468神猫 ミーちゃん、ドワーフの化学知識に驚く。

 訝しむギルド長の目を真っ直ぐに見て答える。



「出来ると思います。なので、そのための実験が必要なのです。売っていただけませんか?」


「そんなのが出来たら、ドワーフの国はひっくり返るほどの大騒ぎになるぞ……」



 だろうね。ダイナマイトが出来た時も世界中が驚いたろう。



「戦争に使われることは悲しいことですが、今後それ以外でも大いに役に立つはずです。今まで危険と隣り合せで行っていた作業が、安全に行えるようになります」


「だがなぁ。その技術は秘匿されるのだろう?」


「最初のうちはそうなるでしょうね。ですが、秘匿したところでいつかは情報なんて漏れますよ。その辺は国と国とで話し合いを持ってもらうしかありません。材料はドワーフの国でしか作れないんですから」



 ドワーフの国から材料を輸入してルミエールでつくる。あるいはドワーフに技術提供する代わりに販売権を得る。その辺は宰相様辺りが考えることだ。



「わかった。譲る。だが。条件がある」


「なんでしょう?」


「み~?」


「完成したら見せてくれ」



 まあ、そんなことなら問題ない。渡すわけにはいかないが見せるくらいならいいだろう。



「わかりました。いいでしょう」


「み~」



 物が物だけにギルド長自ら案内を買って出る。町はずれまで馬車で移動し、鉱山の坑道近くにある横穴を利用した倉庫に来た。


 ここは液体爆薬専用の倉庫らしい。作りも頑丈そうで、厳重に保管されている。


 壁に固定された棚から、これまた厳重に固定された木箱を持ってきた。木箱は更に南京錠がされている。木箱の中はクッション材として藁が入っていて、陶器の瓶がいくつか入っていた。



「どれくらい必要だ?」



 倉庫内を見渡しざっと木箱の数を数えると五十箱くらいある。



「取りあえず、十箱ください」


「そんなにか?」



 この液体爆薬、鑑定すればニトログリセリンと出ている。製造はドワーフの本国で作られ、専門の運び屋が運んでいるそうだ。ショックを与えると爆発するので、運び屋は収納スキル持ちとなる。


 ミーちゃんバッグと違い収納できる量は決まっているので、製造コストが高いうえに運送コストも高額なので、非常に高額となる。


 これは必要経費だ。神猫商会とは全く別口。ブロッケン男爵としての仕事になる。多少お金が飛んで行っても利権に一齧りでもできれば莫大なお金が転がり込む。


 ちなみに、銃、黒色火薬、褐色火薬は製造するにあたり利用料がブロッケン男爵に支払われる契約を、ルミエールとヒルデンブルグとも交わしている。


 クロスボウ関係は宗方姉弟が水飴と同じく利権を放棄している。この世界に迷惑をかけた謝罪のつもりらしい。なので、その売り上げも医療の発展に使われることになった。


 用意された木箱をミーちゃんバッグに収納してもらう。


 しかし、ニトログリセリンを作れる化学力を持つドワーフって凄くね? 少々、この世界の化学を舐めていたかも。



「なるほど、収納持ちか」


「み~」



 別の倉庫に移り違う箱を見せられる。黄色い粉だ。鑑定すると発火剤とある。材料名が出てこないのは、俺の知識にないからなのだろう。


 とても簡単に火が付きやすく、火が付くと激しく燃え、そして短い時間で燃え尽きるらしい。液体爆薬の起爆剤に使われるそうで、導火線などにも使われる。これも購入だ。


 ギルドに戻り精算。総額で五千万レト以上支払った。戦争は消費するだけで生産性はないというのがわかったね。儲かるのは死の商人くらいなものだ。


 これでダイナマイトの素が手に入った。あとは珪藻土だ。ニトロセルロースの粉末と合わせても、強力な爆薬となる。


 ニトロセルロースで思い出した。ダイナマイトもいいが、無煙火薬も作りたい。意外と化学知識のあるドワーフなら、俺の求めるものを持ているかも。


「ゼルガドさん、硫酸と硝酸って知ってますか?」


「み~?」


「知ってるぞ」


「まじで!?」


「鍛冶を嗜む者なら知ってて当然だぜ?」


「み~?」



 なるほど、金属加工で硫酸などを使うのは知っていたけど、こっちの世界でも常識だったのか……。やはり、ドワーフの化学知識、侮りがたし。



「ここでも売ってるぞ。買うか?」


「薄めていないものをください!」


「お、おぉ、新しい領主様は変わり者か?」


「み~」



 ミーちゃんもギルド長も失礼ですよ! 俺は至って普通です! フツメンです! フツメン……自分で言って悲しくなるね。イケメン潰れろ~!



「ちなみに珪藻土なんてありません?」


「珪藻土だぁ~。その辺にいくらでもあるだろうが!」


「まじで!?」


「まじだ」



 山肌が見える場所に連れてこられ、白っぽい地層の一つの指差すゼルガドさん。鑑定すると珪藻土と出ている。まさか、こんなに簡単に見つかるとは……。


 材料が全て揃ってしまった。



「よし、帰るぞ」


「えぇー、観光しないんですか?」


「観光の醍醐味はその場所でしか食べれないものを食べることなのだ!」


「じゃあ、好きなだけ食べて来たらいいさ。帰りは自分たちで帰ってこいよ」


「み~」


「「オーガだ……」」



 よし、帰って実験だ!



「み~!」



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