318神猫 ミーちゃん、あっま~い!

 箱の留め金を外して開けてみる。


 黒い砂? いや、違うな。何かの種のようだ。鑑定してみる。砂糖カブの種とでた。砂糖カブ? 砂糖大根、甜菜のことか? 名前の通り砂糖の原材料だろう。確か北海道で栽培されてたという記憶がある。寒冷地の植物だろうか? これもベン爺さんに丸投げ案件のようだ。

 


「それ、なんですか? ネロさん」


「砂糖カブの種らしい」


「砂糖大根じゃなくてカブ~?」


「同じような物だと思う。でもこれで砂糖が作れるようになるかもね」


「「あっま~い!」」


「み~!」



 ルミエール王国やヒルデンブルグ大公国でさえ、砂糖は南の大陸からの輸入に頼っている。サトウキビはあるらしいけど、種や苗は香辛料と同じで国外への持ち出しが禁止されている。必然的に砂糖は貴重で高額になるのはしょうがない。


 この世界で甘味料と言えば蜂蜜になる。養蜂も行われているし、蜂型のモンスターの巣には大量の蜂蜜があるそうで、その巣の蜂蜜を専門に狙うハンターを蜂蜜ハンターと呼ぶ。なので、蜂蜜は豊富に出回っている為、庶民でも比較的手に入れやすい。


 だけど、蜂蜜は毎日食べるには味がくどい。料理などに使うにも他の素材との兼ね合いを考えないといけない。やはり、砂糖が使いやすい事は否めない。まあ、それでも、黒砂糖が主で白砂糖なんて物はまだ見てない。確か白砂糖を作るのに遠心分離機が必要だったはず。見てないのは当たり前か……。


 それでも、黒砂糖とはいえ貴重品には違いない。だからこの砂糖カブの栽培に成功して砂糖が精製できるようになれば、少しは砂糖の値段も下がっていく事が考えられる。


 もちろん、麦芽糖と合わせて神猫商会の主力商品の一つとして売る! ミーちゃん、ウハウハだよ!



「み~!」



 宗方姉弟とそんな話をしてる間にペロ達は残りの貴重品を集め終えたようだ。ご苦労さん。


 本当ならここでゆっくりと休みたいところだけど、少しだけ休憩して安全地帯を見つけるべく探索を開始する。スライムは本当に厄介だ。




 朝から探索を始めて十八時間が過ぎようとしている時に、やっと安全地帯を見つけた。皆、疲れて床に座り込みぐったりしている。明日は少しゆっくりとしよう。


 疲れた体に鞭を打って、夕食を作り風呂の用意もしておく。


 ん? なんで俺だけ休めないんだ?



「み~?」



 皆は流石に疲れているせいか言葉少なげに夕食を食べ、風呂に入り寝てしまった。食事の後片付けは明日にして、俺も風呂に入って寝よう。


 風呂に入ってテントに入ると、セラを抱き枕にレティさんは幸せそうな顔して寝ている。黒豹姿のセラだと温かいし丁度良い抱き心地だろうね。俺もミーちゃんを抱っこして寝ることにしよう。



「み~」




 朝、うるさくて目を覚ます。一晩ゆっくり寝て、腹ペコ魔人達がお腹が空かせたらしい。なんて燃費の悪い奴らだ。


 朝食を食べた後、お茶を飲みながらジンさん達と話をしている。この安全地帯に転移門を設置するかだ。正直、六階層の蟲モンスターは素材的に魅力が無い。それに対してこの七階層のスライムは準備さえしっかりとすれば倒しやすいモンスターで、稀に落とすポーション類は非常に魅力的だと思う。


 今現在、安全地帯の出入り口には、わんさかとスライムが蠢いている。安全なこの場所からでもスライムを倒す事は可能だし、この安全地帯を中心に活動している限りピンチになっても逃げ帰る事ができる。



「そんな簡単に転移門なんて作れるのかよ?」


「次元竜の烈王さんに五組分作ってもらいましたので、問題ありませんよ」


「み~」


「ここなら対策さえしっかりとすれば、駆け出しのハンターでも稼げるっす。俺は賛成っす」


「ルーの言う通りではあるんだが……」


「取り敢えず設置して、運用はセリオンギルド長にお任せで良いんじゃないですか?」


「ハァ……また面倒な事にならなきゃ良いがな」


「み~」



 そこは、ギルドにお任せって事で。


 安全地帯の端で転移門の紙を燃やすと、毎度の如く何かが体から抜けていく感じがする。後はギルドに行って燃やした紙と対になる紙を燃やせば転移門の完成。すぐには戻らないけどね。



 ゆっくり休んだおかげで皆十分に気力体力が回復したので探索を開始する。安全地帯の出入り口に蠢いていたスライムは、ペロによって迷宮産松明で燃やされ尽くされている。



「積年の恨みにゃ~」


「「にゃんこ先生……弱い者いじめに見えるよ」」


「楽しいから良いのにゃ」



 さあ、君達。遊んでないでさっさと行くよ。


 探索中のスライム退治はトシにお任せ。最初はペロが松明でスライムを燃やしていたけど、どうやら飽きたようだ。



「にゃんこ先生~」


「松明で燃やすの面倒にゃ。トシに任せるにゃ」


「そんなぁ……」



 頑張れトシ。運が良ければ下の階層に降りる道はすぐに見つかるかもしれないぞ。これまでの経験上、たいてい安全地帯の近くに下の階層に降りる道があったからね。


 予想通り、探索を始めて一時間程で下の階層に降りる階段を見つける事ができた。


 階段を降りると一本道になっている。



「これって……もしかしてにゃ?」


「ああ、もしかしてだぜ」


「なんです? にゃんこ先生」


「オークの時と同じなのだよ。トシくん」



 宗方姉の言う通りのような気がする。モンスターの気配をまったく感じ無い。これはルーさんとレティさんに先行して見てきてもらった方が良いかもね。まあ、結局戦う事には変わりないけど。



「み~」


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