第四罪

No.6 世間で噂の怪盗も性欲には勝てない?

 前回、結局怪盗Hに会うことができなかった俺たち犯罪者。

 今回こそは会ってやると意気込んで神哉は作戦会議を始めるのだった。

 最近出番の全然ないサヤ姉のことみんな嫌いになっていいから、この物語のことは嫌いにならないでください!!

 あれ? サヤ姉がにらんでる? ちょっと待ってなんか走ってくるんだけど!?

 怖い怖い! ねぇ、何で声に出してないのに伝わるんだよ!? 超能力者か!? ぎゃー絶対殺される! 助けてーーーーーーーーーーーーーーーーーー!




「えっとそれじゃ、確認するぞ。いいか」


 俺が彼杵と平戸さんを見回していった。うなずく二人。


「怪盗Hが狙っているのは歴史文化博物館で、現在期間限定で展覧会が行われている古代ローマの世界、そこに展示されているローマ皇帝の杖。合ってますよね師匠」

「だからさっきから言っているだろう。正確には杖の先に付いている宝石だ」


 師匠が本日三回目の質問に普通にイライラしている。


「とにかく! その杖ごと奴は盗もうとしてるはずだ。そこに会いに行こう」


 うん。実にシンプルでいい作戦だ。

 俺が自画自賛していると、


「え、そんだけ? 史上最大に内容薄い作戦だね。メカ○シ団でも、もう少し頭いい作戦考えると思うよww」


 平戸さんにめっちゃ馬鹿にされてしまった。

 てかメ○クシ団は普通に頭いい作戦考えるだろ。シンタ○ーくんIQ180じゃなかったっけ?


「神哉くん、もう少し具体的に......」


 彼杵にまで指摘されてしまった。ちょっと泣きそう。


「でもなぁ~。俺博物館に侵入なんてしたことないしー」

「それが普通なんだけどねww」


 平戸さんがやれやれと手を上げて言った。


「分かりました! ここはこの美少女泥棒彼杵ちゃんに任せてください」


 あ、そっか。ここに泥棒いたわ。彼杵が作戦考えればいいや。


「って! ダメダメ! これはお前の誕生日プレゼントなんだぞ。お前が働いてどうする」

「その通りだよ彼杵ちゃん。落ち着いてゆっくり待っときなよ。このIQ微妙に高い、大学中退男に任せときなって。この中じゃ一番学歴いいんだから」


 俺が最終学歴この中じゃ一番か。確かに彼杵は高校行ってないし、師匠にいたっては現役JCだからな。不登校だけど。

 でも平戸さんの学歴は知らないんだよなー。高卒か? 大学出ているようには見えないが、中卒な訳無いだろう。多分。いくつか知らんから詳しくは分からん。


「ところでさ、その怪盗Hって誰なの?」


 おっと、びっくり。結構ノリノリだった平戸さんが一番大事なところを分かっていないようだ(怪盗Hについて詳しく知りたい人は、№5の『ハッカーはハッキングに快楽を覚えてる?』を見てね!)。


「最近噂の泥棒ですよ、簡単に言えば」

「超すごいんですよ! 警察をまくときや盗みを働くときのあの華麗な動き。尊敬ものです!」

「つまり名探偵コ○ンの怪盗キ○ドみたいなことか」


 平戸さんは激しく首を上下にして頷いている。どうやら納得したようだ。


「要はルパ○三世ってことなんだろう?」


 師匠も補足を入れてきた。

 が、


「違います! あんな女の子にキャーキャー言われて喜んでる全身白色マジシャンとか数十年に一回ジャケットの色を変えるアルセーヌ・ルパンの孫とかと一緒にしないでください!!」


