No.2 結婚詐欺師とキャバ嬢のテクは凄い?
結婚詐欺とは、結婚する意志もないのに相手を騙し、金品を巻き上げたりあれやこれやエトセトラする詐欺のことだ。
「結婚詐欺とかマジ最低ですよー。ナルシストさん」
「はっはっはっ。露骨に嫌うのはやめろよ彼杵ちゃん。いくら俺でも傷ついちゃうぞー」
なんだろう。今日のこいつはおかしいぐらいにテンションが高い。
「おい神哉~。今日は俺の合計二十五回目の仕事成功日だ。いい酒持ってきたから朝まで飲もうぜ~」
「いやお前めっちゃ酒くせぇ! ここに来るまでに飲んできてんじゃねえか」
「ほぇぇ。俺飲んできたかな?」
そう言って、その場に倒れこむように眠ってしまった。
「駄目ですね。この人完っ全に酔っ払ってますよ。海に捨ててきましょうか?」
「いやお前怖ぇよ! そんなカズのこと嫌いだったっけ?」
俺の記憶が正しければ、彼杵とこの酔っ払って眠っている駄目大人日本代表は、そんなにいがみ合っているようには見えなかったが......。
「私はせっかくの神哉くんとの時間が邪魔されたことがイヤだっただけで......」
彼杵は手をうじうじ動かしながらボソボソ何か言っていたが、声が小さすぎて聞き取れなかった。
「え、なんて? もう一回言ってくれ」
「なんでもないですっ」
ドスっ。
おいおい、今この子寝てる人蹴ったくったよ。怖いよ。
二十四歳。身長百八十三cmという日本人にしては大柄な体格。俺の頭一個分はデカイ。
現在の髪の色は茶色。なぜ現在と言うのかと言えば、こいつはよく髪を染めるから一色で落ち着くことがない。きっと次会ったら赤だとか金になってると思う。
彼杵はナルシストとか言ってたけど、俺の見た感じは普通にかっこいい顔をしてると思う。
ただ中身に問題があって、酒に弱いくせにガブガブ酒飲んで、よくコンビニの駐車場にあるコンクリでできたタイヤのストッパーみたいな奴を枕代わりに眠るみたいなことが日常茶飯事な男だ。そんなイケメン酒好き男は、
職業、
俺みたいにひたすらパソコンに向かうような仕事じゃなく、女性に近づき恋して......いや違うな。
恋させて多額の金orクレジットカードを騙し取るってのがこいつの主な仕事かな。
まぁ、それなりにクズい仕事だ。だがこの職業の良いところは、一度の仕事で大金が入ることだ。カード盗めば半永久的に使えるしな。
カズに初めて会ったのは、俺がまだ大学にいた頃。架空請求業で仕事して半年くらいだった。ちょうど俺が事務所に入っていくのを見られてしまい、翌日の大学で、
「君、昨日架空請求業者の事務所入ってったけど、あそこで仕事してるの?」
「なっ! 何故それを!?」
この時カズがターゲットにしていたのが、なんとうちの会社の元締めでもあるヤ○ザの親分の娘だったらしく、その娘からうちの会社のことも聞いたらしい。
「君とは仲良くなれそうだ。俺は結婚詐欺師の佐世保和人だ!」
これが俺とカズの出会いである。
「う~ん。カナちゃーん。結婚前に返済しておきたい借金あるから、四百万円貸してくれないかぁ」
「この人夢の中でまで金騙し取ってますよ」
彼杵がカズをジト目で見る。しかし一度で四百万も稼げるとはすげぇ仕事だ。結婚詐欺という仕事の大変なところは、ターゲットの女性に結婚させる気にしなければならないことだろう。
それさえ終わればもう金が入ったも同然。実に割りにあった職だと思う。
しかし、身長デカイくせにこんなとこに眠られてたら邪魔くさい。少し俺に分けてほしい。
俺が風呂場にでも運ぼうかと思い、巨体を持ち上げようとした時、本日三度目の玄関ドア開放音がした。
そして、
「ちょっと何なのよ。久しぶりに来たら、あたしの店と同じにおいじゃない。酒のにおいが蔓延してるわよ?」
という、鼻をつまみ地声よりも高くなっている声がした。
また一人、犯罪者の来客が来たようだ。
「サヤ姉の声だ!」
カズのときとはうってかわって、彼杵はめちゃめちゃ顔をほころばせた。
好き嫌いの激しいやっちゃなぁー。
「あら、今日はまた大集合ねぇ。この酒臭いのはそこで死んでる女の敵のせい?」
「そうだよー。さっきなんて酔った勢いで私を押し倒して
「こらこらこら。ありもしないことをねつ造するな」
まさしく、『嘘つきは泥棒の始まり』の
「しかたないわね。起こしてあげるわ」
そう言うとサヤ姉はおもいっきしカズの頬にビンタを喰らわせた。
バッチーン! ......ビンタの音が部屋に響き渡る。うわぁ、イッタそー。
だがさすがはサヤ姉と言ったところだろうか、すぐにカズは目を覚ました。
目をパチパチと開閉し、目の前のサヤ姉に向かいこう言った。
「うおっ、旬を過ぎたキャバクラ嬢!?」
「誰がアラサーよ! まぁ、事実、なんだけど......」
あららー、年増姉さん泣いちゃってるよ。
親しみをこめて、俺と彼杵はサヤ姉と呼ぶ。
年齢は二十五歳以上三十歳未満。 つまるところ、アラサー。んでもちろん、 独身。身長は俺とたいして変わらない。
金髪のロングヘアで美しい顔立ち。彼杵は可愛いだがサヤ姉の場合は美しいだ。可愛いと美しいの違い分かるか?
