132神猫 ミーちゃん、黒真珠王になる!?

 契約書にサインして執事さんにお返しする。



「そうか、引き受けてくれるか」


「私達だけで動けば利益は出ます。我々が動けない時は、その時に考えます。なんとかなるでしょう」


「み~」


「どうしても、片道となるとな受ける者がいなくてな」



 そうだろうか? 確かに微妙な距離だし次の街まではブロッケン山越えになるから足を伸ばすのをためらってしまうのはわかる。メリットは大公様とお近づきになれる事くらいしか無い。無いけど、それが重要なんじゃないの? 大公様はああ言ってるけどやりたいと思う商人は大勢居ると思うよ。本来ならポッとでの神猫商会に依頼が来る案件ではないよね? 王妃様、様様だと思う。


 大公様が足元にスリ寄って来たセラを抱きかかえて、ちょっと難しい顔をしてから話題を変えて来た。



「ゴブリンの本拠地を攻撃した話は聞いたかな?」


「マーティンさんから」


「ロタリンギアについてはどうだ?」


「アンネリーゼ様より聞き及んでいます」


「我らが盟友であるドラゴンの烈王殿が……猫を連れた若者に会いたいと言ってきている。おそらく、ネロ君の事であろう」



 はぁ? 何故そこでドラゴンさんが俺に会いたいと言う話が出てくるんでしょうか? 俺、ドラゴンさんに面識ないよ。ミーちゃんある?



「み~?」



 ですよねぇ。ある訳ないよねぇ。



「な、なんででしょうか?」


「わからん。明日、船を用意するので自分で行って聞いて来ると良い」



 行くのは確定なんですね……。



「誰かついてきてくれるのですか?」


「港までは我が船で、その後は竜が案内してくれよう」


「はぁ……」



 その後の話は、レーネ様の事にルカや新しい友達の子猫レアとノアの事をお話したら大変喜んでくれました。昨日差し上げた蒸留酒も入手困難な事を知っており大変喜んで頂けたようです。


 帰る際に、明日の九の鐘に港に行くように言われ、王宮をお暇しました。


 港に魚を買いに行く前にお昼にしようと、港近くの食堂でみんなと昼食にする。焼き魚に魚のスープ、魚のフライのサンドイッチ、とてもおいしかったけど、ソースかタルタルソースがあれば、尚ベターだったかな。


 こないだの市場に来たけどほとんど魚がなかった……。朝来ないと駄目らしい。めぼしい魚もなかったので、魚は明日の朝にしてバザーに行くことに変更しよう。



「残念にゃ……」


「にゃ……」


「がぅ」



 いや、明日来るからね、明日。ちゃんと買うから……。


 バザーを物色して見て回り買い物をしていく。ミーちゃんが俺の肩の特等席から何かを見つけてテシテシ叩いて来る。おぉー、これは来たんじゃないですかぁ?


 と思ったら、そこは真珠を売っているお店でした。ミーちゃん、な~に?


 ミーちゃんが見ているのは店の端に置かれた黒真珠。あれを買えと?



「み~」



 もしかして、気にいっちゃった?



「み~」



 お店の方に黒真珠を欲しいと言うと奥からも出して来てくれた。余り取れないと聞いてた割に結構あるね。一つ一つ見るのも面倒なので、全部買いますと言ったら泣いて喜んでくれた。一粒百レトから二百レトくらいだと思う。ほぼ捨て値だね。


 その後、バザーを見て回っていると何故か真珠を扱っているお店の人に声を掛けられまくる。黒真珠買ってくれって……。業界の情報って早いね。結局、とんでもない量になってしまった。その後も、今いる宿を聞かれ在庫も買って欲しいって……。


 ど、どうしようか……。この辺の黒真珠、全部集まるんじゃない? ミーちゃん、黒真珠の元締めだよ。



「みぃ……」



 黒真珠だけに黒歴史……。



「ネ、ネロ! きゅ、急にこの辺寒くなったにゃ……」


「にゃ……」


「がぅ」



 ま、まさに、俺の黒歴史に刻まれた瞬間だよ……。



「みぃ……」




 バザーで食品が中心に売られている場所の端の方に来た時、ある店に目が行く。小さいお店でお婆さんと五、六才の女の子がやっているお店のようで、陶器製の容器が数個並んでいる他、籠の中に小さい丸いこげ茶色の物体が入っている。


 ま、まさか……こ、こんな所で出会えるなんて、いや、気候的にはあってるのか?



「これ、味噌ですか?」


「おや、お兄さんはご存知なのかい」


「じゃあ、これはもしかして……醤油?」


「あれま、醤油まで知ってなさるか。珍しい」


「全部、買います!」


「へ? ほ、本当かい!」



 小さい丸いこげ茶色の物体は味噌玉、味噌を小さく丸くして乾燥させた物。陶器製容器に入っていたのは濃い醤油、たまり醤油ってところかな。



「そんなに、旨そうにゃにゃいにゃ……」


「ペロくん、君は甘い、ひじょ~に甘い、ミーちゃんの餡子より甘いのだよ」



 ミーちゃんがペロをペロペロ舐め始めた……い、意味が違うからね。



「みぃ……」



 ミーちゃん、後で餡子舐めて良いから、その恨めしい顔で見るのやめて……。


 ほ、ほら、女の子と遊んで来て、まだお婆さんとお話する事が残っているから。ミーちゃん達と女の子にクッキーを出してあげ、俺はお婆さんと話を再開する。


 お婆さんの話によると、お婆さんの村は勇者の子孫なんだそうだ。ルミエール王国とヒルデンブルグ大公国の王族も勇者の子孫ですよねって言ったら、誇らしげに頷いてから笑って自分達もその子孫だよって言っていた。


 その勇者は稲作を伝え、味噌、醤油の作り方も残したらしいけど、この国はパン食が主流。それに作られる米はインディカ米、味がねぇ。パンに勝てなかったんだろうね。


 それでも、勇者が残した味を途絶さない為、作り続けてるそうです。素晴らしい。その勇者は日本人だった可能性が高い。


 お婆さんにもっと欲しいので明後日に村に行きたい旨を話すと、村人も喜ぶと言って村の場所を教えてくれた。ヴィルヘルムから馬車で一時間の場所にあるので、スミレならすぐだ。


 さあ、宿に戻って調理場を借りよう。醤油に味噌楽しみですよ。味噌汁くらいなら、ミーちゃん飲んでくれるかな?



「み~?」





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