507神猫 ミーちゃん、わかればよろしいのです~。

 帰ろうかと思ったらハンターギルドのヘルダギルド長からのアポがあったというので、役所のグレンハルトさんの執務室で待っている。


 役所の人が入れ替わり立ち替わりきて、グレンハルトさんは忙しく働いているのに、俺はのんびりとソファーでお茶を飲んでいる。悪いとは思っているけど、適材適所。俺が手伝っても邪魔になるだけだ。


 コルネは白狼のモフモフにじゃれついて埋もれている。ミーちゃんも白狼のモフモフに飛び込むけど、コロネの猫パンチがカウンターで決まり撃沈。



「みぃ……」



 はいはい、ミーちゃんは悪くないよ~。ミーちゃん、悲しそうな顔で俺の膝の上で丸くなる。



「ヘルダギルド長がお越しです」


「通してくれたまえ」


「ついでにお茶もお願い。みんなの分もね」


「承りました」



 グレンハルトさんの秘書さんにお願いする。グレンハルトさんのほうが俺なんかより威厳があって貴族らしいからか、秘書さんが苦笑い。今からでもグレンハルトさんに代わってもらえないかなぁ。



「はぁ……本当に五闘招雷が書類仕事をしてるなんて、驚きさね」


「似合わんかね?」


「いや、そっちの辺境伯様なんぞより、よく似合ってるさね。驚いているのは、あんたはこっち側に来ると思っていたからさ」



 グレンハルトさんは次代のギルド長候補だった。本部付きになってもおかしくない人だったから、ヘルダギルド長がそう思ってもおかしくはない。



「ハンターギルドで魑魅魍魎の相手をするのは嫌でね。本来は剣術指南役として雇われたのだが、今の状況では致し方あるまい」


「ははは……すみません。グレンハルトさんが優秀すぎて替えがいません」


「本部もさぞや無念だろうさね。子飼いを潰され、目を付けていた代え難い人材を掻っ攫われたんだからねぇ。ブロッケン辺境伯様は天敵さね。しかも、爵位が上がって手も出せなくなったからねぇ」



 ははは……目の敵にされるのは構わないけど、逆恨みなんだよねぇ。流れでそうなっただけで、他意はないのだけど、信じないだろうね。あまりにもピンポイントすぎて。



「それで、御用とは?」


「み~?」



 グレンハルトさんの秘書さんが用意してくれたお茶を飲みながら、ヘルダギルド長に問う。なかなかいいお茶だ。美味しい。


 ちなみに白狼とコルネは、お皿にミーちゃんのミネラルウォーターを出してあげてる。コルネは飲まないかなと思っていたけど普通に飲んでいる。なぜだ!?



「なぜってねぇ。商業ギルドに顔を出して、ハンターギルドに顔を出さないのは如何なものかと思ったのさ。さすがに、辺境伯様を呼び出すわけにいかないからねぇ、この老体に鞭打ってここまで来たのさ」



 ここまでって言うほど役所とハンターギルドは離れてねぇよ! それに老体に鞭打つ? 俺より間違いなく元気でしょう!



「それは失礼。商業ギルドへは辺境伯としてではなく、神猫商会の副会頭として伺った次第。今後、ハンターギルドに用事がある時はローザリンデさんを使者にお願いしましょう」


「……すまない。冗談だよ。それだけは勘弁しておくれ……」


「み~」



 わかればよろしい。ヘルダギルド長の弱点は既にお見通し。それで、本当の目的は?



「本部からね。ブロッケン山での狩りを解禁していいと連絡があったのさね。聞いていた話と違うんでね、聞きに来たわけさ」


「細かい指示はあったのかね?」


「み~?」


「なにもないさね」


 ハンターギルド本部は俺の天敵でもあったようだ。足元の白狼も怖い顔してヘルダギルド長に唸っている。


 正直、ハンターギルド本部が何を考えているかわからない。王宮からはちゃんと連絡が行ったのだろうか? そこから確認しないと駄目だな。



「ブロッケン山の主である白狼族の牙王さんとルミエール王国は不可侵条約を結んでいます。もし、牙王さんの庇護下にいるモンスターを故意に狩ったら、ハンターギルドは牙王さんと戦争ですよ? そして、ルミエール王国も牙王さん側に立ちますね」


「み~」


「やはりね。この町のハンターはあたしが抑えているから問題ないさ。だけどね、ほかの町のハンターは無理さね。ニクセのギルド長にも連絡を入れたほうがよさそうさね」


「急いだほうがいいでしょうね。下手をすれば、ハンターがこの国にいられなくなりますよ」


「ちっ、本部はほんとに何を考えてるさね!」


「ゼストギルド長と話してみてはどうかね。ネロくん」



 ゼストギルド長だけでなくセリオンギルド長とも話しをしたほうがよさそうだ。あの二人の影響力は侮れないからね。



「はあ、偉くなってものんびりできないもんですねぇ」


「みぃ……」



 白狼を宥めるようにモフモフしながら、ため息をついてしまうのは仕方がないよね?



「み~」


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