396神猫 ミーちゃん、あるぇ~?

 貧民街の奥にどんどん入っていく。ドナドナされながら……。


 貧民街ではぐるぐると遠回りすることなく城壁のそばまで来て、やっと一同が止まる。


 ミーちゃんを抱っこしているニーアさんや俺の周りを囲んでいる護衛と思われる人たちから、そういうことに鈍い俺でもわかるくらいピリピリとした緊張感が伝わってくる。緊張というより恐れに近いような感じ?



「お久しぶりでございます」


「おやおや、誰が来たかと思えば珍しい人が更に珍しい人をお連れだねぇ」



 ニーアさんと話しているのは話し声から高齢のご婦人のようだ。正直、声からはこんな貧民街には似つかわしくない気品が感じられる。


 近くの家の中に案内されて中に入ると、やっと被っていた袋と目隠しが外される。そういえば、護衛の人たちがいなくなっている。


 目が慣れてきて周りを見れば貧民街とは思えない豪華な部屋だ。目の前にいるご婦人も貧民街の人には見えない。温和な笑顔を浮かべているけど目だけが違う。騙されてはいけない、あれば間違いなく肉食獣の目だ。


 今まで会った人の中でも相当にヤバイ感じがする。義賊ギルドのミストレティシアさんと対を張るんじゃないだろうか。でも、俺の直感スキルは何も反応していないので、敵ではないのだろう。


 まあ、王妃様やニーアさんがそんな所に連れて来るわけないけどね。



「ふーん。あのもの好きな王妃が気にいるのもわかる。見かけは軟弱そうに見えるが……猫の皮を被ったドラゴン。というところかい。なるほど、義賊ギルドが尻尾を振るのもわかったよ」


「み~?」


「それで、そっちが今話題の子猫様かい。確かに気品がある。だけど……そっちの男爵よりヤバイねぇ。この私が鳥肌が立ってるよ。こんな感覚いつぶりだろう……」



 このご婦人さっきから一人でブツブツ何かを言っているけど、俺はどうすればいいのかな? ここに設置していいのかな?



「フレア様。例の場所に案内をお願いします」


「ああ、そうだったねぇ。それで、私もその儀式を見ても構わないんだろう?」


「はい。代わりに、転移門の検証をお願いします」


「はあ……こんなババにあれをくぐらせるかい。あんたたちはいつもいつも鬼畜だね」



 ニーアさんがぴくっと眉が上がる。そして、無言でさっさと行けと目で命令している……こ、怖いんですけど。ミーちゃんもニーアさんの腕の中でプルプル震えています。本当は俺の所に戻りたいようだけど、今逃げ出すのは得策ではないと理解している。でも、目で怖いよ~って訴えかけてきているんだよねぇ。ごめん、無理……。


 部屋を移動して豪華な客間に行き暖炉の上にある置物を何やらいじっていると、あら不思議反対側のクローゼットが動いて階段が現れる。いつも思うけど、どういった仕組みなんだろう?


 階段を降りるとドアがあり、中に入ると数人の男がカードゲームで遊ぶのをやめて直立不動になる。



「先代」


「通路を開けな」



 部屋の奥は鉄格子になっており、三人の男が鉄格子にある三つの鍵穴に鍵をさす。さらに、もう一人が戸棚に隠されていたレバーに手を掛ける。



「三、二、一。よし」



 掛け声と共に同時に鍵を回しレバーを下すとガチャと音がした。四人同時で動かすとは……それに鍵を回す方向も三人とも違っていた。かなり凝った解錠方法のようだ。 解錠のネックレスで開くのだろうか? 駄目駄目、好奇心は猫を殺すという。


 少し進むと少しだけ広い空間がある奥はまだ続いているようだ。



「ネロ様。お願いします」



 ここでいいのかな? ニーアさんがいいと言うのだからいいのだろう。


 空間の真ん中に紙を燃やして転移門を設置。体から何かが抜けていき空中に魔法陣のようなものが浮かぶ。成功だね。その場から一本下がりニーアさんたちに場を譲る。



「これが転移門でございますか……?」


「恐ろしい男だね……こんなあっさりと転移門を作るなんて……」



 と言われても、他の人が転移門を作っているところを見たことがないんで、なんとも言えない。



「じゃあ、行ってみるかね」



 そう言って、決死の表情でフレアさんが転移門に入って行く。そこまで必死になってやることですかね?


 数分後に何か釈然としないような表情のフレアさんが転移門に現れる。



「どうでございました?」


「あぁ……問題ないよ。自分で確かめたらいいさ」



 ニーアさんがミーちゃんを俺に返してきて、転移門に入り消える。



「あんたいったい何者だい。王妃に取り入り貴族になり、義賊ギルドを手懐けたことといい。闇ギルドやマフィア連中を潰した策略といい……何が目的でこの国に来たんだい?」


「み~?」



 そうだね。ミーちゃん。この人はいったい誰のことを話しているんだろうね? 俺か? いやいや、そうだとしたら途方もない勘違いだよ。


 いつ俺が王妃様に取り入った? 義賊ギルドを手懐けた? 策略で闇ギルドを潰した? 誰だよ、それ! ミーちゃん、俺、そんなことした?



「み~」



 だよねー。フレアさんの妄想に付き合う必要はない。だけど、フレアさんは危険なものでも見るような目で俺を見る。無視だ、無視。



「素晴らしいものでございます。ネロ様」



 珍しくほんの少し頬を上気させたニーアさんが戻って来た。



「ニーア。この男のことはどこまで調べたんだい?」


「どういう意味でございますか? フレア様」


「この男は危険だよ。あの義賊ギルドの先代女帝ともやり合ったあたしがこの男に恐怖を感じる。お前に代は譲ったが腕も勘も鈍っちゃいない。そのあたしの本能がこの男を恐れているのさ」


「……」


「み~!?」



 なんか~シリアスな展開!? って、ミーちゃん俺たち当事者なんですけど……。



「み~?」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る