第十罪
No.20 お花見なら庭で出来ますが何か?
お花見。それは主に桜の花を鑑賞し、春の訪れを寿ぐ日本古来の風習である。梅や桃の花でも行われる。近年では弁当を食べたり夜遅くに酒飲んだりもする。地球温暖化の影響もあり三月上旬に花を咲かすことも珍しくない。一方でマナー違反、ゴミのポイ捨てなどが問題にもなっている。
だったら俺は、断固としていちいち外で花見ながら飯を食うという行為はしない。
と、心に決めていたはずなのに、
「神哉くぅーん、お花見しようよぉ〜」
「ええぃうるさい! 俺はそんなメンドくさい日本の風習には囚われないんだ!」
「うわっ出た、引き篭もりの言い逃れ!」
ポカポカと俺の肩を叩いてくる彼杵を無視してひたすら目の前のノートパソコンに架空請求のメールを打つ。
「あー、良い感じに肩叩きになったわ〜。サンキュな彼杵」
「えっ、そんな、こんなところで神哉くんの役に立てるなんて......ってそうじゃない!」
チッ! 話を逸らすことには失敗したか。
ずっとお花見お花見ーと言ってくる彼杵を完全無視して仕事に戻る。
「むぅ、神哉くんがそこまでやるのなら、私にも考えがあります」
「ほぉ、お前のような行き当たりばったりの生き方でも考えることがあるんだな」
「ヒドイ! 神哉くんヒドイ! もう怒ったよぉ!」
怒ってるように聞こえないの俺だけ?
「神哉くんがお花見してくれないのなら、今から私は全裸になります」
「ブフゥゥ!......ゲッホゲホ...彼杵、何言ってんだ? じょ、冗談だよな?」
俺は飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。いきなり女の子に全裸になりますとか言われたら絶対皆ビビると思うぞ。
「私は本気ですよ? 一度はお互いの股間を見ているんですから、恥ずかしがる必要はありません!」
「いや、恥ずかしいもんは恥ずかしいだろ! どうした彼杵、今日は何故にそんな吹っ切れてるんだ!」
オカシイぞ。何を企んでいるんだ、この美少女泥棒め。
「羞恥心なんてものは、とっくの昔に富士山の火口に投げ込んできたんです!」
「ほっほぉ......。だ、だったらさっさと脱げよ」
「ふぇ!?」
読めたぞ彼杵ぃ。優しい俺なら私が脱ぐ前にお花見してくれるとか考えてるんだろう!? 俺はそう甘くないぜ!
「ぬ、脱ぎますよ! ホントにいいんですか!?」
彼杵は顔を真っ赤にして必死に最後の確認を取る。なんだかんだ言って純情な彼杵のことだ。最後には怖気付いて俺に謝ってくるだろう。
「ふっ、フフフ。分かりました脱ぎましょう」
「ふぇ!?」
何だと!?
嘘だろ、あのビビリな彼杵が。チキンなはずの彼杵が決心しやがった!
完全に形勢逆転......。
「い、いぃ! イキますよぉ!」
彼杵は履いているミニスカートの両端を握り、そのままズリッと一気に下ろした。
「グハァッ!」
高天原に二万のダメージ!
破壊力抜群だ! 何てったって彼杵が履いてたパンツはフリフリの付いた結構際どいピンクのオープンパンツ。ミニスカだったからすらっとした足はずっと見えていたはずなのにパンツだけになると彼杵の足の美しさがさらに際立つ。
というか、面積が、隠してる幅が小さすぎるだろ!
「ど、どどどどどぉですかぁ! こっ、ここ、このまま全部脱ぎますよ? いいんですかぁ!?」
余裕がないのはどちらも同じのようだ。証拠に彼杵は耳まで真っ赤に染めて羞恥心に溺れている。ならば、それならばこっちも同じ条件になればいい!
「なぁっ、ななな何をしてるんですかぁ!?」
彼杵は手で両ほほを抑えて驚いている。それもそのはず俺は今完全に彼杵と同じ格好。俺もズボンを脱ぎ下はパンツの状態となっている。
「フ、フハハハハ! 甘いな彼杵、俺は負けないぜ。こうすればお前と条件は一緒だ! 一ヶ月間引き篭もると決めたからにはやり抜き通す! 花見なんかで外には出ねぇからな!」
「ぐぅぅぅ......。ヤラレました」
はっはっは、まだまだ未熟だな彼杵よ。
俺にこの手の策で一泡ふかせようとするにはまだ早い!
俺は勝ち誇った顔でパンツのままジョジョ立ち(ついこの間彼杵に読まされた)を決める。
が、しかし。
「ならばぁ、こうするまでです!」
「なっ、まさかお前本気か!?」
「うぅぅ、えいっ!」
高天原に今度は五万のダメージ!
