第九罪

No.17 最強弁護士探してます?

 違法弁護士とは。一般に、依頼を受けて法律事務を処理することを職務とする専門職であり、その具体的なあり方(呼称や職務範囲など)は、時代と法域によってさまざま。そしてなにより勝つために手段を選ばない。裁判に勝つためなら犯罪さえにも手を染める。




「つまり、カズがターゲットにしていた女に詐欺師だとバレたってことか」

「そうです、そうです!」


 今日も我が家にたくさんの犯罪者たちが集まっている。泥棒、ハッカー、殺し屋いろいろだ。

 いつもならのんびり、のほほんとしているが今日は違う。

 なんてったって我が家にやってくる犯罪者の一人、結婚詐欺師のカズが捕まったというのだ。


「で、今和人はどこにいるんだ?」

「もちろん、刑務所じゃないですかね」

「彼杵、えらく冷静になったな。入ってきたときはすげぇ慌ててたのに」

「よく考えてみたらそんな慌てることありませんでしたもん。ナルシーうざいしどうでもいいし」


 リビングに大慌てで入ってきたのに今は興味なさそうにしている。


「おいおい彼杵ちゃーん。俺はまだ捕まってねぇぞー」

「はっ! その声は!? 女の敵!!!」

「その呼び方ヤメテ!?」


 噂をすれば影とは言ったものでそこにいたのはカズだった。囚人服じゃないところを見るとどうやら脱獄してきたようではないようだ。


「なんだ。捕まってなかったのか」

「まあ、ギリギリだけどな」

「ギリギリ?」


 イクミがはてなと首をかしげる。


「今日は相手と話をしてきたんだ。なんとか抑えてきた」

「なるほどな。じゃあもう捕まることはないんだな」

「いや、そうともいかない」


 カズが真剣な表情をする。はっきり言って珍しい。ただ、髪の色が今日は金色と化しているので似合わない。


「実は、裁判をすることになりそうなんだ」

「裁判!?」


 あーあ。やらかしたな。

 裁判。それは犯罪者にとって天敵であり、チャンスでもある。裁判というものは基本、正義が勝つ。正しいほうが必死になれば悪いほうは必ず負ける。

 だから天敵。

 しかし、逆にチャンスでもある。裁判で負ければ刑務所暮らしができる。三食飯付きの寝床をゲットできるのだ。

 だからチャンス。


「相手の女に訴えるって言われてさ、もう弁護士を雇ってるみたいなんだ」

「やべぇじゃねえか。お前は弁護士雇ったのか?」

「まだだよ。でも裁判すればおそらく負けちまうだろうな」


 既に諦めモードの全開のカズ。

 まあ俺がお前の立場だったら多分俺も諦めてるよ。


「僕が弁護してあげようか!?」


 平戸さんが自分を指差す。確かに口達者な平戸さんなら少しは弁護できるかもしれないが、第一に平戸さんは弁護士じゃない。


「いや、凶壱さん弁護士じゃないじゃん」


 平戸さんはカズにまともなツッコミをされてしょぼくれる。イクミが大丈夫ですよとか私は御主人様に弁護されたいですとか言って慰めている。


「あの~」

「うわ!! びっくりしたぁ」


 いきなり後ろで声がして驚いてしまった。振り返るといつの間にか怪盗Hこと大村春昌さんが立っていた。


「おお、久しいな春昌」

「皆さんお久しぶりです」


 確かに春昌さんは最近見てなかったな。実際仕事が忙しいのだろう。この人は怪盗をしながら大手通販会社でも働いているのだ。


「先ほどの話、聞かせてもらっていたんですが」

「うわ、盗み聞きですか。さすが最低下着泥棒ですね」

「私、結構前からこの部屋入ってましたよ!?」


 彼杵がめっちゃ嫌そうなゴミを見る目で春昌さんを見る。彼杵はいまだに春昌さんに下着を盗まれたことを根に持っているようだ。

 いや、これが普通の反応なのか?


「と、とにかく! その弁護士のことなんですけど」


 春昌さんが無理やり話を戻した。


「実は最近我が社に悪質なクレームが増えまして、訴えてやるって言って来る輩がいるんですよ」

「なるほど。その手があったか......」

「神哉くんwww常日頃から詐欺師目線で生きてるんだねwwww」

「お仕事を愛してるんデスネ!」


 そりゃもちろん、俺は違法なことで稼ぐことにはなんでも挑戦してみるべしで生きているからな。


「それで裁判になることがありまして、会社に担当弁護士を雇うことにしたんです」

「ほおほお」

「その人ちょっとクセがあるというか弁護士なのに全然それっぽくないというか」


 春昌さんが言葉選びに慎重になっている。なにか後ろめたいことでもあるのだろうか。


「ああーも! 早く言ってください! うざいなぁ」

「す、スイマセン......」


 彼杵の春昌さんへの当たりがカズよりひどいんだが......。


「その方は勝つためなら犯罪でもするような違法弁護士なんです」

「......」

「その上、成功報酬はめっちゃ高いです」

「その人、弁護士として強いですか?」

「ハイ、負けたことはないそうです」

「......よし、その人のところに依頼しよう」


 カズは少し悩んで決めたようだ。

 これ以上犯罪者仲間は増やさなくてもいいと思うんだけどなぁ。しかし、高額な依頼金額で勝つために何でもする負けなしの弁護士か。ヤバそうなキャラだなあ。


 次は犯罪者たちが違法弁護士の事務所へ行くようです。

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