495神猫 ミーちゃん、ネロの所信表明を聞き逃す。

「現段階ではフォルテ側の兵二百が精々。ニクセ側の兵はもしものときの、ヴィルヘルムへの後詰めにと考えております。援軍を送るまでにあと百人ほどは増える予定ですが練度が足りません。なので傭兵を追加で雇う考えです」



 と言うほかない。援軍を送るまでの間にどれほど傭兵崩れを集められるかだ。フォルテの闇ギルドを潰したせいで集まり難いだろうな。


 代わりに、東辺境伯領のほうで集めることにしよう。闇ギルドや傭兵崩れ以外にも、取り潰しに合った貴族の子弟やその兵もいるだろう。


 問題はどちらも俺が嫌われてること、フォルテの闇ギルドは俺が直接潰したし、東辺境伯領のほうは反乱を潰した中心人物は俺と言われている。


 果たして、そんな俺の元に集まるだろうか? 


 はぁ、面倒事が増える。だから貴族なんかになりたくなかったのに。まして、辺境伯だなんて……。俺の拍付けや身を守るうえでの貴族としての家格を上げようとする意味は分かるけどやりすぎだ。


 逆に多くの貴族からさらに敵愾心を集めたような気がする。わかってるのかなぁ。いや、わかってやってるんだろうなぁ。


 にしても手痛い出費になりそうだ。



「うむ。急なことだ仕方あるまいな」



 ウィリバルト団長から肯定が示されたのでホッとする。


 しかし、俺が具体的な数値を出したので、ほかの貴族は大慌て。なあなあにしようとしていた貴族も多い中、逆に東辺境伯領の領地目当ての貴族は、俺の内容を聞きここぞとばかりに兵と軍資金を出すと言い始める。


 最終的に多くの軍資金と物資、それに兵が千人、補給部隊千人が集まることになった。


 これに北の国々から来る三千の傭兵と傭兵崩れ三千が加わる。旅団クラスにはなったがどこまでやれることやら……。



「決まったようだな。ブロッケン辺境伯を総指揮官とし援軍を送ることにする。必ずやヒルデンブルグとともにロタリンギアの暴挙を食い止めよ」


「「「「はっ!」」」」


「ウィリバルト。ブロッケン辺境伯はまだ人材が足りぬ。補佐する者を遣わせよ」


「御意のままに」


「それではブロッケン辺境伯、期待しているぞ」



 そう言って王様と王妃様は退出していった。



「陛下にも困ったものだ」


「宰相殿もお知りにならなかったと?」


「聞いておらんよ」


「ネロくん、君は?」


「聞いていません……」


「「「はぁ……」」」



 宰相様、ウィリバルト団長、それに俺、ため息しか出ない。



「補佐の件。よろしくお願いします」


「うむ。信頼できる優秀な者を就かせる。安心したまえ」


「君が辺境伯とは……。なってしまったものは仕方がない。援軍出発までの間にやることは多いぞ」


「あれを献上します」


「当然だ。だが君も手伝うのだよ。当事者なのだから」


「はい……」



 そういえばウェルたちまだいるかな?


 せっかくできた貴族仲間。今後とも、いろいろと話し相手になってもらいたい。常識や儀礼なんかはルーカスがいるから何とかなるけど、やっぱり貴族の友人は必要だ。せっかくシュバルツさんが骨を折ってくれたのだ、この縁を大事にしたい。



「「「これはブロッケン辺境伯様。先ほどの失礼、お許しください」」」



 ウェルもアルもマリーも恐縮して頭を下げてくる。



「冗談は顔だけにしてくれません? さっきのように気軽でいいですよ」


「いや、冗談ではないのだが……」


「さすがに辺境伯様には気軽に話せません」


「恐れ多いですわ」


「貴族ってのはつまらないものですね。たかが爵位が上がったくらいで態度を変えるなんて。人としてなにか成長したわけでもないのに」


 周りに聞こえるように大きな声で言う。


 三人はギョッとした目で俺を見る。爵位を与えた王様に対して不敬罪と取られてもおかしくない言い方だからだ。


 なので、 



「貴様! 驕るなよ!」



 という奴が出てくるわけだ。



「貴様か。それで貴殿は何者だ? 辺境伯の私に貴様呼ばわりするのだ、覚悟はあるのだろうな」



 まあ、こういうときに役立つように爵位を上げてくれたのだろう……そう思いたい。なので、遠慮はしない。男爵だった前ならまだしも、辺境伯になった以上舐められるわけにはいかない。



「……へ、陛下に対して、ぶ、無礼であろう!」



 辺境伯になった今、俺の上にいるのは同格だけど年長の北辺境伯、あとは侯爵位を持つ方たちだ。侯爵位持ちは宰相様を含め四人しかいない。顔は確認済み。


 この男ではないのは確か。なので俺より下の爵位持ちになるので無礼討ちされても文句は言えない。しないけどね。



「その辺にしておきたまえ。君はなぜ早々に問題を起こそうとするのかね……」



 宰相様が呆れた様子で間に割って入ってくる。まあ、誰かが間に入ってくるのは予想済み。逆にそうしてくれないと困る。収まりがつかなくなり、本当に手討にしなくちゃなくなる。


 それにこうなることは、王様も王妃様もわかってやったことだ。要するにれってことと解釈するよ、俺は。なので茶番劇を続けよう。



「問題? それを言うなら今までの貴族体制が問題なのですよ。闇ギルドと繋がり、賄賂に恐喝のやりたい放題。貴族たるもの国に忠義を尽くし、民を労り、社会的責任を負わなけならないのに欲に塗れきっている」


「……」


「そんな奴らを俺は許さない! ここではっきりと言っておく。俺をその辺の貴族と一緒にするなよ! 貴族としての社会的責任と義務を怠る者は俺が辺境伯として潰す!」



 宰相様が呆れた目をして俺を見るが、口元は笑っている。



「だそうだ。身に覚えのある者は気をつけたまえ。そういった者になら、私も喜んで手を貸そう」


「ありがとうございます。宰相様。スッキリしました」


「これ以上の面倒事はご免被るよ」



 やれやれといった感じで離首を振る宰相様。本当にこれ以上関わりたくないといった感じだな。代わりにウィリバルト団長はいい笑顔だ。


 でも、これは大事なこと。


 俺の貴族としての所信表明だ。







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