Monster
地中から這い出てきた奴らはあっという間にこの高校の中にいる生徒たちを食いつぶした。暗黒の世界からよみがえってきた魔物。この世を地獄と化す怪物。なにより動くのが早くて俊敏でそれでいて重量感があり、桜庭麗の目にはそれが何なのかすらあまりにも一瞬の出来事だったので認識することができなかった。
彼は一瞬で血の海となった教室を瞬間的な判断で飛び出し、そこに偶然にも中村愛が廊下に立っていたのを発見した。彼は屋上の倉庫の鍵を誰もいない職員室で手にし、この高校一の美女の愛と一緒に倉庫の中でひっそりと隠れていた。その怪物がいったい何なのかわからない。彼もそれを見たのは一瞬だった。そしてすぐさま愛の手を引き、教室を逃げ出したのだった。
肉を食いちぎり骨の砕け散る音が響いた。人間が無残にもばらばらになっているのを二人は廊下で目にした。中村愛はその光景を見て嘔吐していたが、彼は彼女の手を無理にでも引っ張り職員室へと連れていった。大部分の人間はすでにあの怪物に食い尽くされていた。そして最後に怪物がやってきたのが、一番上の階の高校三年の文系の麗達のクラスだった。
二階へ降りて、血にまみれた職員室で麗は鍵を探していた。屋上へ出るためのドアの鍵と天文部が使っていた屋上の倉庫の鍵を探していたのだ。そして運よくそれはすぐに見つかった。彼らは怪物がこないうちに素早く屋上へいった。辺りはやけにひっそりとしていた。彼らが階段を上る音だけが響いた。そして背後から何か気味の悪いものが迫ってくるという強迫観念だけが頭の中を占めていた。
麗は慌てながら屋上のドアを鍵を使って開けた。重いドアの閉まる音が響いてそれが怪物を引きつけはしないか不安だった。中村愛は呆然自失の状態で彼に手を引かれていた。そして従順に黙って彼のそばにいた。屋上へ出た二人は屋上の鉄でできたドアのカギを閉めた。
「ここまで来れば大丈夫よね……」
中村愛はそう言ったがその声は震えていた。彼女は見るからに恐怖していた。
「わからない。あいつはたぶん簡単にドアを突き破ってくる。時間の問題だよ」
校舎の屋上には夏の日差しが照り付けている。もう少しで夏休みだというときに起きた惨劇だった。皆は期末テストを終えてようやくこれから遊びに行こうかと話し合っていた時だった。そのとき、下の階から悲鳴が響きわたってきた。それはまるで地鳴りのようだった。生徒たちは皆パニックになった。麗はちょうど怪物が教室のドアを壊して入ってきた瞬間に外に逃げ出したのだった。
そして廊下にいた愛の手を引き、職員室へと真っ先に向かった。それは彼のある意味では動物的な本能だった。下の階に逃げるという可能性もあったが、下にも同じ怪物がいるような気がしたのだ。現に下の階でもまだ悲鳴がしていた。それなのに彼らのいる廊下には誰も生きている人の姿もなく、すでに皆無残な死体と化していた。
屋上から街を見渡すと一見いつもと変わりないように見える。しかし、道路を見ればあちらこちらに横転した車が転がっていた。そして潰れた人間たちがぱらぱらと道路に横たわっているのが見えた。街を歩く人も通る車もなかった。
「もうだめなのかな」
愛は麗の隣でそうつぶやく。
「だろうね。もうきっと町中にもやつらが潜んでいて、すでに人間を食い散らかしたんだ」
「いったい何が起きたのかわからないんだけど」
「俺にだってわからない。とにかく、屋上に倉庫があるからそこに隠れていよう。いつあれがやってくるかわからないし」
麗はそう言って、愛を連れて屋上の倉庫の中に入った。中はクーラーなんてなくて、熱気がこもっていた。薄暗くて物が散乱していて暗かった。
しばらくの間、息を殺して二人は倉庫の中にいた。音も何もかもが入ってこない。
「私たち助かるのかな……」
愛はそう言って涙を目に浮かべていた。
「おそらく無理だろうね。もう人間の最後なんだと思う」
「それってなんかロマンチックね」
愛は泣きながらそう言って笑った。麗はそんな愛の体を抱きしめた。体中にお互い冷や汗をかいていた。そして愛はどうやら恐怖で失禁しているらしく倉庫のコンクリートが染みになっていた。
「怖いの」
愛は僕にそのことを気づかれて恥ずかしかったようだが、それどころではないという感覚でもあったらしい。