 キ○ドもル○ンもひどい言われようだ。お前、ファンの人に刺されるぞ。


「怪盗Hはもっと紳士的で、でも目的のために手段は選ばない。けれども美しく盗む、素晴らしい人のはずです? 多分?」

「お前もよく知らんではないか......」


 師匠の顔はパソコンを向いてはいるが呆れていることがひしひしと伝わってくる。




 その夜、我が家には髪色を赤にしてきた結婚詐欺師、カズがやってきた。


「神哉~久しぶりだな。お前のために今日はたかーい日本酒買ってきたぞ」

「ぬぉっ! それはっ!」


 カズが高々と上げた酒瓶を見て一番の反応を示したのは平戸さんだった。


「三十六人衆じゃないかっ!」

「なんすか、それ」


 よく見たらビンに書いてあった。酒の名前か。そんなに人気なのかな?


「知らないのかい神哉くん。この酒は日本でたった三十六店しか販売を許されていない銘酒なんだっ」


 めちゃめちゃ興奮してらっしゃる。熱弁してくるけどたいして酒に興味の無い俺はふーんとしか言いようがない。


「この日本酒を知ってるとは、平戸さんいける口ですか」

「もちろんだよー。でもホームレスになってからは当分飲んでないなあ」


 カズと平戸さんで話が盛り上がっている。それを見て彼杵は口を尖らせ、


「ぶぅーー。私もそのレアなお酒飲みたいですー」

「あと三日で成人じゃないか。少し待ってなよ。誕生日にはこれよりもいい酒持ってきてあげるからさ」

「約束ですよ。赤髪ナルシー」


 そう言って尖らせた口を引っ込めた。


「それよりも、美術館じゃなくて博物館だったらしいな。どうゆう風に会いに行くんだ?」

「それがさww。聞いてよ和人くんwww。神哉くん最初はただただ会いに行くとしか考えてなかったみたいで、次に考えた作戦とやらがヘリコプターで空から見に行こうとか言い出したんだよwwwww。アホすぎでしょ! ヘリコプターとか小学生かよwww」


 平戸さん大爆笑である。よく見たら横で彼杵と師匠も肩を小刻みに震わしている。あいつらにまで笑われてしまうとは......。

 するとカズが俺の肩に手を置き、


「神哉...お前、意外とバカだったんだな」

「ウルセェよ! 博物館に侵入とかしたことないから仕方ないだろ!」


 カズに憐れまれるとすげぇムカつく。髪が赤ってのも余計ムカつく。その時師匠が久々にパソコンから目を離し、こちらを向いて言った。


「確かに夜の博物館や美術館のことは警備員にしかわからんからな〜」


 ん...。警備員か。......。


「それだっ! それっすよ師匠! ありがとうございます!!」

「お、おお? 役に立ったならばいいんだが」




 そして二月十三日。怪盗Hが予告した日。

 その歴史文化博物館にはお客さんがわらわら来場している。


「いや〜スゴイねー。あ、ほら見て見て! これじゃない? 怪盗Hが狙ってるの」


 平戸さんが普通に展示物を眺めて興奮している最中、怪盗Hの目的のブツを見つけた。


「ナルホド......。あの杖の上の宝石ですね。スッゴくお高そう」


 彼杵が目をキラキラ輝かしてゴクリと唾を飲む。泥棒は泥棒同士で惹かれあるものがあるのかな?


「おい。我にも見せい!」


 俺の持つタブレットから師匠の声が聞こえてきた。皆さまお分かりの通り師匠はネット中毒でお外に出られないので、本日は通話アプリでの参戦になっておりまーす。ちなみにカズとサヤ姉はお仕事の予定が入っていて不参加。