ついに彼杵は上に着ていたロンTを脱ぎ捨てた。
そう。
今、彼杵の格好はパンツと新しく顔を出したブラジャーのみなのだ。しかもまさかとは思っていたが下がオープンパンツならもちろん上もオープンブラ。
童貞にはキツすぎる!
小柄な割りに彼杵はサヤ姉よりもおっぱいが大きい。ぷるんと揺れるおっぱいに目が一点集中してしまう。幸か不幸かビーチクの見えるタイプのオープンブラではなかった。
しかしこの格好はやばい。
「お、おお、落ち着け彼杵! お前のやっていることはもう痴女と認定されてもおかしくないぞ! ちょっと前までのサヤ姉だぞサヤ姉!」
「かかってこいや痴女上等です! ここまでしてもお外に出ないというのならば......」
はっ、いやいやいや落ち着くのは俺の方だ。いくら何でもさすがに完全スッポンポンになるとは思えない。そんな度胸はなんだかんだ無いのが彼杵だ。
残念だったな彼杵。
俺はお前の性格をもう熟知している! サッと俺も上に着ていたTシャツとその下のヒートテックを脱ぎ捨てる。
「ふっ、ここまでは予想通りです。さすがに神哉くんは私のおっぱいを露わにするなんてことしませんからねぇ!」
「よっ、余裕じゃないか彼杵。いいのかそんなこと言って?」
ここで引いては男がすたる!
高天原神哉イッキマーース!
だからここで彼杵にこの言葉をかける。
「俺も男だ! さぁ、全部脱ぐがいい!」
「にゃんですとぉ!!!」
これには彼杵も面食らったのかフラフラと後ろのソファに倒れこんだ。よぉし、勝ったな。
「そ、そんなこと言うなら、もう無理矢理にでも引っ張っていきます!」
「は? ちょ、待て待て待てって!」
ついに吹っ切れた彼杵は、俺の腕を掴んで外に連れて行こうとする。
「お前よく考えろ! 今の俺たちの格好を!!」
「分かった上で言ってるんです!」
ダメだ。もう何してんのか自分でもよく分かんなくなってきちゃった。
「はなせぇ! 俺はもうこの最後の布切れも脱ぐ! そうすれば俺は外に出れば公然猥褻で即効逮捕だ! お前も連れて行けまい!」
「ぐぅぅ......。それなら私も脱ぎます!」
俺と彼杵の間に火花が飛ぶ。
お互いに睨み合い手はパンツに置いていつでも脱げる状態に。
「お先にどうぞ......」
「いやいやお前からどうぞ」
「いっせいのーで脱いじゃえばいんじゃないwww」
「おぉ、それは名案だ」
「その案いただきです」
あれ? 誰だ? 今の案を出したのは。
このいつでも人を小馬鹿にしたような語尾はまさか......。
バッと俺と彼杵はリビングのドアを見る。
「......あw」
そこには予想通り、おしゃべり口達者サイコパスの平戸さんがニヤニヤして立っていた。その後ろにはもちろんイクミもいた。
「あ、いや、これはそのですね!」
「違うんです違うんです違うんですぅ!」
「お二人はよく不思議なプレイを行なっていマスネ!」
「勘違いだーー!」
その後、一時間程かけてこの状況になった理由を説明した。ところどころで平戸さんが爆笑して話が進まなくなったのが一時間もかかった原因だが。
「全く、君たちはホント面白いことをするなぁwwww」
「御主人様! 今度ワタシもやってみたいデス!」
後半はもうどちらが羞恥心に勝てるかゲームみたいな感じになってしまって、本来の趣旨を完全に忘れていた。
「ぶぅー。神哉くんがすぐにお花見に行くって言ってくれたらよかったんですぅ」
「悪かったって彼杵。許してくれよ」
彼杵はぶすっと口を尖らして拗ねてしまった。そんな顔も実に可愛らしい。
「でもさぁ神哉くん。別に敷地内なら出てもいいよね?」
「と言うと?」
「お花見なら庭ですればいいじゃん」
「え?」
平戸さんが何を言ってるのかよく分からない。
「庭に桜の木いっぱいあるじゃん。さっき見てきたけど結構満開だったよ?」
「庭に桜の木あんの!?」
「自分の家なのに知らなかったんデスネ......」
知らないよ、ほとんど室内にいるんだから。てか、それがホントならここまでの苦労はなんだったんだ......。
「じゃぁお花見出来ますね! 今日はみんな呼んで桜の木の下でお酒飲みましょ〜!」
「いぇ〜〜いww」
「さっそくワタシ買い出ししてきマス!」
次は犯罪者たちがキレイな桜を見ながらお酒を呑むようです。実に風流?だなぁ。
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