No.25 あたしはもう主の『モノ』?
「平戸さんが、......オークションに?」
「まぁねーw」
平戸さんはケラケラ笑った。
そんな軽いものなんだろうか。
「平戸はん、結構大きな会社の女社長に買われたんやなかった?」
「うん。でもムカついたから目、潰した」
えぇ〜。女社長さんの目を潰すとかヘタしたらというかもう普通に犯罪でしょ。
「御主人様が、奴隷だった...」
「アハっ、イクミ、僕に失望しちゃった? 残念だったねwww」
「そんなことないデス!」
イクミは突如大きな声で平戸さんを否定した。それが初めてだったのか平戸さんは目を丸くして驚いている。
平戸さんの驚く顔なんて初めて見た。
「ワタシは御主人様のそんなところも好きなんデス! 例え昔に奴隷として扱われていようと、犯罪まがいのことをしていようと、ワタシは御主人様の全てを愛しているんデス!!」
「全てを愛しているなんて。そんな中坊の男子が彼女にどこが好きか訊かれて、初めての彼女だからノリで付き合ったって理由を誤魔化すために全部好きだよ、って言うような言い訳はよしてくれよ」
「御主人様......」
イクミの思いは平戸さんには届かなかった。いや、届けることが出来ないのだ。
平戸さんには感情という概念が存在しない。喜び、怒り、哀しみ、楽しみ。喜怒哀楽が欠如してしまっている。
いつもニヤニヤして語尾にはだいたいwwが付く平戸さんだが、きっとただ周りに合わせているだけなんだと思う。
「なんや、せっかくの愛の告白を平戸はんおじゃんにする気かいな」
雲仙は空気を読まず、しんみりムードをぶち壊してきた。というかわざと空気を読まなかったのかもしれない。
「ほな、俺はそろそろおいとまさせてもらうで~」
「あ、おいちょっと待ってくれ」
「ああ、なんやねん! シツコイのう」
そそくさと退却しようとする雲仙を俺は呼び止めた。
「さっきの話なんだが、なんとか友人と話をするだけでも出来ないか?」
「むぅ~、そりゃ俺は売った相手とは仲良うしておくタイプやから、話くらいなら出来るかもしれへんけどやな~」
「頼むよ、この通りだ」
そう言って俺は深く頭を下げる。雲仙は頭をポリポリ掻いて悩んでいる。
「う~んでもなぁ、ちなみにその友人はんのお名前、訊かしてもろてええか?」
「諫早沙耶だ」
俺は頭を上げてサヤ姉の本名を答えた。すると、一瞬だが雲仙の顔がにやけるがすぐに真顔に戻していった。
「ほお、あんたらサヤちゃんの友人かいな。そりゃおもろいw」
「あんたサヤのこと知ってんのかよ。てか、何が面白いんだよ」
カズは笑う雲仙にキレ気味に訊いた。さっきまでの会話で相当仲が険悪になってしまったようだ。
「よぉし分かった! 俺があんたらをサヤちゃんに会わせたるわ!」
「ほ、ホントか!」
「ああ、俺は嘘は言わへん!」
「よし! やったぞ皆!」
振り返ってみるが平戸さんは口角をあげたままで黙っているし、イクミはメイド服のフリフリをいじって文字通りいじけているし、カズは雲仙のことが信用ならないといった様子でムスっとしていた。
「おーおーおーおー、暗いのう。さっきまでは友人に会わせてくれ言うてうるさかったんに」
「お前のことが信用できねぇんだよ」
「安心してや。あんたらが会うだけやって言うから会わせたるんやで。連れて帰るなんて言い出したら容赦せんで」
「ああ、分かってるよ」
「ほな、早速行きましょか。地下駐車場に俺の車があるさかい、先に行っといてくれや。俺は荷物を控え室から取ってくる」
雲仙は関係者入り口へと入っていった。俺たちは地下への階段を降りていく。
その時見えた雲仙の気味の悪い笑みは、何だったのだろう。
その後、俺たちは雲仙の運転する車に乗ってサヤ姉の元へと連れて行ってもらっていた。
「おい、どうするんだ神哉。雲仙はサヤ姉を連れて帰ったら許さないって言ってたぞ」
「ああ、分かってるさ。それはあくまで建前であって本音を言えばちゃんと連れ戻す気でいるよ」
雲仙の車の中でカズが心配して俺に訊いてきた。そうさ、絶対連れ戻すと決めたんだ。有限実行してやるさ。
時刻は午後七時を少しまわったほど。現在俺たちは海沿いに立つ巨大なお屋敷の門の前に来ていた。
「ここにサヤ姉がいるんですか?」
「そーやで。超大企業の社長さんの家や」
大企業の社長......。
そんな人でも人身売買で人を買うんだな。この国は大丈夫なんだろうか?