「よし、それじゃぁもう一回作戦を確認するぞ」


 俺が言うとその場にいる二人は黙ってこっちを見る。


「おおまかな内容は警備員に扮して夜の間博物館内に残るだ。いいか?」


 二人は頷いて、


「りょーかいしてるよ」

「ばっちり覚えてます」


 よろしい。なんか本格的にメカ○シ団みたいで楽しくなってきたな。


「フェーズ①、昼の間に関係者以外立ち入り禁止区域へ侵入する。ここは防犯設備は基本コンピューター制御だから」


 そこまで言って俺は持っているタブレットに向かって、


「師匠、よろしくおなしゃす」

「任せておけ。コンピューターで忍び込めんことは絶対にないぞ」


 実に頼もしいお方だ。味方でよかったとつくづく思う。


「フェーズ②、そこで警備員にすり替わる。そして夜まで待つ」


 ここまでいい作戦を考えるとは俺の頭もあなどれないぜ。


「すごいです! なんかナイトミ○ージアム2みたいですね」

「ぇ? あぁ~。そ、そうだな」

「いや、その反応絶対知らないでしょ、ナイト○ュージアム」


 すいません。そういう映画があることしか知らないです......。

 その時、


「ところでさ、今日の夜担当の本当の警備員さんはどうすんの?」


 平戸さんが何気なく訊いてきた。

 ヤバイな。そんなこと考えてなかった。


「考えてないんですね、神哉くん」


 彼杵があーあって感じで俺の心を読んでくる。


「肝心なところをいつもすっ飛ばすなぁお前は」


 師匠にも少し呆れられたようだ。そういやパソコンのこと教わるときにもそんなこといわれてたような気がする。


「そ、そこはっ。り、臨機応変にって感じで」

「結局アバウトなんだよなぁww」




 そしてあれやこれやあって本日、夜を迎えた。あれやこれやのところはまたいつか話そう。

 時刻は十時を少し過ぎた。警備員室に忍び込み、警備員の服装となった俺たちは三人固まって行動していた。

 ここで一つ気になることがあった。


「なぁ、俺たち警備員室から警備員服を借りたんだよな?」

「何言ってんだい神哉くん。今君が着ているのは警備員服じゃないか」


 何を当たり前のことを言ってんだみたいな顔の平戸さん。


「え、じゃぁ彼杵のそのミニスカートはなんなんすか!?」

「あぁ〜コレですか?」


 彼杵がくるりと回る。風でスカートの裾がふわっと持ち上がって際どいとこまで見えそうになっているよぉ!

 白い! 太もも! エロい! イエス!!


「どうせやるならカワイくしたいじゃないですかぁ? だからコレ、コスプレなんです。ド○キで買って来ました」


 コスプレか。まぁ言いたいことは何個かあるがカワイイから許す。


「外にはたくさん警察っぽいやつらが集まってるよ。中まで入ってこないのかな?」


 窓から外をこそっと覗くと確かに私服警官らしき人が数人見える。


「結局、今日の夜の担当さん見つかりませんでしたねー」


 そう。一番の問題点だった今日の夜の警備担当の人が見つからずにいる。

 まあ出くわしたらそれはそれでなんとかなるだろう。おそらくな。


「ねね! あの人がそーじゃない?」


 平戸さんが奥のほうを指差していった。

 確かに腰の曲がった白髪のおじいちゃんがいる。


「あの人がきっと本物の警備員さんですね!」

「あぁ。そーみたいだな」


 どうしたもんかと考えている時だった。

 平戸さんが腰に装着している懐中電灯を持って言った。


「僕に任せとけよ。あのおっさん黙らしといてやるww」


 そう言うと懐中電灯をペン回しするように手の中でクルクルと器用に操り、警備員を追いかける。


「平戸さん、暴力はダメっすよ? 見たところ年寄りみたいっすから」

「まぁまぁ見とけってw」


 自信満々のようだが大丈夫だろうか?

