506神猫 ミーちゃん、ドラゴンライダ~?

 二人はこの町の生まれ、ご両親も健在で実家で暮らしているそうなので宿舎は不要だそうだ。


 その分給料に上乗せしてくれと言ってきた。さすが元行商人リアリズム


 二人を連れて商業ギルドに移動し、シェーラギルド長に面会を求める。すぐにギルド長室に案内された。



「これはブロッケン辺境伯様。領地の巡検ですか?」


「さすがシェーラギルド長、お耳が早い」



 ハンターギルドも独自の通信網を持っているから、商業ギルドも持ていてもおかしくはないけど、つい先日のことなのに早いな。



「情報は商人の命。ですので当然です。それで、どのようなご用件で? お呼びいただければお伺いしたものを」


「いえいえ、ギルドは中立。貴族の権威は通用しませんから、用事のある私が伺うのは当然です」 


「み~」


「ブロッケン辺境伯様のような貴族ばかりならよろしかったのですが」


「それはお互いさまでは? 私は貴族色に染められていませんからね。逆に嫌悪してるほうです。それから、屋敷や役所にいる以外は神猫商会の副会頭として来てますので、ネロで結構ですよ」


「そ、そうですか? 辺境伯様がそう仰るのであれば……ネロ様で」



 シェーラギルド長も貴族の出。まあ、落し処はこんなところだろう。



「それで今日伺ったのは今回の陞爵で領地が増えました。それを踏まえ、合同の商隊のルート変更をお願いしようと思いまして」


「み~」



 東辺境伯領の南がうちの領地になったので、そっちの村にも行商を出さないといけない。



「確かトレストの町までが割譲されたとか。かなりの広さになりますね」



 トレストは中規模の町で元東辺境伯領の第三都市だった場所。基本、行政管理はフォルテで行うので、代官を置く予定はない。今は宰相様が手配した役人が町の管理をしている。



「なので、商隊を三つに分けて別々のルートで村々を回り、東街道手前にある村で合流では無理でしょうか?」



 シェーラギルド長は頭の中でシミュレーションを行なっているようだ。これができるのは優秀な証拠。さすが、若くしてギルド長になっただけのことはある。こういう優秀な人材がうちにも欲しい。



「可能ですが、人と荷馬車が足りません」


「神猫商会から荷馬車一台とこの二人を出します。もう一台分は、ほかの商会でなんとか都合してもらえませんか? そうすれば二台編制で回れます」


「そちらの方たちは確か……」


「ケーラと言います。先日まで行商人をしていました」


「アデルと言います。本業はハンターでしたが、今回、ケーラと一緒に神猫商会にお世話になることになりました」


「み~」



 なんだ? 二人共緊張気味だ。相手がギルド長だからか? 俺はこれでも辺境伯なんだけど、こいつら緊張のきの字もなかったよね?



「飛ぶ鳥を落とす勢いの神猫商会様に入れるなんて、あなたたち運がいいわ。励みなさい」


「「はい!」」


「わかりました。神猫商会様で一台荷馬車を出していただけるのであれば、もう一台は何とかしましょう」



 交渉成立だ。帰って準備だな。



「残念ながら無理じゃのう」


「えっ、なんで?」


「み~?」


「身ごもっておるからのう」


「みっ!? み~」


「ありゃ……」



 余っていた荷馬車を、うちにいるバロ二頭に引かせようとしたんだけど無理そうだ。おとなしいわりに、やることはやってるんだね……。ミーちゃんは赤ちゃんが産まれると喜んでいるけど。



「となると、バム一頭のほうがいいかな?」


「そうじゃのう。バロと違って寂しがり屋じゃないからのう。力もあるしのう、この荷馬車なら一頭で十分じゃのう」



 ベン爺さんにバムを一頭とハーネスなどの馬具も買って来てくれるように頼んだ。


 そして、ベン爺さんが買ってきたバムは若い雌。



「バムも可愛いですね。姉さん」


「み~」


「これでも竜の一種、格好もいいよ~」


「み~?」


「バムもバロも走竜と呼ばれるけど竜じゃないぞ?」


「「まじっ!?」」


「み~」



 宗方姉弟は知らなかったようだ。まあ、俺も教えてもらうまでドラゴンの一種だと思っていたからね。


 向こうのコモドドラゴンとお同じだろう。あれの本名はコモドオオトカゲ だったはず。バムもバロがトカゲなのかは知らないけど。



 次の日、荷馬車をミーちゃんバッグに収納し、バムを連れフォルテに向かう。



「こんなに早く自分でバロを操る日が来るなんて……」


「これで私もドラゴンライダー!」


「バムもバロもドラゴンじゃないから! ドラゴンが聞いたら気分悪くして喰われちまうぞ!」


「み~?」


「やですよ~。飛竜ならともかくドラゴンはそうそういませんよ~」


「竜の島の近くのヴィルヘルムでさえ見かけるの稀なんですから~」


「み~?」



 その稀のドラゴンに君たちは会っているんだよ! まあ、気分悪くすることはあるだろうけど、食べられることはないと思う……多分。



「み~?」



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