No.21 人のア○ゾンアカウント勝手に使うとか犯罪だろ?
「おーい、犯罪者どもいるかー?」
「こっちだこっち。あとその呼び方絶対やめろ」
カズが日本酒の酒瓶を四本腕に抱えて庭のほうへとやって来た。さらに後ろには今度はお高そうなボトルを両手に一本ずつ持つサヤ姉もいた。
「また俺奮発しちゃったよー。超良い酒だぜ、ホレ!」
「あたしもお店からこっそり持ってきたのよ、ホラ!」
「お、おお。美味そうだな」
悪いな二人とも。俺にはさっぱりそのお酒のレア度が分からんのだよ。
「ぬっほぉ、それはぁ! ド、ドド、ドンペリじゃないか!!」
平戸さんがサヤ姉の持つ酒に飛びついた。ドンペリって聞いたことあるな。あれがそうなのか。
「僕飲んだことなかったんだよー。嬉しいなぁ」
果たしてそれが本心なのかどうなのか。感情の読み取りが難しい平戸さんの気持ちは、いくらしもべのイクミでも理解することは出来ないだろう。
現在、時刻は午後六時二十分。
完全に日の入りしたとまでは言えないが、空は暗くなり始めている。見るならやっぱり夜桜でしょ! という平戸さんの謎のこだわりにより晩飯をかねての花見となった。
夜の方が皆集まりやすいから別にいいんだけどね。
「師匠、大丈夫すか? 多分今日は皆、相当飲んだくれますよ」
「安心せい! 昼寝はばっちりとった。今宵はオールができるぐらい調子もよいぞ」
いや、俺が心配したのは酔った成人たちに師匠が酒を飲まされないかだったんだけどなぁ。
最近は未成年の急性アルコール中毒が多いらしいから師匠にだけはそんな目に遭わせたくない。
こんなこと言うとまた皆に過保護過ぎと怒られそうだから黙っておく。
「皆さーん。お料理出来マシタヨ!」
「おお~サンキュ、イクミ」
イクミが三段重箱を頭、肩、腕、手に乗っけて器用に運んできた。イクミは午前中に買い出しに行って帰って来たと思ったらすぐに料理しだして働きっぱなしの一日だった。
俺はねぎらいの意味を籠めてイクミの頭をポンポンする。
「なあ!? 神哉くんそれは俗に言う頭ポンポンってやつですか!? ずるい、イクミだけなんて! 私も私もぉ」
「いや今日彼杵ちゃんなんもしてないじゃんwww。しいて言うなら、服を脱ぎまくるという破廉恥行為だけでしょ?」
「え? なにそれなにそれ?」
「彼杵、あんた何かと服を脱ぎたがるわね」
平戸さんの言葉に興味を示したカズと彼杵に少し呆れているようなサヤ姉。いきなり全裸になろうとしたことを暴露され反応が遅れた彼杵は、
「ヤメテヤメテェ! 凶壱先輩その先言ったら容赦しませんよ!?」
「分かってる分かってるってwww」
語尾にwwwがついてたらイマイチ言葉の信憑性にかけるな。しかし、頭ポンポンだけでこんだけドンチャン騒ぎになるとは。
のんきな犯罪者たちだ。
チラッとイクミを見ると俺に頭ポンポンされたところを自分でさすっていた。あれ、俺そんな強く叩いたかなと心配になりイクミに訊くと、
「むぅ、どうせなら御主人様にしてもらいたかったデス」
......さいですか、さいですか。ご無事で何よりです。
その時、怪盗Hこと普通のサラリーマン、大村春昌さんが走ってやって来た。
「遅れてすみませーん。頼まれたものの用意に時間がかかってしまいました」
「全く、トロいんですよ。つっかえないなぁ」
相変わらず彼杵は春昌さんにヒドイ。何度でも言うが彼杵は春昌さんに一度下着を盗まれていてそれ以来こんな感じなのだ。
「え? ていうか、彼杵。春昌さんに何を頼んだんだ?」
「ライトアップ装置です!!」
おお。照明か。確かに庭に照明がついてない。懐中電灯でどうにかなるかとも思ったが、さすがに暗いか。
「いくら通販会社で働いているとはいえすぐに欲しい商品を取り寄せることが出来るんじゃないんだよなぁ。ホント人使いが荒い」
「ハイ? 何か言いました?」
「いえ! 何も言っておりません、ホントスイマセン、もう二度とちんたらしません、ごめんなさい土下座します」
ずっしゃぁ!