 忘れてたけど、この人だいぶ頭イってるサイコパスだからなぁ。心配になってきた。


「心配ですね。ヘタしたら人殺しちゃうような人ですし」


 彼杵も同じ気持ちのようだ。二人で見に行くことにした。

 少し歩くと平戸さんと警備員さんが見えてきた。


「あのぉ〜、君は一体誰なんだい?」


 警備員のおじいさんが平戸さんに質問している。


「だからねおじいちゃん。今日はあなたのお仕事の日じゃないんですよ?帰っていいから」


 意外に優しく接している。懐中電灯を取り出した時は絶対殴ると思っていたが......。


「しかしのぉ。今日はわしが担当だと館長さんに言われたんじゃよ」

「いやだから、その後に僕らがやれって言われたんですよ。館長に」


 すげぇな。あんなシレッと嘘つけるとは。表情を一切変えねぇよあの人。


「でもなぁ。今日やらないとお給料が入らんのじゃよ〜」

「しつけぇな。年金でてんだろ?いくつか知らないけどさ。もう仕事やめろよ」


 おっと平戸さんがすこし苛立ってるようだ。


「いいんじゃよ。年寄りに任せなさい」

「あーも! そーゆーこと言ってんじゃねえんだよ!」


 そう言ってガツン! とおじいさんの頭を懐中電灯の先で殴った。もちろん、おじいさん倒れる。まだ殴り足りないと言わんばかりに懐中電灯を振りかざしたので、


「ちょっとちょっと平戸さん! ストップストップ!」


 俺が止めに入ると、屈託のないニコニコ笑顔で、


「ほら、黙らしてあげたよ?」


 ヤッベェ......。

 超気持ち悪りぃ。鳥肌立つわ。怖ぇ怖ぇ。


「いくら絶対殺さないとはいえ、殴っちゃうのはどうかと思いますよ」


 平戸さんは絶対に人を殺さない。

 変わりに死んだほうがよかったと一生思わせるほどの精神的、肉体的ダメージを与えることに優れている人だ。

 だからこのおじいちゃんもきっと死にはしないが入院ものかな、これは。

 と思っていたのに、


「イタイよ! 何なんだよ君たちは!」


 おじいさんが急に立ち上がって怒り出した。

 当然俺たち三人は驚いて声も出ない。


「今日の警備はこのおじいさんだったでしょ!?」


 そう叫んだおじいさんはおじいさんを捨てた。何言ってるのか分からないって?いや俺もよく分かんなかったよ。だっておじいさんの顔が突然、怪しげな目元だけを隠す仮面を付けた若い男に変わったんだから。


「アーーーー! その仮面!」

「何だよ。この不審者と知り合いか彼杵」

「不審者じゃないですよ! まさにこの人が怪盗Hです!」


 え。こいつが?

 何でおじいさんに変装してんの?


「ふっ。知っているのなら話は早い! お嬢ちゃんの言う通り。私は怪盗Hだ!」


 アニメとかである変装を解くシーンで一瞬で着替えるやつ。それが今まさにこの場で起こった。白髪のおじいさんは一瞬で黒のマントに黒色シルクハットを付けた全身黒服の仮面男、怪盗Hになった。


「すごーい。かいけつゾ○リみたーい。」


 平戸さんは拍手して喜んでいる。かいけつ○ロリか......。懐かしいな。

 小学生の間に絶対読む本ベストスリーに入ってるやつだ。


「さて本題に入らしてもらおう。私はここの警備員に変装し、ローマ皇帝の杖を盗もうとしていた。君たちは知っているな?」

「もちろんです! 今日はあなたに会いに来たんです」


 彼杵が興奮して怪盗Hと握手している。


「会いに来た? ほぉ。君たちも私のファンということか」


 俺たちの方を見て嬉しそうに口角を上げる。


「いや僕らはただの付き添いであって君のファンじゃないよ」


 平戸さん正直だなー。


「あ、そうかい......」


 ほら、ちょっと怪盗Hしょぼくれてんじゃん。


「しかし、私に会いたいという人はたくさんいるようだがここまでする人は初めてだよ」

「はい! 実は私も泥棒なんです!」

 

