496神猫 ミーちゃん、道連れにするけど地獄に行くのはお前たちだけだ~。

 いつの間にか貴様呼ばわりした貴族もいなくなっている。逃げたな。



「で、あの馬鹿は誰?」


「バリモント伯爵だな」


「貴族派の重鎮だね」


「黒い噂しか聞きませんわ」



 よし、バリモントだな、顔も名前も覚えた。栄えある貴族版ブラックリストの第一号登録者だ。



「ブロッケン辺境伯は貴族がお嫌いなのですか?」


「はっきり言えば嫌いですね。それからネロで結構」



 三人とも、俺がはっきりと嫌いと言ったことに顔を引きつらせている、その引きつらせた表情が、暗にその嫌いな貴族の上位者に、あんたはなったんだぞと示している。



「貴族がいなくても国は成り立ちます。ヒルデンブルグ大公国がいい例でしょう。彼の国のように中央集権体制に移行すればいいのです」


「だが、それでは世襲する王の器量により政治が不安定になる」


「それは貴族がいたとしても変わりません。逆に王に才能があっても、貴族が腐っていれば政治は腐敗しますよ?」


「だけど、中央集権では王に負担がかかりすぎるのでは?」



 すぐ近くにヒルデンブルグ大公国というお手本になる国があるのに、なぜ学ぼうとしないのだろう? それだけ貴族制という悪習が根強いということか。



「そうならないような体制を作ればいいだけの話。官僚にある程度の権限を持たせ、裁量権を与えればいい」


「それでは貴族と変わらず、腐敗するのではないですか?」


「その権限を持つものは世襲ではなく、能力での登用にして在任期間も限定すればいい。続投も不可にすれば尚いいだけでしょう」


「だが、そんな権限を持たせたら大変なことになるぞ?」


「誰が一人に持たせるといいました。権限を分割して多くの官僚に裁量権をもたせるんですよ。そして、それを監視する完全に政治から独立した部署も作ればいい」



 すべてはヒルデンブルグが行っている政治体制だ。大公様は国の長であるが絶対的な権力者ではない。最後の決定権は持っているけど、ちゃんとした理詰めでの理由がないと可決否決ができない。なかなかよくできた政治体制だ。



「政治に関わる者は公僕でなければならない。国や民の利益より、己個人の利益を優先させる者は政治に関わるべきではない」


「それではやりたがる人がいないのでは?」


「甘いですね。いくらでも出てきますよ? 貴族という既得権益者がいなくなれば、すべては能力主義になる。能力があるのに平民というだけで、世に出られなかった者たちがどれほどいると思います?」


「「「……」」」



 貴族からしたらはした金の給与でも、平民から見れば大金だ。ちゃんとした待遇と福利厚生もしっかり決めれば、希望者が多すぎてヒルデンブルグのように試験制になり、さらに優秀な者がそろう。



「この国の人口から見て貴族の割合は一割にも満たない。その一割にも満たない貴族だけで政治を行なっているのです。貴族の中で優秀なのはその一割の中のさらに一割にも満たない。優秀ならいいが、無能な貴族までもが政治を行なっている始末。これでまともな政治ができるわけがない」


「それを私はやっているのだがね」



 関わり合いたくないと言っておきながら、自ら顔を突っ込んできたね。宰相としては言わないわけにいかなかったのかな?



「おっと、これは失礼しました。そのお馬鹿たちの長でしたね。ですがそのお馬鹿が減り優秀な者が増えれば、宰相様も安心してお休みになれるのでは?」



 あれも必要なくなる。ヤバいクスリではなくミーちゃんのミネラルウォーターだからね?



「以前、それを行なおうとしたお方がおられた」



 前国王様だね。だが、ことを急ぎすぎ貴族派の反感を買いすぎて毒殺された。しかし、その時と今は状況が違う。



「ですが、東辺境伯が自滅した今こそ、ロタリンギアを撃退しゴブリンキングを倒せば陛下の威信は盤石。その時こそが千載一遇の機会だと思いますが?」


「ならば、陛下のために口先だけではなく君がそれを為してみよ。まずはそれからだ」


「簡単に言ってくれますね。ですが、これも乗りかっかた船。言われずとも全力で当たりますよ。そして、その時はこの地位をお返しします!!」


 その時は、多くの貴族を道連れにしてこの地位を辞するつもりだ。いや、必ずする。これは決定事項だ。そうすれば王様も文句は言うまい。


 こんな地位返して、念願のスローライフを始めるのだ! 



「「「「……」」」」



 おっと、興奮して声を荒げてしまったな。我ながら大人げない。


 シーンと静まり返った場で、ウィリバルト団長のパチパチと拍手の音が響く。



「ブロッケン辺境伯のその心意気、感服した。その思い陛下もお喜びになられよう。私もその気概を見習わなけねばならぬな。私もまだまだ未熟者よ」



 ウィリバルト団長の痛烈な皮肉に顔を歪める者が多くいる。こういう奴らを大勢道連れにしなくてはならない。


 辞めるにしても面倒くさいなぁ。



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