放課後の公園にて
高校の教室の中。都立岩波高校は都心からちょっと外れた場所に位置する。
毎年受験生がこの高校を目標にしてやってくるほど、都内では名が知られている。
毎年数人が超一流国立大学へ合格する。
教師たちは三年生の授業に身を入れる。
東原は身長が高めで体格がいい、柔道部のエースだった。彼の周りには野球部やサッカー部の連中が集まっていた。
一方で中村という女の子は文芸部に所属していた。細目で胸がちょっと大きくてそれで少し小柄だった。
男子の視線にはまるで気付いていない。女子たちのグループからはちょっと遠ざけられていて、比較的地味な女の子と一緒に過ごしていた。
ある日東原は部活を早めに終えた時、ふと公園に向かった。
「じゃあなー東原」
川岸という野球部のキャプテンが東原に声をかけた。
「おう。もうじき俺らも引退だよなー」
「夏の大会で終わりだな」
「じゃあまたな」
東原はそう言って手を軽く振り校門から出ていった。途中駅まで歩く道はどこか懐かしい。公園のベンチでコーヒーでも飲みながら少し時間をつぶそうと思っていた。
東原が公園の中に入るとそこには中村の姿があった。
ちょっと気まずさを彼は感じた。
「中村ー」思い切って彼は中村に声をかけた。
「何?」
いつもより冷たく中村がこちらを振り返った。
そしてその目は赤く充血していた。
「いったいどうしたんだよ?」東原は中村にそう聞いた。
「別に」
中村は東原の目を見つめているが、明らかに体は衰弱している。
「いったい何があったんだよ?」
よく見ればワイシャツがくしゃくしゃになって襟元がはだけていた。
「殺すぞ」
低い声で中村はつぶやくと制服のポケットからナイフを取り出した。
東原が驚くさなかに急に辺りに灰色の雲が立ち込める。
周りにいた人間は霧のように消えて、中村と東原二人だけの世界に包まれた。
「なぁ?」
東原がそう聞いた瞬間に中村の目が赤く光る。
東原は思わず逃げ出そうとするが体は恐怖で動かない。
中村は髪を逆立出せながら東原の方へ歩いてくる。
沈黙の中、東原の手に何か力がこみあげてくる。
「中村?」
東原はそう聞く。
「これはいったい?」
続けて東原はそう言うと右手を前に差し出していた。
「助けてくれ」
東原は自分の手が自分の腕を激しく握りしめるのを感じた。
完全に中村の魔力に操られている。
中村は憎悪の目で彼のことを見ていた。
「俺はお前のことが好きだったのに」
呼吸もままならないまま、東原はそうつぶやく。
中村が右手を前に差し出すと、瞬間東原の体から力が抜けた。
東原は喘ぎながらその場に倒れこんだ。
「その言葉が聞きたかったの」
中村はにやりと笑った。
ふと中村の方を見ると、いつものように穏やかな笑みを浮かべていた。
「私も東原君が好きだった」
東原は恐怖と喜びを感じながらその場に茫然と立ちすくんだ。ふいに見たのは中村の涙だった。
おそらく絶対に交わることのない二人だった。
長編集 m @miniminiBIG
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