 彼杵、衝撃のカミングアーウト。怪盗H普通に驚いてる。


「なるほど! 君は同士ということか! よろしく」


 そう言って改めて握手する二人。


「じゃあ後ろの君たちも同士か?」

「違う違う。僕はただの一般ジーン。悪事に手を染めてないからいつでもこいつら通報できる最強ポジションなのさ」


 あんた頭ん中そんなこと考えてんのかよ。

 やっぱ関わったらただじゃすまされそうにないなぁ。


「俺は詐欺師だ。泥棒じゃぁないが、犯罪を犯してるというくくりで言えば同士だな」

「そうか、詐欺師か。こちらこそよろしく」


 俺と怪盗Hも握手を交わす。怪盗Hは早くも平戸さんの『こいつヤバイ臭』を嗅ぎ取ったのか少し距離を取っている。それに一回殴られてるしな。


「おぉっと! こうしちゃいられないぞ。予告通り11時に杖を盗まなくては」


 マントをたなびかせ古代ローマ展示会の方へと走っていった。


「私たちも行きましょう」


 彼杵に手を引かれ連れていかれた。

 古代ローマ展示場では目当てのものの前に立ち尽くす怪盗Hがいた。


「あのガラスの中は赤外線が張り巡らされておる。中に入って盗とることは不可能だ。たとえ、かいくぐったとしても圧力センサーに引っかかって警報が鳴る。果たしてどうやって盗むのかのう?」


 タブレットから師匠が説明をくれた。ていうかずっと通話続いてたんだ。切れてると思ってたよ。

 そんなこと思ってると怪盗Hはマントの中からコンパスみたいなのを出した。それをガラスに刺すと円を描き始める。その巨大コンパスの普通と違う点は筆先が鉛筆じゃなくてレーザー光線みたいになってるところ。

 次に吸盤の付いた手袋をはめて円を描いたガラスの部分に貼り付けた。そのまま怪盗Hは慎重に後ろにまっすぐ下がった。それと一緒に円型にかたどられたガラスが付いてくる。そしてぽっかりと穴が空き、杖が手に入るまでに至った。

 ふーん。結構慎重にやるんだなー。美しいってネットの掲示板には書いてたけど何が美しいのか分からない。


「あ、またなんか取り出したよ。手鏡じゃない?」


 平戸さんが怪盗Hの手を指さす。確かに両方の手に三つずつ手鏡を持っている。そしてそれをさっき開けた穴から入れて設置した。


「あれで赤外線を無効化したってことかな?」


 平戸さんが分析する。

 すると黙って見ていた彼杵が、


「しっ! 静かにしてください凶壱先輩。単純作業に見えますけど結構体力使うんですよ、アレ」


 怒られた平戸さんはニコニコ笑顔で口を閉じた。黙ることにしたようだ。

 話は怪盗Hに戻る。今度はマントからト○ザらスに売ってそうなロボットアームの拡張版みたいなのを出した。あのガチャガチャうるさいやつね。そして思った通りそれを使ってそっと杖を掴み、ついに怪盗Hの手に収まった。


