み~ちゃんの異世界放浪記 その捌

 ○とある住人の独り言



 私は見ている。いつもみんなを見ている。


 ミーちゃんは可愛い。食べてしまいたい程だ。本当にあの可愛さで神の眷属なのだろうかと思ってしまう。


 いつもネロと一緒で、あまりネロの傍を離れない。離れるのは、妹や弟達が居る時くらいだ。本当の妹、弟では無いが、それ以上に慕い慕われている。ミーちゃんもあの子達にはとても甘くこれでもかと言うくらい可愛がっている。あの子達は姉であるミーちゃんを見つけると、全身で喜びを表現し甘えまくるのだ。姉と言うより、母親に近いのかもしれない。


 だからといって、ミーちゃんは、差別している訳では無い。みんなを同じように分け隔てなく愛しているのだ。いつも優しく慈愛に満ちた笑顔でみんなに接している。あの笑顔を向けられると。ちょっとした嫌な事など吹っ飛んでしまう程だ。


 分け隔て無い笑顔……違うな。一人だけ、そう私が知り得る中で一人だけ特別に愛されてる者が居る。そう、ネロだ。


 ネロは正直、頼りない。頭は悪くない、機転も利くし心優しい奴だが、何故か頼りなく見えてしまう。修羅場も潜り抜けて来ているはずなのに、それ相応の雰囲気を漂わせないのは、その幼い容姿からなのだろうか?


 だが、人を引き寄せる魅力はその頼りなさを補っても余りあるだろう。ネロの周りには多くの人が集まる。まあ、その魅力の半分はミーちゃんのお陰でなのかもしれないがな。


 ブロッケン山を治める白狼族の族長、南の島に住む上位ドラゴン、ルミエール王国の王族、ヒルデンブルグ大公国の大公、常人では信じられない程の力を持つ者達と縁を結んでいる。


 やろうと思えば、国を興し大国にする事も可能なのではないだろうか? 本人は面倒だから興味が無いとは言ってるが、謙遜なのか本当に面倒くさがりなのかは判断に苦しむところだ。


 ミーちゃんとネロの周りには変わった者も多い。その代表なのが、妖精族のケットシーであるペロだろう。


 ミーちゃんを姫と慕い、ネロと兄弟のように仲が良い。ケットシー族は余り他の妖精族と関わり合いを持たないと聞く。他の妖精族は助け合う為お互いの集落を近くに作るのに対して、ケットシー族はどこに集落があるのか聞いた事がない。いくつかの部族があるらしいが部族間でさえ、余り交流がないと言う。


 なのに、好奇心は旺盛で物怖じしないところから、いろいろな場所で目撃されている不思議な妖精族だ。お調子者だが、情に厚く義侠心も強い。これだけ良い心を持つ種族なのに、同じ妖精族と関わりを持とうとしない事が不思議でならない。


 剣術の腕もなかなかで、素早さを活かした攻撃は目を見張るものがある。ニャイトになるのが夢と言っていたが、ニャイトとは如何なるものであろう?


 他にも、異常な脚力を持ったバトルホースのスミレ姐さん、元気な白狼族のルディ、ネロは翼の生えた子犬と称するホワイトドラゴンのシュトラール、神猫商会で働くドラゴン二人? 二頭? 、最近はこの辺りでは珍しい魔族の女。あげればきりがない程、ミーちゃんとネロの周りには多くの者が集まる。斯(か)く言う私もそのうちの一人だろう。


 私は見ている。そして、これからも見続ける。この安らぎの場を守る為に……。





 ○とある少年のハンターの初陣の日



 少年は悩んでいた。


 同年代の友人知人は既に街の外に出て、先輩ハンターの荷物持ちや薬草採取などの依頼を受けて見習いハンターとして頑張ているのに自分はまだ街の中に居ると。


 ハンターになるのには年齢制限が無い。ハンターと言っても全ての者が強者と言う訳ではない。ハンターには大きく分けて二種類のハンターが居る。街の外に出てモンスターと戦える強者的ハンターと街の中でいろいろな依頼を受ける日雇い的ハンター。日雇い的ハンターはハンター資格は持っているが、ハンターと名乗らないのが暗黙の了解となっている。


