我が家は犯罪者たちのたまり場になっています。
易松弥生/えきまつやよい
第一罪
No.1 詐欺は騙すより騙されるほうが悪い?
カタカタカタカタカタカタ......。
部屋に鳴り響く軽快なタイピング音が心地いい。もう何日外に出てないだろうか。
二年前に成人式を迎えたというのに自分でも情けない話だ。まあ俺はそんじょそこらの引き篭もりやニートとは違ってちゃんと高校も卒業したし、大学にもいってた。中退したけど......。
勉強嫌いだったからさっさと就職してぇと思っていたが、中三の時に両親が事故で死んだ。
そんときの俺はだいぶん精神的に沈んでた。マジで本当に落ち込みすぎて自家発電も一ヶ月はしてなかったんじゃないだろうか。
両親が死んでから二ヶ月くらいが過ぎてなんとか吹っ切れた俺は、
「親のためにもめっちゃ勉強してエリートとして生きていく!」
っていうよくマンガとか小説でありそーな主人公的セリフをほざいている時期もあったな。
正直な話、親が死んで一人という主人公ポジションにいる自分に酔っていた。
『事故で二人仲良く逝っちゃった親の分までお天とさんに顔向けてまっとうに生きてやる!』とか、
『母さんの分まで生きるために機械の体を手に入れる!』みたいな意味分からん事言ってる時もあった。
そんな感じで高校入学して、成績上位を取り続け、大学にも入学し、あれやこれやあって中退し、今に至る。
ここらで主人公ポジションにいる俺のプロフィールを紹介しよう。
俺、
職業、
主にアダルトサイトのワンクリック詐欺や偽通販詐欺やってまーす。
まあまあ落ち着け。お前らの言いたいことは分かる。親のためにまっとうに生きるんじゃねぇのかよ! って思ってんだろ。
俺だってそうしたかったさ!
でも大学一年のとき知り合ったコワモテの先輩に、
「パソコン得意なら俺の職場ちょっと来て仕事してみない?」
って誘われて行ってみたらその職場が架空請求業者だったんだよ。架空請求業者だということが分かった俺はすぐさま逃げ出した。
が、その先輩に比喩でもなんでもなく首根っこをつかまれ、
「これからよろしくな、高天原」
顔は笑っているのに目が笑っていないってこの事なんだなぁ。
とんだ悪徳勧誘だ! と思いつつ俺はワンクリック詐欺のプログラムとかサイトの製作だとかを手伝わされる羽目になった。
最初のほうは全然乗り気じゃなかったんだけどぉ......この仕事がなかなか面白い。
仕事すればするほど儲かる。しかもめちゃめちゃ儲かる。こんないい仕事他にはない。結局俺は十九歳から一年間そこで稼いでいた。
その後、いろいろあって業者をやめて一人で詐欺をしている。お金を騙し取って罪悪感はないのかといえばないわけでもない。
だがこっちだっていつ警察に捕まってもおかしくないというリスク背負ってやってんだ。 『好きなことで生きていく』とか言ってる動画投稿者たちとは違う!
