No.41 強盗団は即効脱獄してました?
「むっはぁぁ......。パンツ越しに強烈な匂いが伝わってくるよぉぉ......」
「だからでまかせ言うなって! つい数分前まで風呂入ってたんだぞ!」
マズイマズイマズイマズイ!
マジで犯されるって!
必死に逃れようと試みるが、ゾンビの異常な腕っ節の強さにより俺こと引きニート撃沈。
「それじゃ、パンツ脱がすから腰上げてくださーい」
「誰が上げるか、このクソビッチゾンビが!!」
「さっさと脱げって言ってんだよ!!!!」
「ひぃ......」
我ながら情けねぇ。しかし、何としてもゾンビとの性行為はしたくない。
どんな性病持ってるかも分かったもんじゃない。男のほうは発症したらとてつもない痒みがあるらしいからな。
絶対嫌だ!
何か。何か無いか!?
この絶体絶命の状況を打破する手段は! その時、一つの部屋から男と女のゾンビが二人出てきた。
......ん?
あれは......。
見たことがあるな。
ゾンビ化しているから少しばかり外見は変わっているが、絶対にあいつらだ。
「おい! ちょっと待て女乃都ゾンビ!」
「あぁ!? んだよ、時間稼ごうって気なんだろ! その手には乗らねぇぞ」
「いや、違うって! アレ見てみろよ」
「だから、何だってんだ......」
俺が女乃都ゾンビの後ろを指差す。それと同時に女乃都ゾンビも振り返り、絶句した。
そこにいたのは。
「ゾ、ゾンビのカップル......だと?」
「あぁ、そうさ。いやあいつらはカップルじゃない。......夫婦だ!」
「何!?」
そう。
部屋から出てきたゾンビの夫婦は、何を隠そうあの
多良見と大瀬戸だった。
この二人はカズが訴えられそうになった時に現れた、この道十年のベテラン詐欺師なのだ。
奇跡的にこのホテルに旅行にでも来ていたのだろう。
しかし災難だな。楽しく夫婦で旅行に来たらゾンビに感染するなんて。
「見てみろ......。ゾンビであれだけイチャイチャしているんだ。ゾンビ同士での結婚もありだということが分かっただろ?」
「そ、そんな......」
女乃都自身は二人に会ったことがあるのだが、女乃都ゾンビとなると記憶が無くなっているようだ。
相当ショックを受けているみたい。
「同じ種族同士で結婚すべきという訳ですね......」
「あぁ、そういうことだな」
「......ごめんなさい。私、一目惚れなんて初めてで、興奮しちゃったんです」
「いいってことよ。そーいうの誰にだってあるさ」
「アハハ、優しいんですね、あなた」
「ふっ、自分で言うのもなんだが、優しすぎるくらいだ」
俺の言葉に声をあげて楽しそうに笑う女乃都ゾンビ。
ふぅ、ここはとりあえず一件落着だな。安心して額の汗をぬぐう。
すると、突如女乃都ゾンビが輝きだした。
「え!? ナニコレ!!」
「あらら、どうやらお迎えが来たようです」
「はぁ!?」
「ゾンビとしての私は、優しいあなたと出会えて幸せでした。......いえ、幸せです!」
「は、はぁ......」
「それじゃあ、成仏します。さよ~なら~」
「お、おぉ、さよなら~」
別れを告げると女乃都ゾンビの発光は消えて、力なくぐったりと倒れた。
......何が起きたの?
よく見ると、徐々に肌の青っぽさも薄れていく。
「おそらく、クスリによって一時的に出来ていたゾンビというもう一つの人格が、その体から離れたと言うことだろうな」
「あぁ、なるほど。すげぇクスリだな。人格を作るってのかよ」
「個人差はあるが、皆ゾンビのような人格にすることが出来ている。これはとてつもないことだ」
「あぁ、だよな......。ってお前誰!?」
つい普通に会話しちゃったけど、どちらさん?
会ったことあったっけ?