「フゥ〜、仕事終了。やぁ君たちまだいたのか。どうだった私の仕事風景は?」

「すっごかったです! 美しかった」


 え、アレのどこが美しかったんだろう。まぁ彼杵が喜んでるからいいや。

 その時だった。バシュッ! と館内の電気が付いた。急に明るくなって目が慣れずにシバシバする。


「怪盗Hー! お前は完全に包囲されているー! おとなしく降参しろ! そこの警備員服の奴らも後で話を聞かせてもらう」


 メガホンを通した男の声が聞こえた。


「だれだれ銭○警部?」


 平戸さんは楽しそうだ。ヘタしたら俺たちも捕まるぞコレ。


「これはこれは、警部。お久しぶりですねぇ」

「怪盗H。今日こそお前をとっ捕まえてやる」


 怪盗キ○ドと中○警部の会話みたい。ちょっと面白いな。


「悪いが私はまだ捕まる気はない。さらば!」


 そう高らかに宣言した怪盗Hはポケットから爆弾みたいなやつを出して床に叩きつけた。 その爆弾はポン! とかわいい音とは裏腹に大量の煙を吐き出した。


「マズイ! 逃がすな!」


 警察の声がところどころで聞こえるが、煙が蔓延し過ぎてもう訳がわからない。


「さぁ君たちも今のうちに逃げるんだ。またどこかで会おう!」


 と言ってどっか行こうとする怪盗H。俺は長ぇマントを踏んづけて消えようとするのを止めた。


「ちょ、何すんの。踏んでる踏んでる」

「いやーあの俺たち忍び込んでから気づいたんすけど、入ることだけ考え過ぎて出る方法考えてなかったんですよ」

「やっぱりかw」


 平戸さんは分かっていたよという感じで肩をすくめた。


「一緒に逃げさしてください」


 俺が手を合わせてお願いした。


「全く......。君はどっか抜けてるんじゃないかい? とにかくついてきたまえ!」


 怪盗Hは煙の中どこかに走っていく。

 あんまりずんずん進んでいくもんだからついて行く方も必死だ。

 そして視界が晴れ、着いたのは、


「屋上?」


 しかもそこには大きな羽みたいなやつが置いてある。なんて言うんだっけコレ。あの〜ほらアレなんだっけ。

 ......思い出した! ハンググライダーだ!


「これでも物作りが得意でね。このエンジンから羽まで全部手作りなんだよ」


 ほっほー。怪盗キ○ドのハンググライダーにはエンジン付いてなかったけどこの人のには付いているようだ。


「え、待ってこれで逃げんの!?」

「もちろんさ!」


 マクド○ルドのピエロのごとく、さわやかにサムズアップで怪盗Hが答える。


「無理無理無理! 俺高いところ苦手だもん」


 俺が首を思いっきり横に振る。

 が、


「屋上だ! どうせいつものハンググライダーで逃げる気だぞ」


 警部の叫び声がここまで届いてきた。


「神哉くん。覚悟決めよう!!」


 彼杵はピョンピョン跳ねている。なんなの。なんでそんなに陽気なの?


「やっぱりここにいたか!! 怪盗H!!!!」

「おはやいですねぇ警部。ですがいつも通り一足遅いですよ」


 怪盗Hはバッとハンググライダーの羽を開いた。


「前にも言いましたよね? 私は犯罪芸術家。終始美しい芸術作品のような盗みをするんです。そして、逃げるのだって芸術の一つなんですよ!」


 怪盗Hは、彼杵と平戸さんの手を掴んで勢いよく屋上を駆け出した。


「ちょっと待って置いてくな、置いていくなって!!」


 屋上から飛び出す瞬間に彼杵と平戸さんの足首を掴んでなんとか警察から逃れることができた。後ろのほうでは、


「待てー怪盗H! いつか絶対捕まえてやるからな!!!」


 それ絶対永遠に捕まえられないフラグだろ。



 その後飛び続けること五分ほど......。


「君たちはどこで降ろせばいいんだい?」

「あ、あれです。あの家」


 俺が指さすとそこにどんどん高度を下げていく。そして無事着地。


「いやーおつかれだったね」

「いえいえ! すっごく楽しかったです。ありがとうございました」


 彼杵が深々とお辞儀した。ミニスカから月明かりに照らされ反射する真っ白い生足がきわどいとこまで見える。こいつ下着穿いてんのか?