とてつもない勢いで彼杵に土下座する春昌さん。あんた、彼杵にビビりすぎだろ......。もっと最年長の威厳ってモン見してくれよ。
「神哉くん、あの、コンセント借りますね」
「あ、はい、どーぞ」
春昌さんは延長コードをいくつも照明にくっつけ、室内のコンセントに接続していた。空から太陽は完全に沈み、もう真っ直ぐ歩くのも困難だ。
「アイタッ! おい、もう我は周りが全く見えんぞ!」
「下着ドロボー、もうまわり真っ暗ですよー。早く電気付けてーー」
「りょーかいです! いきますよー」
春昌さんの掛け声で庭に植えられていた桜の木の周りに設置した照明が一斉に輝いた。
暗かった庭が一気に幻想的な光景に様変わりする。風が吹くと何枚かひらひらと散る桜の花びら一つ一つに明かりがついているようで非常に綺麗だ。
春昌さんの持ってきた照明は若干ピンク色が入っているようで桜の木がとても映えている。
「わぁ、ビューティフルですね......」
「ホント、綺麗ね」
イクミはお花見が初らしく感激の涙を流していた。確かにこの美しさはホント言葉に表しがたい。ただ元々夜のお花見は照明の明かりに照らされるので昼よりも綺麗らしい。それをこうして俺たちだけで独占できるのはなかなか贅沢なものだ。
「おお、私の予想よりも美しくライトアップされていますね。よかったよかった」
「珍しくいい仕事しましたね、春昌さん」
「はっ! い、今彼杵さん、私のことを下の名前で......」
「綺麗な桜に免じて、下着を盗んだことは水に流します!」
いや~、桜の力は偉大だな。
彼杵があんなに嫌っていた春昌さんと笑顔で会話している。お花見して正解だったかもな......。
「ハハッ、美しいものを見ると人の心は寛容になるのかな?」
「そうかもしれませんね。あの桜の木たちを見てるとなんだか心が洗われるような気がします」
「ふ~ん。そうかな?」
俺としたことがちょっとくさいこと言ってしまった。だが、平戸さんにこの気持ちは伝わらなかったようだ。
これまでの付き合いで平戸さんが感情、心という不確定要素を持っているようには感じられない。
この人のサイコパシーが俺たちとの今後の付き合いで少しでも和らいでくれたらいいな。
「あ、そうだ。平戸さん、一つ聞きたいことがあったんですけど」
「ん? どしたの?」
「イクミが着てるあの服ってメイド服ですよね?」
「ああ、そうだよ」
あまりにも似合いすぎて馴染んでいたが、イクミはいつも全身真っ黒の格好から黒と白のこれぞメイド服っ! って姿になっているのだ。
遠目から見てもなかなかいい生地を使ってそう。コスプレグッズではないようだが、平戸さんはホームレスのはず。
買う金なんてあったのだろうか。
「似合ってるでしょ? あの格好で御主人様って言ってくるんだから笑えてくるよwww」
ニタニタしてイクミを見る平戸さん。
あんなに慕ってくるしもべを連れている平戸さんはイクミに恋心とかを抱かないのかな。
まぁ感情が無ければ恋も知らないんだろうな。
テーブルはあるのに彼杵は、雰囲気作りですと言ってわざわざレジャーシートを買ってきた。そのレジャーシートにイクミが重箱を置いて皆が食べられるように広げていく。俺はその様子をじっと見つめていた。メイド服がホント似合うな。
俺の視線に気づいたイクミはこっちにとたたっと駆け寄ってきた。
「どうかしマシタカ?」
「あ、いやいや何も。そのメイド服似合ってるなと思ってね。どこで買ったんだ」
「これデスカ? これは神哉さんがいないときに、ワタシと御主人様で神哉さんのパソコンを使って神哉さんのア○ゾンアカウントで買いマシタ!」
「ブフッwww」
......。おい、こらサイコパス。視線を泳がしてんじゃねえよ。
「御主人様のアイディアデス!」
「やっぱりあんたか! 何勝手に人のアカウントで買い物してんすか!」
「僕は悪くないよ。ア○ゾンに自分のカードを登録してたのは君だろう?」
「だとしても普通は勝手に買わないでしょ!?」
あーあ。無駄な買い物しちまったよ。
「何お前らだけで盛り上がってんだよー。ほれ、酒注いでやっからこっち来いよー」
「美味いわねこの日本酒。彼杵でもいけそうよ」
「ホント、これは私の口にも合います!」
「わーい、僕ドンペリ飲みたーい」
「あ、ちょっと平戸さん、まだ話の途中!」
平戸さんとイクミは走ってレジャーシートへ行ってしまった。
はぁ。ま、いっか。綺麗な桜に免じて、許してあげるとしよう。
その後『メイド服 十五万円』という請求が俺の元へとやってくることはまだ誰も知らない。
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