No.23 人身商人は関西弁でした?
サヤ姉が人さらいと思われる少女にさわられてから俺と平戸さんとイクミとカズはソファに座って気持ちを落ち着かせていた。
目の前で友人がさらわれているというのに何も出来なかった。その事実がとてつもなく悔しい。
「どうして、何でサヤがさらわれなきゃいけねぇんだよ......」
カズは誰かに話しかけるのではなくただ思ったことを口にした。
確かにそれは同感だ。
理由を聞いた時にサヤ姉は顔を曇らせた。きっと何かあるに違いないのだ。
人さらいにさらわれたらどうなるのか。それはここにいる皆分かっている。
どこかに売り飛ばされるのだ。人さらいにさらわれた人間に人権は無いと言っていいだろう。
「サヤ姉、何か言いかけてたよな。絶対...って」
「あぁ」
おそらくあの文面でいけば『絶対探しに来ないで』と言いたかったはずだ。それは俺たちがこの件に関われば、必ず危険な目に遭うと分かっていたから、か。
「ねぇねぇ、何をそんなに考え込んでるんだい?」
平戸さんは相変わらず飄々として場の空気を乱す。
「君たち、どうせ助けに行くだろww」
「......そうだよな。何を悩んでるんだ! いつも通り面倒ごとに突っ込んでいこうぜ! 結局いつも都合良く進むもんさ!」
カズがソファから立ち上がり拳を上にあげた。その様子につい口元が緩んでしまう。
「ふっ、うっしゃぁ! 俺たちはいつだって結局のところ何でも解決しちまう犯罪者だ! 今回も人さらいからサヤ姉救い出そうぜ!」
カズに続いて俺も拳をあげる。
が、平戸さんは、
「あ、僕は行かなーーい」
「え、御主人様行かないんデスカ? だったらワタシも行きマセン!」
え、行かない!?
平戸さん、俺とカズをサヤ姉助けに行かせるように誘導したよね? なのにこないの!?
「あの、凶壱さん。言いにくいんですけど、あなたいないと戦えるやつがいないんですが......」
カズが控えめに平戸さんを誘う。
全くその通りだ。俺もカズも攻撃に関してはヘッポコ。平戸さんがいないと多分、即行で死ぬ。
「えーだってめんどくさいもん。僕にメリットがないし、危険な目には遭いたくないし、何より面白くなさそうだしー」
ああっと、こりゃマズったな。そうだ。これまでの平戸さんの行動パターンは『面白そうだから』か『あいつが気に食わないから』と正直言って自己中心的な考え方でしかなかった。
平戸さん(サイコパス)は自己中心的な考えを持つらしい。
となると、平戸さんに何か面白いことになりそうだと思わせなくては......。
「平戸さん、サヤ姉を連れ戻しに行くのにメリットはありますよ」
「フーン。どんなの?」
「あの強い人さらいを思う存分にいたぶる事が出来ます!」
そうさ! 思い返してみれば平戸さんと出会った日、強盗集団を一人で楽しそうにいたぶっていた。それはもう無邪気な子供のように。
つまるところ、平戸さんは人をボコボコにすることが絶対好きだ。
その行為を面白いと思っているはず。相手が老人であろうと瀕死に追いやろうとするし、イクミ(まだ現役バリバリ殺し屋だったころ)との戦いも活き活きしていた。
そして俺が最後に聞いた平戸さんが暴れたという話はあのギャングとの命がけの鬼ごっこ以来なんだ。
ということは平戸さんは最近おそらく暴れたり無いはず!
俺の読みが当たっていればこの条件飲むはずだ。
が、しかし、
「おいおい神哉くん、僕がそんなに暴れたりないと思っているのかいwww」
「......」
俺の考えは、簡単に読まれてしまった。
「でも、実際あの女の子にはすっごい魅力を感じたんだよねぇ。ね? イクミ」
「ハイ! 一度殺りあってみたいデス!」
「全く、仕方ないからついてってあげるわ! べっ、別にあんたたちのことが心配なわけじゃないんだからねww」
......何故にいきなりのツンデレ?
まあ、一応着いてきてくれるみたいだ。
「
「...悪......い」
関西弁の男、
「もうこの女の契約は終了してんねんで! はよせなあかんゆーたやろ~」
「...悪......い」
「ああ、もうええわ。これ、今回の報酬や」
雲仙は人さらいの少女、対馬に茶封筒を渡した。
対馬は中を確認してから、
「...お......つかれ...」
「はいはい。ほな、また明日な〜」
対馬が見えなくなるまで手を振り続け、あたしを一度見て言った。
「ほんま、ええ女に育ったなぁ~。主はんに帰すんが勿体ないわ~」
雲仙がペロッと舌なめずりをしたのを見た境に、あたしは深い眠りについた。
後日、師匠に家の留守番を頼み、俺たちは街に繰り出した。
「んで、何で街に来たんだ?」
「俺も知らねぇよ。平戸さんが街に行こうって言い出したんだから」
サヤ姉を連れ戻すとは言ったものの、いつものごとくどこに行けば会えるのかさっぱり分からない。
そんなわけで師匠に調べてもらおうかと思ったのだが平戸さんが任せろと言い出し、現在に至る。
「平戸さん、どうして街なんです?」
「二ヶ月に一度、オークションが開催されるんだ」
オークション?