「詐欺は騙す方が悪いんじゃない。騙される方が悪い!!」
目の前のパソコンに向かって指をさして叫んだ。
.........我ながらすげぇクズいなぁ。ちょっとむなしくなっちゃったよ。
酒飲んで自家発電しよっかな。そう思ってキッチンの冷蔵庫に向かおうとした矢先、バン!!!と勢いよく玄関のドアが開く音と共に、
「しーーんやくん! 愛しの
うわぁ......。そういや今日あいつ来るんだった。
声の主の足音が俺のいるリビングに近づいてくる。そしてリビングのドアを開けて、
「おっ、神哉くん発見。愛しの美少女盗人、彼杵が来ましたよー? ......生きてる?」
「いやどう見ても生きてんだろ! なぜ分からない!?」
「だって神哉くん、顔死んでるんだもん」
「.........」
「相変わらず惜しいイケメンですよねー」
なんでこいつは遠慮ってものを知らないんだ。そこまで言わなくてもいいじゃん。
十九歳。淡いピンク色をしたセミロングの髪に茶色の目をしている。
小柄な体格の割りに胸は中学生男子が服の上から見て興奮できる程度の大きさ。
うん、これ分かりにくいね。それなりに大きい。
そして何より顔面がすごく可愛い。顔面ってなんか可愛くないな。お顔......フェイス? とにかく可愛い。
そして、
職業、
これは職業と言っていいんだろうか。これで飯食っていけてるから職業なんだろうか。いや、飯食えてはいないな。
その証拠に、
「神哉くーん。冷蔵庫お酒ばっかりじゃーん。私おなかすきました」
俺の許可もなく冷蔵庫をあさってらっしゃる。まったく、人の家の冷蔵庫を勝手に開けるんじゃありません! うちだからいいものを人様のうちで絶対するんじゃありませんよ。
俺の気持ちを察したのか彼杵は、
「あっ、ごめんね神哉くん。つい職業病で......」
どうやら彼杵は人の家に入ったら金目のものをあさった後、冷蔵庫をあさるようだ。
それが職業病だなんて......。
神哉くん泣けてきちゃうよ。
「よしちょっと待っとけ。なんか作ってやるから」
そう言うと彼杵はパァと顔を輝かせ、うんと頷いた。
俺と彼杵が知り合ったのは一年ほど前のことだ。
一人で詐欺業をし始めた頃。
パソコンの前でうたた寝をしていた時、俺以外だれもいないはずの家でごそごそ物音がした。
こわいなーこわいなーって思いながら横の窓をパッと見たら鍵が開いて窓全開。
生ぬるーい風が部屋に入り込んでました。
閉めてたのになー、おかしいなーおかしいなーって思ってリビングのドアのところ見たら淡いピンク髪の少女が立ってたんです。
どうだろうか。某有名怪談師のマネをしてみたんだけど分かってくれたかな。
まぁとにかく俺と彼杵の初対面は彼杵がうちに泥棒に入ったところに俺がはちあわせたって感じだ。
俺は彼杵をマジで幽霊だと思ったし、彼杵は俺の影が薄くて俺がいることに気づいてなくてお互いにビビりあった。彼杵の方は何日間もまともな食事をしていなかったらしくその場にぶっ倒れてしまった。
詐欺師やってる俺が警察に通報するのも気が引けたから、ベットに運んで朝起きたときに飯を食わしてやったら泣きながら、
「他人の家から金を盗んで生きている人に、こんなに優しくしてくれるなんてあなた神様ですか?」
って言ってきた。さすがに俺も人を騙して金を稼いでいる身だったからすげぇ罪悪感に襲われて、
「俺も詐欺で金稼いでるんだよ。だからお前と一緒だ」
本当のことを話したとたん彼杵の態度は急変。
「なんだー。あなたも私と一緒で社会不適合者なんだ」
「............」
そんな感じで現在、彼杵は我が家に入り浸っている。
「ふーふー。はふはふはふ。おいしい~。社会不適合者のくせに料理はうまいよねー神哉くん」
「次俺を社会不適合者と呼んだら二度と飯は作ってやらんぞ」
「あぁぁ、冗談ですよ。冗談!」
なんて言ってるがこのくだり会ったらいつもやってるんだよなぁ。
「神哉くん、お仕事のほうは順調?」
「ああ、順調だな。安定して金も入ってくる。お前のほうは?」
「私はお金が必要になったら動くだけなので」
「相変わらずか」
俺が苦笑しながら言うと、
「はい、神哉くんへの愛変わらずです」
「やめろやめろ、近づいてくんな。お前マジで怖いから!」
彼杵は俺が飯を食わしてやってからというもの俺への好意がとまらない。
男は胃袋をつかめ! の真逆のことが起こってしまっている。
彼杵が右腕を俺の左腕に絡めてきた。
「はあぁ~、久々の神哉くんの温もり......」
「おいおいおい! 腕を絡めるな、股間に手を伸ばすな!」
ペシっと彼杵の左手をはたく。
危うく俺の理性が崩壊するところだ。
「ぶー。何がいけないんですかぁ」
彼杵は口を尖らしてすねてしまった。
そのとき、
「おっじゃましまーーす。超絶イケメン
「うっわ、来たよナルシスト」
彼杵が本気で嫌がっている。どうやらもう一人犯罪者が来たようだ。
我が家は犯罪者のたまり場になっています。
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