「楽しんでもらえて光栄だ! それではまたいつか会おう!!!」


 マントを翻して颯爽と走っていく怪盗H。 あ、もうハンググライダー使わないんですね。


「意外に面白い人だったねwww」


 平戸さんがクスクス笑っている。面白かったかな? でも結構楽しめたなー。


「彼杵どうだ? 楽しかったか?」

「ハイ! 最高の誕生日プレゼントです」


 ニッコリと微笑む彼杵。すげぇカワイイ。


「よし、そんじゃ帰るか。腹も減ったし」


 俺は二人を家に入るよう促した。師匠も腹を空かして待ってるはずだ。

 今回は平和に話が終われそうだなー。めでたしめでたし。

 しかし、


「キャッ!」


 彼杵がつまずいて派手にこけた。


「おおっと、大丈夫かって、ブホッッ!!」


 俺は何かを吹き出してしまった。だってこいつ下着を、


 パンティーを、穿いてなかったんだよ......。


 当然のことながら丸みのある艶やかなお尻があらわになり、目がそこに釘付けになってしまう。


「何を驚いてるんです? って、ぇええ!?」


 自分のお尻を見てめちゃめちゃ驚く彼杵。


「何でパンツがないの!?」


 顔を真っ赤にして訊いてきた。


「いや、こっちが訊きたいんだけど......」


 横では平戸さんが、もう堪え切れないと言わんばかりに大声で笑い出した。


「彼杵ちゃんの下着なら逃げるときにw怪盗Hがwww、どさくさにまぎれてスッてたよwwすごいテクニックだよねー、穿いてる人から下着を盗るなんてw」

「なっ! 気づいてたなら何で教えてくれないんですか!?」

「なんか面白くなりそうだなーと思ってwwww」

「怪盗HのHは、hentaiのHだったのか......」

「ちょっと神哉くん! そんなこと言ってる場合じゃない!あの下着泥棒め~、待てこら~~!」


 彼杵が怪盗Hを追いかけに行った。角を曲がったくらいで、


「え? 何何何!? って、ちょっと危ない! 分かった分かった話し合おう。だからコンクリのブロックで叩くのはヤメテぇ~!」


 情けない下着泥棒の声が聞こえてきた。




「うわ~~ん。もうしませんからゆるじてえ~」


 怪盗Hもとい下着泥棒は泣きながら、彼杵に許しを請うた。


「許しません!! 下着泥棒は窃盗罪系の中でも一番許しがたい犯罪です!」

「そんな~~」


 現在、我が家リビングにて怪盗Hの尋問が行われていた。

 開始早々彼杵の圧力に負け泣き出してしまった。

 泥棒が泥棒に盗みを働いたことで責められるなんて光景なかなか見れるもんじゃない。


「そもそもなんで下着を盗もうとしたんですか? もしかして常習犯ですか?」

「......そうです。いつもやってます」


 素直だなー。言葉を濁すことなく直球で下着泥棒普段からやってること公開したぞ。


「呆れました......。怪盗Hはそんなことはしない紳士的な方だと思ってたのに」

「ちなみにさwww、った下着ってなんに使うの?」


 平戸さんが何気ない質問をした。


「......下着は、○○○○に使ったり○○○で○○○していました」

「き、きもいな。単純に......」


 師匠がドン引きしている。ホント素直に何でも答えるんだもんこの人。

 ちなみにそれを聞いた平戸さん大爆笑して転げまわる。


「えっと、実は私こういう者でして......」


 おずおずといった感じで胸元から出したのは一枚の、


「名刺?」


 全員が俺の持つ名刺を覗き込んでくる。そこには当たり前だがこの男の本名も書いてある。


「私、本名は大村春昌おおむらはるまさと申しまして、普段は通販会社で仕事しています。金目のものがあったら怪盗Hとして盗みに参上するんです」


 なんだそれ。兼業作家ならぬ兼業怪盗ってか?