それとサヤ姉がさらわれた事の関係性が一切分からないんだけど。
「いいかい? 人さらいがいるという事はそのさらった人を買い取り、売る仕事があるんだよ」
「買い取り、売る仕事......ですか」
「うん、人身商人って言われてる」
人身商人......。もう名前の響きがヤベェ。
「今向かってる会場では二ヶ月に一度、人間オークションが行われるんだ。すっごい金持ちどもがたくさん集まるんだよ〜」
「人間オークション...」
あくまで人を『物』と見立てて買い取るってことか。
「この街にいる人身商人がきっとサヤちゃんのことも何か知ってるはずだよ」
「なるほど。......それよりも平戸さん、詳しいっすね」
犯罪大好きな俺でもそんなに詳しく人身売買については知らない。
ところが犯罪否定派の平戸さんは人身売買という犯罪にマニアックなところまで知っている。
俺が不思議に思っていると、平戸さんはいつものように軽い調子でニヤニヤ笑いながら言った。
「僕、昔人さらいやってたからね」
「ほれ! 早よ起きぃ!」
「ん、うーん...」
腰が痛い。そりゃそうか。
あたしが寝ていた場所はコンクリの地べた。伸びをしたら腰どころか身体中の節々が痛い。
「あんたを主はんとこに運ぶさかい、早速ついて来てくれるか?」
「......」
「沈黙もまた答え、ゆーてな」
きゃっきゃっきゃとサルの鳴き声のように笑う雲仙。
「あんたも大変やなぁ〜。人を騙して生きていく事を強要されて、挙げ句の果てまた戻って来いなんて」
そんなのは分かっていた事だ。
いずれはこうなる。心の中ではずっとそう考えていたはずなのに、いざ本当になると怖くて震えが止まらない。
「あたしも堕ちたわね」
自嘲気味に鼻で笑う。
「ほな、行きましょか」
雲仙の言葉を最後にまたあたしの意識は途切れてしまった。
「昔、人さらいをやってた!? それマジですか」
「マジだよマジマジマジwww」
ありえねぇ。あんなに犯罪はしないって言っていた平戸さんが人さらいをしていたなんて......。
「凶壱さんは絶対犯罪はしないと思ってましたよ......」
カズも相当驚いたようだ。目が点になり、口をぽかんと開けている。
が、その驚きはすぐに怒りへと変わった。
「なぁ〜んて、うっそピョーン! ギャハハハハハ! ホントに信じるとは思わなかったよwww和人くんの言う通りだよw僕が犯罪なんてするわけないだろwwwwww」
「さっすが御主人様デス! ジョークも完璧デス!」
うっぜぇぇぇぇ!
今、その嘘いる!? いらないでしょ!
しかし、嘘が上手過ぎる......。マジで信じちまったよ! チクショー、いつか倍返ししてやる。
「それにしても平戸さん、人身売買に詳しいのはどうしてなんです?」
「うーん......ヒ・ミ・ツ♡!」
むぅ〜〜サイコパスめ! 無駄にめんどくせぇ。
相変わらず謎が多い。まぁ、世の中には知らなくていい事もたくさんあるからな。
これもその一つだと考えよう。
その時、平戸さんの足が止まり俺たちを振り返って言った。
「つきましたー。ココでーす!」
「え、本当にココですか?」
信じられない。
そこは普通に表通りにある洋服屋だった。大きさは一軒家一つ分くらい。とても金持ちどもがたくさん集まれるようには見えない。
「まぁまぁついてきなってww」
俺の考えを読み取ったらしく、手招きしながら店へと入っていく。
「いっらっしゃぁーせー」
やる気のない店員の歓迎を受け、店内を見渡す。ここでどうやってオークションをするって言うんだ?
「ねぇねぇ君、君。オークション会場に入りたいんだけど」
「かしこまりましたぁー」
やる気のない店員に平戸さんは話しかけた。店員はレジの下からカギを取り出して試着室の中に入った。平戸さんも店員の入った試着室に入っていったので俺たちも続く。
「ぉぉお!?」
「すげぇ広い......」
試着室に入った瞬間この言葉が出た。外から見て横幅は一メートルも無かったのに驚くことに入るとそこには大きなホールの入り口になっていたのだ。そのホールにはズラリと並んだ客席があり、ざっと千人は座れそう。いや、二階席もある。プラス二百人くらいは入りそうだ。ホールは後ろの席にいくに連れて高さが上がっている。超巨大な映画館をイメージしてほしい。ステージは半円形になっていて今は黒幕が垂れている。
「ここが本日のオークションの会場になりますんでー、ごゆっくりー」
そう言うと服屋の店員改め、オークション案内人はまた試着室から服屋の中に戻っていった。
「こりゃすげぇっすね。なんかたくさん人も入ってるし」
「全国の金持ちどもが集まってるはずだよ。人を買い取るためにねwww」
平戸さんは近くの席に座った。その横にイクミ、カズ、俺の順で座る。
「それで、凶壱さんの言う人身商人ってのはどこにいるんですか?」
「あいつはこのオークションの司会だからね。舞台裏にあるのかも」
「だとしたらこのオークション見ていくしかないですね」
というわけでオークションを最後まで見て終わったら人身商人に話を聞きに行くことになった。
が、最後まで見る必要は席に座ってすぐに無くなった。
「およ? そこにいはんのは平戸はん?」
関西弁が平戸さん側、つまり通路の方から聞こえてきた。
「おぉ! やっぱし平戸はんや! 覚えてへんか? 俺や俺、雲仙や」
雲仙と名乗った男は、平戸さんに必死で自分を思い出させようとしている。何者だ、この関西弁野郎?
「覚えてるよ、そのエセ関西弁も懐かしいなww」
「御主人様? この方は?」
「紹介するね。この人が僕たちの探してた人身商人、
「仲良うしてやー」
ニコッと白い歯を見せて笑う雲仙。
この人、下の名前からして絶対クズだろうなぁ。
次は人身商人が俺たちに協力!?
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