第十五罪

No.43 梅雨の時期はキモチがナーバスになるよね?


 梅雨つゆ。それは皆様知ってのとおり、五月から七月にかけて毎年めぐって来る曇りや雨の多い期間のことである。この時期は子供にとっても大人にとっても、気持ち的にナーバスになるのではないだろうか。

 子供は外で遊ぶことが出来なくなるし、大人には仕事的に不利であったり主婦としては洗濯にも支障をきたすことだろう。それに雨になると気持ちが暗くなるらしい。

 それらをふまえた上での梅雨対策として。

 『引き篭もるに限る』

 これしかありえないだろう。




「ホーント、退屈ですねー。毎日毎日雨ばっかですよ」

「そーだなー。ま、俺には関係ないがな」


 いつものようにリビングで作業する俺と、ソファでぐーたらポテチを貪りながら不満を漏らす彼杵。ここまでは普段どおりの光景なのだが......。


「うふふ、だったら彼杵ちゃぁん? お姉さんと遊びましょうよ!」

「お、お断りしますです! 何されるか怖いんで」

「やだ、もう♡彼杵ちゃんったら、そんな遠慮しなくても良いのよ? お姉さん暇だから!!」

「そうだぞー彼杵。退屈なら遊んでもらえよ」

「何で神哉くんまで藍衣せんせー側なの!?」


 我が家にたまる新たな犯罪者と言ったところか。この前旅行に行ったときに、俺たちはあるリアルゾンビ脱出ゲームに巻き込まれた。そのゲームの首謀者こそがこの日本一のマッドサイエンティスト、西海さいかい藍衣あおいなのだ。はっきり言って元は敵で、最終ボスとして倒したはずだった。が、何故かこいつは我が家に入り込んでいたのだ。

 そう、あれは俺たちが旅行先から帰ってきた時だった。




 玄関で俺たちを出迎えたのは、マッドサイエンティスト西海藍衣だった。


「な、なんで? あんたはイクミが撃って、死んだはずじゃ......」

「やぁねぇ。私があんなので死ぬわけないじゃない♡」


 お喋りなおばちゃんのように手を動かして笑う西海。カズと春昌さんを一目見てニコッと笑うと、


「うんうん、ちゃんと太陽光で元に戻っているみたいね。このクスリは成功だわ!」

「だからってお前、昨日までのことが許されると思うなよ!」


 カズが西海の発言に声を荒げる。だが、西海は平戸さんのごとくニコニコと笑い続け、言った。


「何言ってるのよ。しっかり太陽光で戻るようなクスリにしてあげたのよ? 一生後遺症の残る強烈なクスリにしなかっただけマシだと思って欲しいわね。それに......、あのゲームで死んだ人間はゼロ。逆にすごいことじゃなぁい?」

「...で、でもなぁ!」

「というか、貴方たち私のこと殺したつもりだったんでしょぉ? だとしたら死傷者出した貴方たちのほうが、責められるべきなのよ。ま、結果として私は生きてるけどねー」


 ぐうの音も出なかった。てか、マジで生きてるとは思わなかった。イクミの殺しの腕は、殺し屋を引退しているとはいえ、落ちぶれてはいない。確実に死んだと思ったが......。


「そのことは悪かったよ。謝る。でも、何でうちにいんだよ」

「ん~、別に理由はないんだけど~。私、暇だから!」




 とまぁ、こんな感じで藍衣せんせーこと西海藍衣は我が家にたまるようになった。うん、理由はともあれホントに日常的に暇な人らしい。

 というのも、なんとこの女は心理学を教えていた大学を辞めたのだ。俺たちがプレイさせられたリアルゾンビ脱出ゲームで、藍衣せんせーが作ったゾンビ化する麻薬。それがうまく成功したことで相当な大金が手に入ったそうだ。マッドサイエンティストというキャラに加え、麻薬製造業者のキャラが追加されたと思ってくれていい。

 まぁ我が家にたまろうとする一番の理由は、元心理学者として犯罪者集団の日常が見れて面白そう、というものだろう。あの最凶サイコパス、平戸さんに負けじ劣らずに頭のイカれた藍衣せんせーは自分の欲求に正直な人なのだ。早い話、平戸さんと一緒で、面白いと思ったことには何でも突っ込んでいく性分なんだよ。


「いいじゃ~ん♡彼杵ちゃん、お姉さんと楽しいことしましょう!」

「そんな教育テレビのうたのお姉さんみたいに誘っても、私は釣られません!!」


 藍衣せんせーが猫撫で声で、彼杵に近づく。ちなみに、この『藍衣せんせー』という呼び方は、彼杵が決めてしっくりきたから俺も使っている。


「もう、そんなにツンツンしちゃってぇ♡可愛いんだから♡♡」

「んにゃぁ! な、何を!?」

「むっふ~ん♡ぱふぱふ~~♡」


 うおおお! エロいぞぉ!