 少年には、最近まで病に臥せていた母と妹が居る。母親が働けない状態だったので少年が働いたお金で何とか生活していた。少年がハンターとして街中で稼げる額などたかが知れている。


 そんな時に、短時間で普段では見られない高額の依頼を見つけて依頼を受けたが、その依頼はハンターギルドの規則の抜け穴を狙った者による詐欺行為で片棒を担がさられるうえ借金まで負わされるものだった。


 少年が見事に騙され借金を負いそうになった時、白い子猫を連れた青年? に助けられる。それは後にハンターギルドの本部を揺るがす事になるのだが、この少年には関係無い事。


 その白い子猫を連れた青年に助けられた後も、いろいろ便宜を図ってもらい母親の病気も良くなった。なので、本来の目的であり夢である強者たるハンターを目指そうとするがお金が無い。他の同年代の子達は自分で稼いだお金で必要最低限の装備を買い、街の外の依頼を受け始めている。


 同年代の子で街の外に出ないで依頼を受けている者達もいない訳では無いが、そう言う子は家の事情によりハンターになれないか、貧しい家の子で強者たるハンターを諦め日雇い的ハンターとなる事を決めた子達だ。


 少年は一歩も二歩も出遅れてしまっている。性格的に心優しいので年下の子達や貧しい家の子の依頼を受けてしまう事にもためらいを感じているのだった。


 そんなある日の早朝のハンターギルドで、久しぶりに白い子猫を連れた青年と会い挨拶を交わす。少年は思う、白い子猫は本当に天使のような可愛さだと。


 青年はいつも少年の事を心配してくれる。今日も会って居なかった間の事を聞かれ素直に友人などより出遅れている事を話した。



「ペロ! ヤン君も一緒に連れてってあげなよ」



 少年は一瞬、青年が何を言ってるか理解できなかった。少年はペロと呼ばれる者とは面識がある。最初に会った時は獣人のユンだと思っていたが、ケットシーと聞いて驚いていた。ペロは今ではハンターギルドのみならず王都でもその愛らしい姿から密かな有名人でもある。



「任せるにゃ。ペロがビシバシ鍛えてやるにゃ!」


「あー、ルーさん。よろしくお願いしますね」


「にゃ、にゃんでにゃー!」



 ルーさんと呼ばれた青年は獣人のセルで、猫獣人特有の均整のとれた体格をした見るからにハンターと言う格好をしている。


 少年はこの漫才のような会話の間で青年がいってる事を理解して、外に出るような装備を持っていない事を告げると、青年はどこからともなく小剣と短剣に可愛らしい弓矢一式を出して来て渡すのであった。



「こんな凄い装備、僕には払えません……」



 少年の心から出た本心の言葉だろう。誰が見ても、見習いハンターが持つような代物ではない。特に弓は見た目が美しいと言うより可愛らしい装飾がされている特注品にしか見えない。今の自分には身売りしても払い切れないと思っても仕方がない事だろう。



「今度、ヤン君に頼みたい事があるからね。貸しって事にしておくよ」



 その後、青年は防具を買うお金をケットシーに渡して、ギルドに併設されている酒場に行ってしまい。ケットシーに手を引かれ、依頼を受ける事になる。


 依頼を受けた後、外に出て改めてお互いに挨拶する。お互いと言ってもルーと呼ばれるセルの獣人とだけである。ケットシーと何故か少年が抱いている黒猫とは面識があるからだ。



「俺はルーチル、ルーで良いぜ。得意分野は斥候だ。剣もそれなりに使えるからよ。前衛は任せろ」


「ヤンです。弓はギルドで練習してるので少しは使えます。剣はまだ使えませんがモンスターの解体は得意です」


「おっ! それは助かるぜ。なんせ、うちのパーメン解体できねぇからな」


「にゃ! ひゅ~、ひゅ~」


「にゃ……」



 この後、防具屋に寄りレザーアーマー一式を買い街の外に出て行く事になる。


 こうして少年のハンターとしての道が始まるのであった。





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