162神猫 ミーちゃん、下でお昼寝中です。

 ミーちゃん、テラ、カイの熱烈な歓迎を受けてからギルド内の酒場に居る。時間もそろそろ昼時、目の前ではミーちゃん達が猫缶をハムハム食べてます。



「可愛いわねぇ~。その子達、ネロ君の?」


「この子、ミーちゃんはうちの子です。こっちのテラは統括主任補佐のパミルさんの子で、このカイは買い取り主任補佐のユーリさんちの子です。どちらもミーちゃんの弟、妹分です」


「み~」



 そう言えば、ちゃんとした自己紹介がまだだったのでしておいたよ。


 エルフの女性はローザリンデさん、妖艶の幻弓と言う二つ名持ち。ロマンスグレーの渋い男性はグレンハルトさん、絶剣と言う二つ名持ち。二人共、この国のハンターのトップファイブに入る実力者だそうです。最後の方が俺より少し年上と思われる、ジークフリートさん。グレンハルトさんの弟子だそうです。


 注文していたランチをマスター自ら運んで来てくれた。海鮮ピラフです。見るからに美味しそう。マスターもお魚の定期購入をしたいそうです。今回はお土産だからね。ギルドの経理に申請して通ったみたいなので、後で経理から書類が届けられるのでよろしくという事でした。



「本当に商人なのだな」


「あら、隠れ蓑って事もあるわよ」



 別に俺にはどうでも良い事、さあ頂きましょう。うん、美味い。魚介から出た出汁がバターの風味と相まって何とも言えないこの味、なんとも贅沢な味です。通常ランチの値段の倍ですけどね。それでも、凄い人気メニューだそうです。



「クイントのギルドの食事も旨いが、ここも素晴らしいな」


「あたりめぇだろ。どっちもネロが教えた味だ。確かクアルトの宿でも同じ味が楽しめるんだっけ?」


「クアルトの憩いの宿木亭の事ですね。あそこのみなさんにはお世話になったので。クイントの『グラン・フィル』、公都ヴィルヘルムの『グランド ヴィルヘルム ノルド』の料理長にも教えてますよ。ですが、みなさんそれぞれ工夫を凝らしてますから同じ味ではありません。本当に腕の良い料理人の方々ばかりです」


「『グランド ヴィルヘルム ノルド』って言ったら超高級宿じゃない~? そんな所にまで出入りしてる神猫商会って凄いのねぇ~」


「み~」


「クイントの『グラン・フィル』と言えば、英雄セリオン殿の隠れ家と言われる名店。一見いちげんでは入れぬと聞く、一度は行ってみたいものだ」


「私もクアルトの憩いの宿木亭の事は聞いています。とても繁盛していて宿をとる事だけでなく、食事をするのも難しいと聞いています。ですが、見習いハンターや中堅ハンターでも泊まれる良心的な値段で、運が良ければ飛び込みでも泊まれるそうです」



 アンナさん達元気にしてるかなぁ。



「み~」



 食事を終えるとゼストギルド長から声が掛かった。ミーちゃん達はお昼寝タイム、カウンターの上の籠の中で仲良くお寝んね。ちょっと行ってくるね。



「なんとも、壮観じゃのう。五闘招雷のうちに三人が目の前におるとは」



 なんすか、その五闘招雷って? チュー太君のチューチュー病の様な呼び名は。



「陛下からのご依頼では断れぬであろう」


「残りの二人にも話が言ったのであろうか?」


「行ったんじゃな~い。どこに居るかは知らないけど~」


「筋肉ダルマはどっかの山に居たはずだぜ、狂人の事は知らねぇ」



 なんか物騒な二つ名も出ましたが……。



「ネロ君の差し金かのう?」


「全く関わり無いですね。王妃様が助っ人呼ぶって言ってましたから、そちらでしょう」


「なる~。それで、ヒルデンブルグで飛龍に追いかけられたんだぁ~」



 追いかけられたって……あんた逃げたんかい。



「いやぁ~。流石に捕まったわよ~」



 でしょうね。ここに居るって事は。



「して、ネロ君がここに居ると言う事は、例の件じゃな」


「勇者が攻めてくるそうですよ。ギルド長」


「なんと真か! ロタリンギアもなんと言う暴挙に出たものじゃ……この国を落としたところで周りの国はどこも、もう信用などせんぞ」


「構わないんじゃないですか。一国ずつ勇者に潰させていけば済む事です」


「それでは、魔王と変わらぬではないか!」


「ロタリンギアとしてはどちらでも良かったんですよ。勇者でも魔王でも……用がなくなれば消すだけですから。そもそもこの勇者召喚、ロタリンギアが考えたものなのでしょうか……」


「なんじゃ、ネロ君らしくない、奥歯に物が挟まっとるような物言いは」


「いろいろ考えてはいたんですけどね。今の魔王の話でパズルのピースがはまった気がするんです」


「パズルのピースと言う物が何か知らんが、何かが繋がったと言う事じゃな」



 ジンさん達とギルド長室に居るパミルさん達幹部の方達も話について来れてない。実際、未だに勇者の事はごく一部の人しか知らされてない事なのかもしれない。



「ロタリンギアはどこで、勇者召喚の方法を知ったのでしょうか? あまりにも都合が良くありませんか? 自国にオークキング、仲の良いとは言えない隣国にゴブリンキング」


「誰かの入れ知恵と言う事か……」


「そうです。自分に都合のよい召喚方法」


「神の加護を持たぬ勇者かのう」


「闇落ちの可能性」


「勇者ならぬ魔王誕生じゃな」


「世は乱れ、国が衰退して人族の力が弱まる。誰が得をすると思いますか?」


「魔王じゃな……」


「そう、魔王です」


「ロタリンギアの後ろで操るのは魔王じゃと?」


「全ては推測です。ただの状況判断から導き出した推測に過ぎません。ですが……」


「当たらずと遠からずじゃな……」



 部屋全体が水を打ったような静けさに包まれています。誰も一言も発しず、唾を飲む音すら聞こえそうな緊迫感。


 あぁ~、ミーちゃんをモフりたいぃ~!



「み~」



 遠くでミーちゃんの鳴く声が聞こえたような気がしたよ……。





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