103神猫 ミーちゃん、騎士様にキレる。

 多くの荷馬車を追い越して夕方には白亜の迷宮に到着した。


 ほんの数日前に来たばかりなのに迷宮の形相けいそうが変わっている。もともとある石造りの防壁を囲むように新たに木材で防壁が築かれつつある。相当大きな砦になるようだ。


 防壁前の森も伐採が進んでおり、広大な平地に様変わりしていた。


 砦の門に居た兵士に第三騎士団の団長ベルンハルトさんに取り次ぎを頼み、砦の中に入る。


 先程の兵士が戻って来て、ベルンハルトさんの居るテントに案内された。



「これは巡察使殿、良く来られた」


「だいぶ作業が進んでいるようですね」


「まだまだだよ。本気でこられたら、この程度ではひとたまりもないだろう」


「そうなんですか……。それで、一緒に行く騎士団の方の選定はお済みですか?」


「嗚呼、今呼びに行かせている。明日早朝出発で良いのかな?」


「はい、予定は五日間。そこで何かしらの情報が得られれば良いのですが……」


「アイクです。お呼びと伺い参上しました!」



 テントに一人の兵士が入って来た。年の頃は二十代後半くらいかな。



「巡察使殿達と同行させる、アイクだ。剣の腕は私が保証しよう」


「失礼ですが、その格好で行かれるつもりですか?」


「何か不都合でも?」



 蒼竜の咆哮並びに暗闇の牙のみなさんが、顔を見合わせている。やれやれだぜって感じかな? それもそのはず、フルプレートアーマーと言ってよい程の重装備。騎士団の正規の装備なのかもしれないけど、本気なのでしょうか?



「その装備では今回の調査に不適切です。我々に合わせてください」


「しかし、これは騎士団の正規の装備品。私は騎士に誇りを持っています」


「そうですか……。それでは今回の件はなかったと言う事で」


「待たれよ、巡察使殿。何がいけないと言うのだね?」


「そんなガチャガチャ音をさせてたら、相手に見つけてくださいって言ってるものでしょう。我々は偵察に行くのであって、戦いに行くのではありませんよ」


「「……」」



 蒼竜の咆哮、暗闇の牙のみなさんが、うんうん頷いている。この人達、本当に気付いてなかったのかな? 騎士団って頭の固い人達ばかりなんだろうね。困っちゃうよ。



「みぃ……」



 ミーちゃんでさえ、呆れ顔だよ。




「では、どうしろと?」


「もっと、軽装備でお願いします。道なき道を自分の脚で歩くんですよ。そんな重装備だとすぐ疲れて動けなくなりますよ」


「わ、わかった準備させよう。他に必要な事はあるかね?」


「ここまで乗ってきた馬の世話をお願いします。特に私のバトルホースは一日一度、門の外に放してください。後は勝手に戻ってきますので」


「それは、本気で言ってるのかね?」


「本気ですよ。なので、お願いしますね」


「承知した……」


「それでは、明日早朝出発です。よろしくお願いします」




 翌朝、出発する前にスミレの所に行き、少しの間一人にさせるけどみんなに迷惑かけないようにねって言ったら、ぶるるってネロこそ迷惑かけるんじゃないわよってこずかれた。解せぬ。


 ミーちゃんとセラ、ルーくんはスミレと鼻をくっつき合わせたり、スリスリさせている。ペロもスミレを撫でようとしたら、角でこずかれていた。



「スミレにゃんは、ツンデレさんにゃ……」



 他のみなさんも準備ができたようだ。集合場所の門に行くと……目の前の光景に顎が外れそうになった。


 第三騎士団のアイクさん、確かに装備は皮鎧に変えてきた。きたのだけど、背中に背負った荷物が尋常な量じゃない。おそらく、アイクさん本人と同じ重さくらいあるんじゃないだろうか?



「ネロ君、連れて行くのは無理なんじゃないかな……」



 ミュラーさん、俺もそう思っていたところですよ……。




「ベルンハルトさん、やっぱり今回の件はなかった事にしてください。と言うより、趣旨をご理解頂けて無いようで残念です」


「どう言う事かね?」



 王都に駐留する騎士団は三つ、第一騎士団はエリート中のエリート、第二騎士団は第一騎士団に多少劣るもののエリートに違いない騎士団。


 第三騎士団は第一、第二騎士団に入る事ができなかった貴族の子弟が中心になって構成された騎士団。決してコネだけで入れるものではないけど、貴族として育ってきた経緯もあり一般常識にズレがあるのは否めないのかもしれない。



「せっかく軽い鎧に変えたと思ったら、それ以上に重い荷物……。もしかして、何も言わなければあの鎧を着たまま、この荷物を背負っていくつもりだったんですか?」


「だが、必要じゃないのか?」


「騎士団の演習ならそれでも良いでしょう。ですが、今から行く場所は騎士団の演習場ではありません。我々、全員の格好を見て何とも思わないのですか?」



 蒼竜の咆哮も暗闇の牙も収納スキル持ちがいる。俺達にはミーちゃんが居るから荷物は全て収納してもらっている。せいぜい、リュックや肩掛けバッグしか身に付けていない軽装備。



「ミュラーさん、すみませんが、必要最低限の物に選別してもらえません?」



 蒼竜の咆哮のルーさんとシャイナさんが嬉々として、アイクさんの荷物を選別し始める。


 いやぁー、出てくる事、出てくる事、こんなの何に使うのかって物まで入っている。正直、香水が出てきた時には手が震えたね。投げつけてやろうかなって本気で思ってしまったよ。


 選別終了すると、三分の一になった……。それでも、相当な重量になる。仕方ないので、ミーちゃんバッグに収納してもらった。


 そこでなんと、耳を疑う言葉が聞こえたではないですか……。



「収納スキル持ってるなら、全部入れろよ」



 はぁ……良かれと思った行為が逆効果だったとは、情けないです。ミーちゃん、悪いけど今の荷物そこに捨てて頂戴。



「み~!」



 ガッシャと地面に荷物が散らばった。周りのみんながビクッと体を震わせる。



「な、何をする!」


「アイクと言ったな。お前、巡察使を舐めてるのか? ベルンハルトさん。流石にこれは頂けませんね。この事は宰相様に報告させて頂きますよ」


「お、お待ちください、巡察使殿!」


「さて、我々は出発します。馬鹿に構っていられません」



 今の言葉で、始めて自分が犯した事に気付いたのかアイクさんは顔を青くさせてブルブル震えている。ベルンハルトさんもどうして良いかわからないと言った様子で、棒立ち状態のまま動かない。


 無駄な時間をかけてしまった。さてと、気を切り替えて行こうか。


 なんかミーちゃん、やり遂げた感じの表情で俺にスリスリしてくる。それにしても、ミーちゃん、良い具合の荷物の投げ出し方だったけど、もしかして、ミーちゃんもあの態度にキレたの?



「み~!」





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