51神猫 ミーちゃん、王都に向け出発する。
ミーちゃんはお腹がパンパンになったせいで立ち上がれなく、キャリーバッグの中をコロコロと転がっている。
ハァ……仕方ない、タオルを濡らしてきて餡子まみれのミーちゃんの顔を拭いてあげる。
「むみゅ……」
ミーちゃんをキャリーバッグから出してあげ目の前に座らせる。
「ミーちゃん。餡子の入ったお皿を出してみて」
「みぃ……」
綺麗なお皿が出てきたね……。
「全部食べたのね……」
「み~」
満面の笑みで美味しかったよアピールしてますね。可愛いんだけど、ここは心を鬼にして怒らなければならない時だ。
「ミーちゃん、めっ!」
「みぃ……」
「どうして、怒れてるかわかるよね」
「みぃ……」
「当分、餡子抜きね!」
「みっ! みぃ……」
「しょうがないでしょう? 明日から王都に行くんだから、作る暇ないよ」
「みぃ……」
絶望感に打ちひしがれた顔をして俺を見ている。こればかりはねぇ。でも流石に可哀そうになったので、サイクスさんに相談してみる。
「あぁ、良いぜ。いつも世話になってるからな」
と言う訳で、昨日作ったお姉さん達用の餡子から少し……いや、結構多くお皿にもらっておく。俺って甘いよね。まあ、相手がミーちゃんだから仕方がないと思う。
「ミーちゃん。今度、約束破ったらもう作ってあげないからね」
「み~」
ミーちゃんは必死にパンパンになったお腹を引きずりながら寄ってきて、俺の手にスリスリしてる。やっぱり、ミーちゃんは可愛いねぇ。そんなミーちゃんにミネラルウォーターを飲ませてからキャリーバッグに戻してあげる。ミネラルウォーターは胃腸薬替わりね。
遅いお昼を終らせるとギルド長に呼ばれた。
「これが手紙だ。王都のハンターギルドの長に渡すんだぞ。これが緊急用の手形だ、王都の門などで見せればすぐに入れる。それと、金だ。クイントで働いた分と今回の分を一緒にしてある。確認してくれ」
袋の中に金貨二十枚入っていた。
「多くないですか」
「文句があるか」
「ないです」
「なら良い。それから、この街に来た目的の物を渡しもらおう」
キャリーバッグのミーちゃんに、目配せしてあたかも俺が出したようにみせて出す。
「収納持ちか……多才だな」
ミーちゃんが、ですけどね。
「ここで引き渡しって事で良いんですね」
「構わんよ」
「帰りはどうすれば良いんですか?」
「向こうのギルド長と話してくれ。対応してくれる」
その後、エバさんとも話して王都までの地図を書き写させてもらった。王都までは大きな町は三つ各ギルド宛の手紙を預かり、書き写した地図は王都のハンターギルドに渡すように言われた。どの世界でも地図は機密情報のようだ。
「十分に気を付けていくのですよ。本当は、私としては行かせたくないのですが……」
エバさんはそう言ってお腹の膨れたミーちゃんをモフっている。どっちを行かせたくないのかは落ち込みたくないので聞けません……。
さて、準備は最終段階、後は飯だね。さっきサイクスさんに料理をお願いしておいた。それをもらってミーちゃんバッグに収納していく。ちょっと多いかな? クアルトを出て来るときの料理も多く残っている。まあ、ミーちゃんバッグの中なら問題無いでしょう。
明日は夜が明けたら出発だ。共同浴場に寄ってから帰って寝よう。
ギルドのお姉さん達が気を付けるんだよと見送ってくれる。もちろん、ミーちゃんね。良いんだよ。俺なんか……あっ、一人いた。サイクスさん……帰ろう。
共同浴場で番台のおばさんに、仕事で王都に行く事を話す。
「そりゃあ、寂しくなるねぇ」
お腹が元に戻ったミーちゃんをモフっている。誰とは聞かないよ。
今日もフルコースでお願いしました。
帰り道の雑貨屋でミーちゃん用の歯ブラシを買う。餡子食べるから歯は磨いた方が良いかなと思ったからなんだ。でも、ミネラルウォーターを飲んでるから虫歯にならないのかもしれない。まあ、たまにチェックがてら磨いてあげようと思う。
明日は早いから、早く寝ようね。
「み~」
翌朝、夜も明けぬ間から準備した。ハンターギルドではセリオンギルド長と厩務員さんが居て、厩務員さんが俺がスミレに着けた馬具のチェックをしてくれている。問題ないと判断され街の門にギルド長と向かう。
「ネロ君。帰って来たら旨い物をたらふく食わせてやる。期待しておけ」
「最低でもサイクスさん以上の腕前じゃなきゃ、納得しませんよ」
「う、うむ。あいつ急に腕を上げたからなぁ」
「それじゃあ、行ってきますね」
「うむ。気を付けてな」
門を出てミーちゃんの入ったキャリーバッグを頭から通して脇に抱える。ミーちゃん、危ないから顔出しちゃ駄目だよ。
「み~」
スミレの頭を撫でてからまたがる。
「さあ、行きますかね。スミレ、よろしくね」
ぶるるって、任せなさいって感じの仕草を見せて走り出す。
速ぇーよ! こないだは夜だったから、周りが見えなかったけど景色が流れるように変わっていく。なのに全くと言って良い程、空気の抵抗を受けない。普通ならこんなスピードで走られたら息ができなくなるだろう。これがスミレの持つ疾風スキルの効果なのかもしれない。
たまに、グラスウルフの姿を見るけど、ただの静止画のようにしか見えない。見えたと思った次の瞬間には見えなくなっているからだ。
昼前に一つ目の村に着いていた。あれ? 今日、ここで一泊だったような? 村の門番さんに村の名前を聞いたけど、やはり予定の村だった……スミレさん、半端ねぇっす!
村の共同井戸を借りて、スミレに井戸の水とミネラルウォーターを飲ませて飼い葉を与える。
スミレにそれ程疲れた様子はないね。地図を確認すると次の街までは同じくらいの距離だ。
「ねぇ、スミレ。同じくらいの距離って走れそう?」
ぶるるって、問題ないわねって仕草を見せた。
それじゃあ、行ってみるか。取り敢えず、お昼にしよう。お尻も痛い。スミレより俺の方が持つか心配だね。
ミーちゃんが猫缶を食べ終わったので出発する。途中幾つかの荷馬車を追い抜いたけど、荷馬車の御者さん達は驚いた顔をしていた。
結局、夕方前には目的の街に着いてしまった。七日も掛からないんじゃないのだろうか?
時間も早いのでこの街のバザーを見に行く事にした。少しでも金策になればね、何事もコツコツとするのが一番。
幾つかの装飾品に骨董品を購入し、恒例の武器防具漁りもやる。ハンターギルドの職員ってより商人って感じだね。
さてと、暗くなる前にハンターギルドに行きますか。
ギルドの前にスミレを繋いで中に入る。時間も夕方の為、ハンターさん達が戻り始める時間帯だ。
受付はいっぱいなので奥の人に声を掛けた。
「オイオイ、並んでるのが見えねぇのか!」
「ガキでも許さねぇぞ!」
と、ハンターさん達のブーイングが起こるけど、こちらには伝家の宝刀がある。緊急用の手形だ。
「クイントのハンターギルドから来ました。緊急用の手形も持ってます。責任者の方、対応お願いします」
「み~」
ミーちゃん、ありがとう。でも、ここではミーちゃんの影響力は無いかなぁ。
「みぃ……」
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