麗の頭の中にはおそらくもうじき自分たちは死ぬのだという観念がわき起こっていた。それは時間がたてばたつほど、明らかなものとなった。麗は黙って愛の体を抱きしめた。そしてこんな時に彼女に対して性欲を感じていたのだ。恐怖をしているのにそれもなんだか奇妙な気がしたが、もう彼自身が自暴自棄になっていたのだった。
「最後にやらない?」
麗は泣いている愛に言った。
「え……」
「どうせ死ぬんだよ」
「怪物にばれないといいね」
愛はそういって泣きながら皮肉に笑った。彼らは汗で濡れた制服を脱いでいった。下着姿になった愛はうつむきながら麗のことを見ていた。まもなく自分自身もこの美しい彼女も無残な肉片と骨になるのだと麗は想像した。でも心の奥底でそんな人生の終わりも悪くないかなとさえ思った。無残な最後を想像するほど、彼は被虐的な快感を感じるのだった。
麗は愛の耳元で「ずっと好きだった」とつぶやき白いブラジャーを外した。ふっくらとした乳房を片手で覆いながら何度もキスをした。愛は頬を赤らめて麗のされるがままになっていた。
「本当は私もあなたのこと好きだったの」
愛は半裸の姿で麗の耳元にそうつぶやいた。
「少しでも一緒にいたかった。でももう終わりね。こんな人生も悪くないと思う」
愛は悲し気に泣いていた。
「俺もそう思う」
彼らがちょうど下着をすべて脱いだ時に突然重い低音が下から響き渡った。耳を貫くその音は彼らの体を硬直させた。そして二人は裸で抱き合ったまま恐怖を感じていたが、麗は愛の体を必死に抱きしめていた。
麗は涙を浮かべながら愛の陰部を触っていた。彼女の膣が果たして恐怖で濡れているのか快感で濡れているのかさえわからなかった。ただ温かい液体が彼の手をとめどなく濡らした。
徐々に怪物が、あの魔物が彼らのもとへと近寄ってくるのが音でわかった。激しい爆発音のような音とともに屋上のドアが破壊された。麗はおそらくあの怪物は人間を見つけ出す嗅覚のようなものでも持っているのだろうと推測した。そしてその怪物の気配を限界にまで感じながら、麗は愛の膣の中にペニスを入れた。
彼女の膣の中にはすんなりと入った。そして愛はもうすべてをあきらめたかのようだった。快楽に身を任せながら微笑んでいた。麗はゆっくりと腰を動かしながら、もう周囲のことは気にかけなかった。どうやらあの怪物は屋上の上をすでにはい回っているらしい。麗は彼女の膣の中ですぐに射精してしまった。
愛はもう麗のことを見ていなかった。麗はペニスを入れたまま、もう一度腰を振った。そのとき屋上の倉庫のドアが破壊された。彼らは破壊されたドアから日差しが差し込んでくるのを見た。愛は麗の胸の中で目を閉じながら何かを小声でつぶやいた。麗はそれがなんて言っているのか聞き取ることができなかった。
麗が最後に見たのはまさしく怪物だった。あの古代の神話やなんかに出てくるような見ているのもおぞましい怪物だ。
僕は気付くとペニスを抜いて、裸のまま茫然と無様に立ち尽くしていた。愛も全裸で怪物のことを見ていたが、僕はその時愛の目から光が消えていくのを感じた。
「愛!」僕は叫んだ。
怪物が今にも僕らに押しかかろうとしたとき、愛が指を怪物に向けて差し出した。皮肉な笑みを浮かべる愛の顔を見て僕はあんなにおとなしい子の裏の顔を見てしまった気がした。
怪物が動かなくなる。指を下にさげたとたんに怪物が縦に割れて砕け散る。
愛の瞳の中に六芒星の赤い紋章が見えた。
「これはいったい」
愛は裸のまま、笑っていた。
「みんな死んじゃったね」
愛は笑いながら、脱いだシャツを見にまとう。僕も制服を着なおす。
「殺しにいこうよ。怪物たちを」
愛はそう言った。
「でももう生き残っている奴は」
「もういない」
やけに真剣な顔で愛はそう言った。
「あなたと二人で暮らしたかったの」
僕は背筋が凍りつくのを感じた。
「嘘」
愛は笑う。
「これから世界を救いに行くの」
下着を履いた彼女の胸は太陽に照らされてシャツの裏から乳首が透けて見えていた。
「もう一回しない?」
僕はそう聞く。
「怪物を全部ころしたらね」
僕たちは倉庫の中で抱き合ってキスをした。
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