292神猫 ミーちゃん、会議に出席します。

 翌日、部族の代表とその護衛、それに食料を載せた荷車を引いて街の跡地に赴く。猿獣人さん達と戦後処理を話し合わなければならない。それに全ての獣人の今後の事も話し合う必要がある。どちらかというと、戦後処理はおまけかな。


 事前に街の跡地の偵察は済ませてあり、伏兵などが無い事を確認している。街の中央部に神殿のような建物があり、そこから六階層に降りる階段がある。その手前に今回話し合いをおこなう場所が急遽作られた。作ったと言っても陽射しを遮る大きなテントなんだけどね。そこにテーブルを円卓状に設置して、猿獣人さんの代表と俺が向かい合うように部族の代表が座る。


 猿獣人さんの代表は女性のようだ。



「新しく長になりました私が代表を務めさせて頂きます」



 前の長は息子の仕出かした事の責任を取って、娘に長の座を譲ったそうだ。新しい猿獣人の長は終始謝り続けて話が前に進まないので、申し訳ないけど発言を控えてもらう事にした。



「確かに猿獣人達がした事は遺憾で度が過ぎた事ですが、他の部族のみなさんは今回の騒ぎを起こした首謀者も亡くなっている事から許すと言ってます。今後は獣人としてみなと協力して困難を乗り越える努力をして下さい。それがあなた達に科せられた償いだと思って頂きたい」


「承知しました……」



 猿獣人の長は涙を流しながら他の部族の代表に頭を下げている。猿獣人の長には悪いけどこれからが大事な話し合いになるのでスルーさせてもらう。



「そして、今回こうして集まってもらったのは、そんな罪を問うのではなく根本的な解決策を考える為です」


「み~」



 代表の方達みな頷いている。根本的な事を解決しない限り同じ様な事が起こるのは目に見えているからだと思う。今回はたまたま猿獣人さんだっただけで、次は部族同士の全面戦争になってもおかしくはない。



「みなさんに一つお聞きしたい事があります。みなさんは何故この迷宮で暮して居るのですか?」


「我らの先祖が魔王に滅ぼされそうになった時に神人様によって助けられ、この地に住むように言われたからと伝わっております」



 狼獣人の代表が答えてくれた。他にも出ようとしたが出る術が無かったとか、出る理由が無かったからなどの声もあがる。



「理由はどうあれ、今の状況は深刻です。人が多くなり過ぎ食糧需給が追いつかなくなってきています。まあ、食糧だけなら神猫商会を通してこの地に持って来る事は可能なのですがね」


「み~」



 そう言うと、代表の方達はパッと明るい顔を見せて、それなら問題ないと言う顔もしている。



「ですが、それでは根本的な解決にはなっていません」


「どうしてでしょうか?」


「我々に食糧と交換する物が無いからですか?」



 犬獣人さんと猫獣人さんの代表が問いかけてきた。迷宮内に住んではいるけど、流れ迷宮の事は知らないので仕方のない事なんだけど。そこで、自分達が住んでいる流れ迷宮について説明をした。



「では、四、五年すれば外の人達はまた来なくなると?」


「そうなると思っていた方が良いと思います。みなさんの話を聞く限りこの迷宮が外に現れたのは数百年ぶりの事だと考えられるので、もしかすると次に外に現れるのも数百年後の事かも知れません」


「み~」


「「「「……」」」」



 明るい顔から絶望に突き落とされた顔になってしまった。



「そこで、提案です。迷宮の外に移住する気はないですか?」


「み~」


「「「「移住?」」」」



 自分は神猫商会と言う商売する為の店を持っている事、故あってみなさんが住むには充分な土地も持っている事を話す。



「ですが、どうやって外に出るのですか? みなさんが護衛してくれたとしても、どれくらい時間が掛かるかわかりませんよ」


「それも、問題ありません。ここと迷宮の外を繋げる道をすぐに造りますので」


「おいおい、そんな簡単に口約束して良いのか? ハンターギルドは簡単に動かねぇぞ。それともあれか? 国でも動かせたか?」


「ジンさん、流石にそこまではしませんよ。どこにも縛られない転移師に頼んで、その為の道具を作ってもらいました」


「それってモグリって事か? ヤバくねぇか?」


「なので、ご内密に……」


「み~」


「……」


「あのう、外と行き来ができるのであれば移住は必要無いのでは?」


「出入り自由なのはこの迷宮が外に現れてる間だけです。なので、いつかは使えなくなります」


「そうなのですか……」



 この件は早急に持ち帰って話し合いをしてもらう事にする。



「次の議題に移りますね。ここと外を繋ぐ道を作ると、ここに我々以外の人が訪れる事になると思います。その為の宿泊場所の提供をお願いしたいと思っています。この街の跡地にそれ用の建物を造ってもらいたいです。ついでに当分の間の管理もお願いします。もちろん、外から来た人からは対価をもらってくださいね」


「それは構いませんが、このような所に人が何しに来るのですか?」


「モンスターを狩りにです。迷宮のモンスターから取れる素材は貴重ですからね。特にオーク狩りは必ず来るでしょう」


「あの化け物をか!」


「信じられん……」


「現に我々はあれを倒してここに来てますので」


「み~」


「そんな連中をここに連れて来るのは危険じゃないのか?」



 御懸念はごもっとも。なのでここの迷宮の出入りを管理しているハンターギルドの事を説明して、そう言う不埒な事をする者は入れるつもりは無い事、もし何かあったら別のハンターないし外のハンターギルドの出張所の職員に通報する事を話して聞かせる。



「例え、道を繋がなくても遅かれ早かれはそうなるので、今のうちにきちんとハンターギルドと取り決めを交わした方が良いと思います」


「み~」



 みなさんワイワイガヤガヤと話をしている。移住を考えるとは転移門を作る以外考えられないので仕方がない。細かい取り決めはセリオンギルド長と俺達がしないと駄目だろうね。



「み~」





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