「ここの主はんは俺のお得意さんでもあるんや。ほんまは主はん裏切るみたいでイヤやけど」
「なんかすんませんね」
俺がみんなを代表して謝罪しておく。平戸さんとイクミはずっと黙ったままでお互いに距離を測りあっている感じだ。いや、それはイクミだけで平戸さんは何も考えてないっぽい。
「敷地もバカデカイから防犯対策にドーベルマン放し飼いにしてるんや。一度見つかれば吠えられて終わりやさかい俺にしっかりついてきいや」
雲仙はサムズアップで笑った。
「うわ、ひっろー!」
「せやろー、初見さんにはちときびしいとこやで」
俺たちは雲仙だけが知る抜け道から敷地内に入り、いつも開いているという窓から屋敷内に侵入することができた。
だが、俺はこう考えている。
あまりにも都合が良すぎる。
抜け道だったりこんだけデカイ屋敷なら絶対使用人がいるはずだ。それなのに窓が一枚だけ開いていたり。うまくことが運びすぎだ。
「雲仙、疑って悪かったな。ここまで連れてきてくれてありがとう」
カズはニッコリ笑顔で雲仙に感謝の言葉をかけた。
すると雲仙は、
「ええよええよ、俺も儲けになるしやな」
「儲け?」
「対馬はん!!」
マズイ!
そう思ったときにはすでにカズの体はばったりと倒れてしまった。この急に意識が無くなるように倒れるのは、絶対にあのパーカーの人さらいが持っていた銃のせいだ。
「すまんな~。これも俺の商売やから」
「てっめぇ......」
雲仙に飛び掛るイクミとどこからともなく現れた対馬が攻防になるのを見て、俺の意識は途切れてしまった。
「...きろ!......ろ! おい!」
誰かの声が遠くのほうで聞こえる。
「起きろ! 神哉!」
いや、遠くというのは間違いのようだ。すぐ近くで肩を揺さぶられている。
その声がカズだと分かると俺はむくりと体を起こした。
「あれ、俺たち......やっぱ摑まったか」
周りを見渡してすぐに気づいた。自分たちが檻の中にいることに。
「まんまと裏切られちゃったね~ww雲仙には注意を払っておくべきだったよ」
「俺らこれからどうなるんだよ。まさかとは思うが、あのオークションで売られちまうのか?」
「そうかもしれマセン。あのパーカーの人さらい、ワタシは手も足も出ませんデシタ......」
カズはクソっ! っと鉄の床を殴り、イクミは意気消沈だ。
その時だった。
ギィとドアの開く音に俺たちは一斉に反応した。ドアから入ってきたのは俺たちの探していた人、諫早沙耶。
「サヤ!!!」
「あんたたち...探さないでって言ったのに。いや、ちゃんとは言えてないか」
「お前それ、この檻の鍵だろ? 早く開けてくれ。一緒に逃げよう!!」
カズは檻の鉄骨を掴んでサヤ姉を急かす。
が、
「ダメよ、あたしはあんたたちと一緒には行けない」
「は? ど、どういうことだよ!」
「あたしはあんたたちを逃がしに来たのよ。ついてはいけないの......」
サヤ姉は顔を背け、俺たちと一緒に来ることを拒絶した。
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