167神猫 ミーちゃん、夢の中です。

 ユーリさんが来て十日経ちました。人が多いと楽しいですね。日本に居た時は離婚寸前の仲の悪い両親と暮らしていたので、会話なんてほとんどなかった。


 今は、ルーさんにユーリさん、ルーカスさん達と楽しく会話をしている。。もちろん、ミーちゃん達もね。



「み~」



 この数日は、ヴィルヘルムを往復してました。神猫屋は順調な売り上げを見せています。大工さん達も頑張ってくれてるお陰で店の表側が完成しつつあり、神猫屋の知名度が確実に上がっているので店の表側が完成したら屋台から店売りに移行しようと思っている。アレックスさんとクラウディアさんにもその事は話している。


 味噌と醤油を作っている村にも足を運び増産をお願いした。なかなか良い返事がもらえず、増産施設の建設費を神猫商会で半分出す事と新しく作った施設で増産した分は、神猫商会で全て買い取る契約をしてなんとか了解してもらった。


 烈王さんから預かったお金を少し使ってしまったけど仕方ない。カティアさんに相談して、借入れとして処理してもらっている。経理上はね。


 スミレが連れて来た馬達もだいぶ良くなってきたので、順次体調の良い馬からベン爺さんが調教を始めている。


 そんなある日の寝ている夜中に、セラ、ルーくん、ラルくんが急に唸り出した。



「誰か居るみたいにゃ。ペロにははっきりわからないにゃ……おそらく凄腕にゃ」



 窓を開けるとセラが飛び出した。続いて装備を整えたペロ。俺はライフルを準備して窓際で外の様子を伺う。



「誰にゃ!」



 ペロが暗闇に愛刀虎徹の剣先を向けた。セラも臨戦態勢に入っている。騒ぎに気付いたルーさんも剣を持って外に飛び出してた。ユーリさんも窓から弓を構えている。



「使いの者だ。争う気はない……」



 黒ずくめ姿の数名が闇の中から姿を現す。



「ここが誰んちかわかって来てんだろうな!」



 ルーさんが珍しく怒気を含んだ声で夜中に訪れた無粋な者達に問いただす。



「我らが首領よりネロ殿に手紙を渡すよう預かってきた……」


「フンッ、顔洗って昼間出直しな!」


「いろいろこちらにも事情があり昼間は勘弁して頂きたい。それに直接お渡ししろと厳命されている」



 仕方ない降りて行くか。ミーちゃんはまだ夢の中のようだね。ルーくん、ラルくんミーちゃんと一緒に寝ててね。



「がう」


「きゅ~」



 着替えて下に降りて行くと、箒を持ったララさんとヤナさん、ベン爺さん、ルーカスさんとカティアさんが緊張した顔つきで立っていた。



「申し訳ないですけどお茶の用意をお願いします。ララさんとヤナさん、ベン爺さんは休んでください」


「「ですが……」」


「……」


「承知しました。お三方はお休みください」



 三人は渋々と言った感じで部屋に戻って行く。


 外に出るとまだ、睨み合いが続いている。



「話を聞きましょう。中に入ってください」


「「ネロッ!」」


「ここで睨み合いを続けても仕方ありません。それに、相手に興味もあります」


「「「……」」」



 リビングに入るとユーリさんが完全武装で待っていた。



「ユーリさん、疲れてるんだから休んでください」


「気にしないでください。こんな事ぐらいしかお役に立てないので」


「カイはどうしたんです?」


「ミーちゃんの傍に置いてきました」



 なら、安心かな。ルーくんもラルくんも居るからね。


 黒ずくめの者達で家に入って来たのは一人、他は外で待機してるようだ。相手をソファーに促して自分も対面のソファーに座る。


 ペロ、ルーさんが黒ずくめの者の両脇を固めユーリさんが俺の後ろに立ち、セラが黒豹姿のままで俺の足元で待機している。黒ずくめの者が少しでも怪しい動きを見せれば一瞬で串刺しになるだろうね。もちろん、俺も手に銃を持ってますよ。



「お茶の用意ができました」



 ルーカスさんがそう言って、俺と黒ずくめの姿の者の前にティーカップを置く。



「どうぞ」


「頂こう……」



 黒ずくめの覆面を取り表した顔は若く二十代前半くらいの女性、声でわかってはいたけどね。髪の毛は真っ白、肌も真っ白と言うより青白い。目は片方が紅、もう片方が青オッドアイってやつだね。顔立ちは良いのに纏った雰囲気が全てを打ち消している。打ち消すと言うか幻めいたと言うか存在感が希薄と言うか、しっかりと見てないと消えてしまいそうな感じ。特殊なスキルなのかもしれないけど、隠蔽スキル持ちのようで鑑定が効かない。



「魔族……」



 ユーリさんからポツリと声が漏れる。


 魔族と言っても魔物じゃない。人族の一つの種族には変わりがない。ちゃんとした種族名があったようだけど、今は魔族が通称になってしまったようです。その昔、魔王との戦いに敗れ、魔王にくだり他の人族と戦った事から魔族と呼ばれるようになったと本に書いてあった。今はその魔王に反旗を翻して魔王を倒し勝利して、北の地に国を建てている。この辺で見る事はあまりないらしい。暑いの苦手って事だし。



「旨いな……」


「おかわりは?」


「頂こう……」



 この面々に囲まれこの図太さ、恐れ入ります。



「それで、ご用件は手紙の配達だとか、日中では駄目だったんですかね?」


「暑いのが苦手でね……涼しい夜に伺った。手紙を渡して帰るつもりだったが、まさかその前に見つかるとは……」



 やっぱり、そうなんだ……それとも冗談? 顔や声からは判断がつかない。



「で、誰なんです? あなたの首領ボスは?」


「魔王」





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