英語でいえば、ぷりちーとびゅーてぃふる、だ。
まぁなによりの違いはサヤ姉のほうが大人のいい女フェロモンが多いってとこだろう。
それもそのはずこの人は、
職業、ぼったくりキャバクラ嬢なのだ。
簡単に説明するならば、普通以上のサービスをした後に異常な料金の請求とか、金を先に払わせてその金額の割に合わないサービスをして追い出す、ってのがこの人の仕事だ。
俺とカズが酔っ払いながらフラフラ~っと立ち寄った風俗店がサヤ姉の働くぼったくりキャバクラだったことから知り合った。初めてぼったくられたカズは酔いと怒りが混ざり合って、
「この店一番人気の女の子連れて来い! お持ち帰りしてやる! 金ならあるぞーー」
そう言って帰ろうとしないから、ホールスタッフのお兄さんが渋々一番人気の女の子を連れて来た。
その一番人気の女の子こそがサヤ姉なのである。
が、カズはサヤ姉に向かって、
「こんな見た目、熟女のアラサーちゃんがホントにナンバーワン?」
失礼すぎる。酔っているとはいえマジで失礼すぎる。すると今度はサヤ姉のほうが怒りを露にし、
「そんなこと言われて、あたしのプライドが許さないわ! いいでしょういいでしょう。お持ち帰りしなさいよ。金なんて要らないわ! あたしの凄腕テクニックで朝まで付き合ってやるわよ!」
「オモシロイ!! 貴様こそ、俺より先に疲れるんじゃないぞ年増女!」
そんな感じでこの二人、朝までヤッてたそうでーす。そうして今、サヤ姉はうちに来る犯罪者たちの一人になった。
「悔しいけどあのときのカズのテクニックは凄かったわ。さすがは結婚詐欺師、とでも言うのかしら」
さっきから俺と彼杵はサヤ姉からカズとサヤ姉のS○X話を聞かされていた。彼杵はずっとはぁーとかへぇーだのすごーいと感心しているようだ。今までの話のどこにそんなに感心できる部分あったんだ?
「凄いですね! 私もそのてくにっくできるかな?」
「できるわよ。彼杵が強く好きな人を想えばね」
「はいっ! いろんなてくにっくを覚えて、神哉くんを絶対めろめろにさせてやります!」
「おいおい、本人横いるぞー」
それにさっきまでの話的にモテテクじゃなくて、ただの淫乱テクな気がするんだが......。
「それにしても神哉。この部屋、いやこの家ちょっと殺風景すぎない?」
「へ? そーかな。別にインテリアとかにこだわりないから、ベットくらいしか買ってないけど」
「確かに寂しい部屋ですねー。......そうだ! 今度みんなで家具買いに行きましょうよ!」
「その話、しかと耳に入れた。俺も行こう」
部屋の端っこに転がしておいたカズがいつのまにかこっちにきていた。なんなの。瞬間移動使えんの?
「えー。ナルシーは来なくていいです」
「おいおいおい。俺は結婚詐欺師だぞ。数々の人ん家に転がり込んだ男だ。それなりにインテリアセンスはある」
俺の意見も聞かずして勝手に家具店に行くことが決まったようだ。
次は犯罪者たちがお値段以上ニ○リに行くようです。
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