Love magician
陽だまりの中に佇む少女。穏やかな午後の陽ざしの中に照らされた女の子。
その女は十八歳にして処女だった。僕はその女の処女を奪った初めての男だ。その女の名前は絵里加。物静かで、それでいて少し派手に見える女の子だった。
僕は大学四年生で二十二歳だった。絵里加が大学に入学してきた間際のことだった。僕はサークルの幹事をやっていた。テニスを週に一回とその後に飲み会をやって土曜日と日曜日で旅行に行くようなサークルだった。どこかの女子大やら短大やらから女の子を連れてきては酒に酔わせて、口説き、あわよくば夜を共にしようと言ったことを目的としているようなところで、学内ではあまり評判がよくなかった。
実際に僕は二度、別の女の子と寝たことがある。彼女たちは見た目は大人しそうに見えるのに、酒を飲むとはしゃぎだし、それを僕は冷めた目で見ていた。意識がもうろうとしてきたところで、借りたコテージの二階に彼女を連れていき、優しく抱きしめる。
彼女はその頃、酒の力で理性を失っている。僕は執拗にキスをし、甘い言葉をつぶやく。よくもまぁそんな言葉が頭の中に入っているものだと思う。薄っぺらなこれっぽちも感情の入っていない言葉で彼女を甘い気持ちにさせて、優しく抱きしめ、ゆっくりと服を脱がせる。
そして極力言葉少なめに、できるだけ自然に僕は固くなったペニスを最後には彼女の中へと入れる。
朝、目覚めると彼女たちは決まって僕の方を恥ずかしそうに眺めている。僕は冷めた内心を隠しながら、また何か彼女を喜ばせるようなことを言ってシャワーを浴びる。旅行の帰り、彼女は僕の隣の席で将来のことなんかを語り始める。僕は今すぐにでもそこから立ち去りたい気分になる。
大学の授業が始まると、僕はしばらくの間、サークルに顔を見せなくなる。そしてサークルに戻ってきたころには彼女はいなくなっている。
そんなことを二度ほど繰り返した。そして絵里加という一風変わった女の子が僕のそんなくだらない遊びの三人目になりそうだった。
「ねぇ」はい、落ちた。
「何?」彼女は恥ずかしがってもじもじしている。
「じっ」
「何?」
「別に」
「どうして僕たちは生きているんだろう?」
「さぁ?」彼女は少し僕のことをを馬鹿にしたように笑っている。
「なんだよ?」
「うふふ」
大学のサークルは構内のテニスコートで行われる。とりあえずストレートで同学年の高校時代インターハイにでたやつをストレートで倒す。
「テニスの経験は?」絵里香が僕に聞く。
「高校時代アメリカに留学してた時、少しやっていた」
「英語しゃべれるの?」
「そりゃあね」
「なんでまたアメリカに留学してたの?」
「まぁいろいろとあったんだけど」
「何?」
「プロのテニスプレイヤー目指してたんだ。中学で全国まで行ってアメリカの高校に通っていた」
「へぇ」
「だけど肘が駄目になって今はこんな感じ」
「なんかだっさ」
「え?」
「そういう風にかっこつけてるのださい」
「は?」
僕はいらいらしながらテニスコートにラケットを放りだして外に出た。俺だってこんなしょうもないところで女をひっかけてテニスなんかしていたくなかった。わざわざ帰国子女枠でこの有名私立大学に入って、それでまぁどこか大手にでも就職できればいいやなんて、そりゃあ周りからしたら俺のことをうらやましがるだろうが。
気だるい気持ちでその日僕は教室の後ろの方で授業を受けていた。経済学がなんのやくに立つのかさっぱりわからない。放課後仲間たちとテニスをやっていると絵里香がやってきた。
「何?」僕は冷たくいう。
「ねぇ」
「なんだよ」
「どっか行こうよ」
僕たちはその日、歩いて東京から郊外へと抜け出して遠くへいった。どこまで歩いていっても欲しいものはなかった。
僕は絵里香と並んで歩いて、そして盛んに自慢ばかりしていた。絵里香は適当に相槌を打ちながらうつろな目で歩いていた。
「眠いの? 飽きたの?」僕は聞く。
「別に」
そっけなく絵里香は笑う。
周りが畑だらけのところに出てきたとき、ふいに絵里香がポケットから一本の小さな木の棒を取り出した。
「何するの?」と僕は聞いた。
「いいから見ていて」
絵里香が空に向かって棒をかざすと、そこから一筋の光が空に向かって伸びていった。きれいなオーロラのような光だった。
ふいに大地が揺れ、波動のような波が辺りを覆った。僕が何か言おうとすると彼女は人差し指を口に当てた。
棒を放り投げると、空の暗闇が裂ける。空が裂けて宇宙が目前まで迫ってきた。
絵里香は歩き出す。
「これはいったい?」僕が言う。
絵里香はただ笑っていた。空気が張り切れそうなほど愉快に笑っていた。
「いったい何が起きるの?」僕は激しい不安に襲われながらそう聞く。
「世界が終わるのよ」
また絵里香は高い声で笑い続けていた。
「ねぇ」
「何?」僕はそう聞く。
「寂しい?」
「なんで?」
絵里香は僕の胸に人差し指を突き立てた。
「どーん」
絵里香がそう言った瞬間、心が燃えるのを感じた。
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