「ふっ、覚えていないのか。ま、それも仕方が無いか」
「すんません。一切思い出せないです」
「無理もない。何せ俺とお前は会話もしたことが無いし一度顔を会わせたことがあるってだけだからな」
男は口髭を撫でながら笑った。
うーん。なんか見たことあるような、ないような。俺が必死に記憶を探っていると、諦めたように男が自己紹介をした。
「ほら、ニ○リで強盗事件があっただろ? その強盗グループのボスやってたヤツだよ。あんた、確か人質だったろ?」
「あーー! 思い出した! 平戸さんにボッコボコにされたヤツだ!」
「うん、まあ、そうだな」
「ここで何してんだよ。あんたら、サツに捕まってなかったか?」
「脱獄してきたよ。他の三人の仲間も一緒にな」
「脱獄!?」
さも当たり前だろみたいに言ってくるけど、結構俺驚いてるよ!?
だってあの時のあんたら、とてつもない小物臭が漂ってたし。それに、平戸さんに後遺症を植え付けられたはずだぞ。
「これでもこの業界じゃ、だいぶ有名な強盗団なんだぜ、俺たち。脱獄してからは、死んだほうがマシなくらいのリハビリをさせて、なんとか動けるようになったんだよ」
「そうだったのか......」
「んでよ、何となくお前らの事調べてみたんだよ。そしたら詐欺師界で相当有名らしいじゃねえか、お前」
「あ、まぁそうなのか? 一応架空請求業者していた時は、成績上位だったな」
「らしいな。そいで、おんなじ犯罪者として巻き込んじまって悪いなと思ってな。お前らがここに旅行に行くって情報を、うちのパソコン担当が仕入れたのよ」
おー、意外にも律儀な男だな。強盗してるときはすっげぇ悪役感だったのに。
「いいって、別に気にしてない。幸い怪我もしてないしな」
「そう言ってもらえて助かるぜ。犯罪者として同じくくりの中でいざこざは起こしたくない主義でな」
「なるほど。んじゃ、親愛の印ってことで」
俺が手を差し出す。そこにがっしりとした大きな手が被され、握手する。手を離すと、おそらく一番聞きたかったことであろう話を切り出してきた。
「ところでよ、この変な状況は一体何が起こってんだ?」
「一言じゃ説明しきれないんだが、まぁ、俺たちのせいではあるな」
「ふーん、災難だな。旅行に来たらこんなことになるし、買い物に来たら俺たち強盗団と出くわしたり」
「ハハッ、実はそれ以上にやべぇやつらとも会ったりしたんだよな」
「マジか......。なんていうか、運悪いのか?」
運と言うより悪運だな、悪運。思えばこいつらの強盗事件に巻き込まれたのが始まりじゃないか?
平戸さんに会ったのもそこだった。その事件以降にいろんな犯罪者に会ってきたような気がする。
もはやこいつらのせいだ、うん。
「お前らに出会わなければ、平和に犯罪してたのになぁ」
「握手交わした途端に態度デカくなるのな、お前」
少し不機嫌そうに言う強盗団ボス。ここらで一応、こいつにもこの状況が出来上がった経緯を説明した。
「とゆーわけで、今俺は仲間に合流するところで、ついでにカギも探してるんだよ」
「ほぉ〜。なんかめんどくせぇ事になってんな」
「その通りだよ。銃持ってんだろ? 手、貸してくれ」
「それは構わねぇが、お前カギを探してるって言ったか?」
銃をフリフリしながら、強盗団ボスは俺にカギについて訊いてきた。
「あぁ、最上階にいるこのゲームの主催者を倒さなくちゃいけないんだ。そいつがいる部屋を開けるカギだと思うんだが......」
「もしかして、コレか?」
そう言って胸元からこれでもかと言うほど、歪に曲がったカギを取り出した。まさか、コレがカギか?
「襲ってくるゾンビ倒してたらよー、その途中で見つけたんだ。変な宝箱に入れてあってな......」
「絶対それだよ! でかした!」
「お、おう。そりゃ良かった」
俺がボスの持つカギに、手を上から被せて功績を讃える。若干戸惑いながらも、素直に受け止めるボス。
「これで残りは西海藍衣を倒せば、ゲームクリアだぜ!」
場面は変わって。
ホテル最上階の一室。
マッドサイエンティスト兼クスリの製造人兼ゲームマスターの西海藍衣は、もちろんの事ながら高天原がカギを手に入れた事に気付いた。
「フフフッ。とうとうモルモットたちがここに来るわね」
「グァアア......」
西海の言葉に返事をするように答える何者か。
「ゲームマスターは戦わない。ただ操るだけなのよ」
嗜虐的に笑う西海。
この後、高天原たち犯罪者は、マッドサイエンティストの異常なまでの狂気に触れる事となった。
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