「でもあんたこの会社結構大きいとこじゃないか。金には困ること無いだろう?」

「それがー、まぁなんというかそのー」


 人差し指をツンツンして言うのを躊躇ためらう大村春昌。


「ああんもう! さっさと言ってくださいよ!」

「ヒぃ! スイマセン!!!」


 完全に彼杵にビビッてる。


「実は、風俗に行くお金が欲しくて......」


 この発言には俺と彼杵と師匠は口を大きく開けて驚いてしまった。

 こいつ、カズよりクズだ。

 ちなみに平戸さんはそれを聞いて更に大爆笑。


「うひゃひゃひゃひゃw超ウケる! おなかイタイwwww」

「あとデリヘルも頻繁に呼ぶ癖がありまして。お金が無かったんですよ~」


 マジでクズイな。やべぇやべぇ。


「それにー『怪盗』ってなんかモテそうだったんで」

「神哉くんこの人ダメだ。足に鉄球つきの枷を付けて海に沈めましょう」

「うーん、そうだな。それが得策だ。社会のためだな」

「ギャーー! ごめんなさい、ホントもうしませんからぁ!」


 大村はついに土下座のスタイルに移行した。


「それよりもいい方法があるぞ。画像とともにネットに晒すんだ。『怪盗Hの正体、まさかの性犯罪者』とな」


 それいいな。一番精神的に来る奴だ。


「ホントーに許してくださいよぉ! お金ならあげますから! 許して~~~」


 怪盗Hもとい普通のサラリーマン、大村春昌の悲痛の叫びは我が家に染み付くように響き渡った。




 それから数日。


「おひさでーす。彼杵が着ましたよ~って何この靴の量!?」


 玄関で彼杵が驚く声がする。

 そのままいつも通りリビングにやってきた瞬間、


「「ハッピバースデイ! そのぎ~~~~!!!」」


 みんな(犯罪者たち)で声を合わせて彼杵を出迎えた。


「え! 何これ」

「一日遅れの誕生日パーティーだよ、彼杵ちゃん。」


 カズがウインクで答える。本日髪色、青。


「あたしとカズはしっかり祝えてなかったからね。神哉がやろうって言い出したのよ」

「神哉くんが?」

「おう」

「ありがとぉーーー! 超嬉しい!」


 真正面から飛びつかれそのままぶっ倒れる俺。筋力ねぇな我ながら。

 彼杵はすりすり俺の胸板に頬ずりする。あークソ、カワイイ。


「なんとなんと、そこの二人はカップルでしたか」

「げっ!! 性犯罪者がなぜここに!?」


 そう。この彼杵誕生日パーティーには犯罪者しかいない。

 詐欺師が二人。ぼったくりキャバ嬢が一人。犯罪はやってないけど絶対いつかやりそうなサイコパスが一人。ロリっ娘ハッカーが一人。そして怪盗H、大村春昌が来ている。


「春昌さんはよ、通販で働いてんだぜ。俺のネット詐欺技術向上のために必要な人材ってことよ」

「改めてよろしくお願いします彼杵さん。おいくつになられたんですか?」

「むぅ~。ナルシーよりもクズな人には教えません!」


 彼杵、下着を盗まれたことをまだ根に持っているようだ。いや、当たり前か?


「ちなみに春昌くんいくつ?」


 平戸さんが質問する。


「三十一です」

「三十一!? 俺たちからしたらもうおっさんだよ......。なぁサヤ?」


 カズがわざとらしくサヤ姉に問いかける。


「うっさいわね! あんた遠まわしにあたしのことディスってんじゃないわよっ!!」

「しかも隠れドMだからなあ」


 師匠がサヤ姉にトドメを刺す。

 しっかしすげぇ賑やかだなー。犯罪者がこんなに楽しくやってていいんだろうか。

 いや、いいさ。犯罪者だって人間だ。差別はいけないよ!

 とか思っているときだった。


ドカンっ!

 と玄関のドアが蹴破られる音で俺たちは一気に静かになった。蹴破った奴が徐々にこのリビングへと近づいてくるのが足音で分かる。そしてガチャリとリビングを開けて入ってきたそいつは開口一番にこう言った。

 拳銃をこちらに向けながら。


「諫早沙耶はどいつだ? 殺しに来た」


 次は犯罪者たちが殺し屋とバトルを繰り広げるかもしれないです。

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