 藍衣せんせーは、彼杵の小柄な割に大きなおっぱいに顔をうずめ、サイドからぱふぱふと揉む。彼杵は『やぁぁ、ひゃめっ、あァァん!!』と結構本気で感じているご様子。

 うぅ、童貞的に刺激強めっすわ~。


「えぇい! ヤメイ!」

「やぁん♡彼杵ちゃんたら大胆......♡」

「あぁあ、もう! めんどくさい!!」


 彼杵が藍衣せんせーを勢いよく押した。その時に藍衣せんせーの胸に手を当ててしまい、藍衣せんせーは胸の前で手を組んで猫目で微笑む。


「良かったな、彼杵。藍衣せんせーが遊んでくれて」

「いや、遊んでくれてるんじゃなくて遊ばれてるんだよぉ......」


 プクっと頬を膨らませ、涙目になる彼杵。

 なんだよ、退屈しのぎにはなったみたいだけどな。


「そーだ! 私ゲーム大好きだから、ボードゲームとかカードゲームとかいっぱい持ってきてるんだよ? これで遊びましょうよ♡」

「え~、この歳になってまでゲームですか~」

「彼杵ちゃん、それは違うわ。ゲームって言うのは何歳の人がやってもいいのよ。特にボードゲームやカードゲームは、いつの時代も様々な人に遊ばれてきた。万国共通、老若男女で楽しむ娯楽なのよ♡♡♡」

「藍衣せんせー、ホントにゲーム好きですね......」


 もはや、引くくらい熱く語ってくるレベルだ。 

 後さ......、なんだろう。平戸さんもそうなのだが、頭のおかしいヤツは皆、語尾に何かをつける癖があるのだろうか。皆様知っての通り、平戸さんには語尾に『wwww』が付きがち。んで、藍衣せんせーには『♡♡♡♡』がよく付いている......ような気がする。文字として感じ取ることができないけれど、文字で表すならば、そうなるだろう。


「と、言う訳で♡ジャーン!!」

「何すか、それ」

「罰ゲームトランプ!!!」

「「うっわぁ~......」」


 俺と彼杵が声をそろえて落胆する。それを見て、藍衣せんせーはうふふと口の前に手を置き、笑った。


「ちょいちょい、彼杵ちゃん?」

「何ですか......?」


 藍衣せんせーが彼杵を手招きする。彼杵は怪しみながらも、藍衣せんせーの元へ。二人は何か耳打ちで俺に聞こえないように話し始めた。


「このトランプは......で、恥ずかしい系の......」

「なるほど、......れで、神哉くんと......」


 彼杵は徐々に楽しそうに笑顔を浮かべていた。そして俺の方に振り返って、


「やりましょう! これ、絶対楽しいですよ!!」

「さっきと意見が真反対なんだけども!?」


 彼杵がいきなり罰ゲームトランプをやると意見を変えた理由は、後で分かることとなった。


「ん~、でも、やるにしても人数が少ないわね」


 そう言うと藍衣せんせーは、スマホをいじりだした。画面にはLINEが表示されていた。その画面を少し操作すると、


「罰ゲームトランプとな!? 我もやりたーーい!!」

「師匠!?」


 部屋で昼近くだというのに、爆睡中だった師匠がリビングに入ってきた。その表情は、ありえないくらいに輝き、まばゆかしい。


「これで四人♡後は~」

「はいは~いwww僕もやりま~す」

「ワタシも!!!」

「平戸さんにイクミ......」


 総勢六名となり、ゲームをするにはいい感じの人数となった。

 そしてこの後、罰ゲームトランプの本当の恐ろしさを体験することになったのだった......。


 次は犯罪者たちが罰ゲームありのトランプで大盛り上がり!?

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