝を折って倒れた。
つまるところ、俺たちはこれでゲームをクリアしたのだった。
翌日。
旅行先から我が家の門前にまで帰ってきた俺たち犯罪者は、旅行に行ったはずなのにとてつもなく疲れていた。
「せっかくの傷心旅行だってのに、一切心が休まらなかったんですけどー」
「あんたはゾンビから人間に戻れただけでも良かったと思えよ」
あのあと、ゾンビ化してしまったやつらはどうすれば良いんだろうと、悩んでいた。その時、春昌ゾンビに朝日がさした。すると、あっという間に肌の青色も抜けて、ゾンビから人間へと戻ったのだ。それと同様にホテル館内に入ってみると、大半の宿泊客が日を浴びて人間に戻っていた。
「太陽光を浴びると、クスリの効果が消えるってことなんですかね?」
「そーだろーね」
「全く、恐ろしいクスリを作るものだな」
師匠が感心するように腕を組む。まぁ、確かに頭はおかしかったけど、頭は良かったヤツだったな。ちなみに強盗団ボスは『あん時の謝礼はしたからな』と言って仲間を引き連れ、どこかに消えた。
「少しの間は、仕事休みにして休暇を取ろうかしら」
「皆さん、すっごいお疲れデスネ。旅行って休むために行くものじゃないんデスカ?」
「いや、まあそうなんだけどさ。逆になんでイクミそんな元気なの?」
カズがイクミを変わらない元気のよさに疑問を持ったようだ。イクミに理由を訊ねる。
「それはもちろん、敵を討ったワタシには御主人様からのご褒美が......」
腰をクネクネ躍らせて、頬を朱色に染めるイクミ。その言葉に『お、おう。それは良かったな』と戸惑いつつ理解したカズ。
それを聞いて、平戸さんが俺に耳打ちしてきた。
「あのさー、僕がやられてる間にイクミに何言ったの?」
「たぶん、平戸さんの考えている通りですよ」
「はぁ~、困るなぁ。あの子、そうとう本気にしてるんだけど......」
やれやれと肩をすくめる平戸さん。
「ま、良いじゃないですか! 全員無事で帰って来れたんだからさ!」
俺が空元気で明るく振舞い、玄関のドアを開ける。
「おかえりなさーい」
「「「「「「「「ただいまー」」」」」」」」
出迎えの声に皆が声を合わせて返事をした。
......。ん? おかえりなさい......?
いやいやいや、おかしいだろ! うちには出迎えてくれる人なんていないぞ!
「だれ!?」
「あらら? 私のこと、忘れちゃったの? お姉さん悲しいなー♡」
「な、なんであんたがここにいんのよ!?」
「え? 私いちゃダメなの?」
そう言って首をかしげる声の主。
つい最近聞いたことのあったその声の主は。
「
「何よー、やっぱり覚えててくれてるじゃない。貴方たち、最っ高ね♡」
あの倒したはずのマッドサイエンティスト、西海藍衣だった。
次は犯罪者たちがマッドサイエンティストに弄ばれそうです......。
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